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日本と韓国は“危機”のエスカレーションを登ったのか?

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海上自衛隊哨戒機が韓国駆逐艦から火器管制レーダー(射撃管制用レーダー)を照射された件以来、日韓関係が悪化しています。

本件について日韓どちらが事実に即し、どちらが偶発的衝突を回避しようという態度で臨んでいたのかは、防衛省の動画で答えが出ています(韓国は何も出していないに等しい)。本件に対する韓国外交部・国防部の言動はあまりに挑発的で、ならず者国家である北朝鮮とも見紛うばかりです。

韓国側は事件当初からまるで理解できない嘘や話題逸らしを続けていますが、本日にいたっては自衛隊に対して「対応行動守則に従って強力に対応する」※1と明言しました。対応行動守則とは、「海上で他国の艦艇と哨戒機の威嚇を受けた際、韓国軍が取るべき自衛レベルの“対応マニュアル”」※2のことで、自衛権的措置、すなわち武力の行使を含みます。

韓国が武力行使に言及したことで、日韓は危機のレベルをあげた、と考えて良いのでしょうか?メモ代わりの更新です。

平時と戦争の間にある“危機”

国際政治では戦争を回避するための知恵がいくつかあります。そのひとつとして、危機管理(crisis management)という概念があります。国際紛争(国家間の問題)を抱えているけれども武力を伴わずに揉めている「平時」と、武力を伴う「戦時」という2つのレベルの間に、「危機」というレベルを差し挟み、できるだけ「戦時」というレベルに突入することを避けようというものです。


政策の失敗がすぐさま戦争へとエスカレートしないために危機≒グレーゾーンを設け、この期間を利用して互いの誤解を解いたり、妥協点を探り合ったりして多くの犠牲者を生む戦争を回避するのです。

グレーゾーンについては、『防衛白書』において「純然たる平時でも有事でもない幅広い状況を端的に表現したもの」との記述があります。危機やグレーゾーンそれ自体は新しい概念でもなんでもなく、ベルリン危機やキューバ危機などはその最たる事例です。一般に危機という前段階を持たない戦争はほとんどなく、真珠湾攻撃でさえ数か月の外交危機を経た上で戦時に至りました。

危機の捉え方

  1. 危機は相互に作用する(したがって地震などは含まれない)。
  2. 脅威を相手の敵対的軍事行動と結び付けて考えている。
  3. 事態がどのように展開していくのか予断を許さない「予測不可能性」がある。
  4. 事態のコントロールを失うかもしれないという不安「制禦不可能性」がある。
上記※3は、危機とは何かという前提のようなものです。「敵対的軍事行動」とは、一般的に戦争の可能性を意味し、通貨危機や石油危機はもちろん、戦争にエスカレートする可能性のなかったイラン米大使館人質事件や大韓航空機撃墜事件は危機管理の例には含まれません。

これらの前提に関して、まず韓国は、「危機は相互に作用する」という事に無関心ですね。次に、本件レーダー照射問題は、まかり間違えば偶発的な武力衝突を起こす蓋然性があっただけでなく、韓国は今後同様のケースで武力を行使するかもしれないという強制外交の意図を示しています。したがって、彼らによる認識の有無を考慮に入れずとも、日本から見た日韓関係は現在、“危機”の状態にあると言えます。3、4については後述します。

危機におけるリーダーの心理

危機の度合いが高まれば高まるほど、当事国のリーダー/指導層の心理は通常のものではなくなる傾向があります※4
  • 危機の時期、緊張が増すにつれ、コミュニケーションは短くなり、いっそう定式化する。
    定式化は事実を歪めるばかりでなく、事実を黒白のイメージに分解し、「敵のイメージ」の創出を促す。
  • 危機は相手方の行動に対して、敵意と暴力のレベルにおける過剰な知覚を発展させる。つまり、敵意が存在しないようなところに敵意を見てとる(希望的観測ないし自己充足的な予測によって)。
  • 自分の行動が示す敵意と暴力については、過小の知覚しかなされない。
  • このような過程を経て、紛争のらせん状況(互いを敵と知覚する二国間のミラー・イメージ状況)となる。懸念や恐怖といった知覚が、この状況下で増幅される。
  • 意思決定者は、自分や彼我の同盟国、双方の強弱に対する知覚が薄くなる。
  • 危機が増大するにつれ、意思決定者たちは次第に自分たちの選択肢の範囲がいっそう限定されるようになると感じる。
  • 意思決定者たちは、相手の選択肢は広がっているとみなす。
私も含めて、どうしても人は他者を何らかのバイアスをもってとらえてしまいがちです。「安倍首相だから○○する」とか「どうせ文大統領は□□だろう」といった個人的レッテルで定式化して互いの国の出方を憶測し、彼我の選択肢を狭めてしまうこともまた危機管理に失敗する原因となるという点は自戒しておきたいと思っています。

危機の意思決定

組織の力学と心理に注目して意思決定を見ると、「グループ思考」という心理状況が生まれます。「意思決定グループに同調圧力が加わると、現行の政策を再検討したり代替案を考えようとする動機が封じ込められて、意思決定が硬直化し、

  1. 自分の側が非脆弱であるという幻想、
  2. 集団的合理化への幻想、
  3. 全会一致が道義的にも正しいという幻想、
  4. 相手方についての固定観念、
  5. 同調しない者への同調圧力、
  6. グループの合意から逸脱しないように働く自己検閲、
という症候群」※5を示すのですが、文在寅政権にはこうした兆候が見られないでしょうか。

危機管理のジレンマ

危機においては、対決も宥和も望ましくありません。
平和の維持のためには、対決政策も「融和政策」もともに望ましくなく、その中間的方策が必要だが、ある特定の時点で、ある特定の事態に、どの程度対決的で、どの程度「融和」的な政策をとるかという判断はまことに難しい。

高坂正堯、『外交感覚 ― 時代の終わりと長い始まり 画像を見る』、99ページ。
これは、高坂正堯氏の言葉です。

そして「汝平和を欲さば戦に備えよ」という警句のとおり、高坂氏も軍事力を整えることの重要性を否定するどころか繰り返し説いていました。例えばフォークランド紛争に関しては以下のような評論をしています。
イギリスの誤りとは、いくつかの兆候にもかかわらずまさかアルゼンチンが軍事力を用いてフォークランド諸島をとるとは考えず、対応策をとらなかった点にある。

イギリスは艦艇を送るとか、海兵隊を増員することによってアルゼンチンの行動を抑止することができたし、1977年はそうした。それが今回はアルゼンチンの意図を誤認したのであり、それが自らも損をし、他国にも迷惑をかけることになった。

高坂正堯、『外交感覚 ― 時代の終わりと長い始まり 画像を見る』、151ページ。
土山實男氏は、「危機管理のジレンマ」について以下のように論じています。
機会主義的な行動に対してただ戦争を回避しようと努力することは、かえって相手に付け込まれる結果を招くだけだし、反対に防御的行動に対してもっぱら強制的に対応すれば、むしろ逆効果になって紛争はエスカレートしてしまう。

土山實男、『安全保障の国際政治学 -- 焦りと傲り 第二版画像を見る』、265-266ページ。
軍事力を背景に、すべき時にすべき決断をするというのも大切ということです。

同時に、キューバ危機などから得られる教訓として、危機管理における対話の重要性は自明です。相手の参照基準点、状況認識、動機、期待、恐怖を知るうえで、話し合いのチャンネルを維持する事は、戦時に至ってもなお必要です。

1月23日、スイスで河野太郎外相と康京和外相が会談※6したことは、安全保障における危機管理上、非常に重要なことです。他方、レーダー照射事件において、クァンゲト・デワンがP-1からの無線に応じなかった件は、危機管理上まったく擁護できません。

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