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- 2012年03月30日 11:52
希望する数だけ子どもが持てる政策の手当てを!~筒井淳也氏インタビュー回答編~
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社会学者の筒井淳也氏(撮影:野原誠治) 写真一覧
出生力を説明する要因は多様である
―前回のインタビューは、とても大きな反響を呼びました。今回は読者からいただいた質問にお答えいただきたく思います。
筒井氏:インタビュー記事について、たくさん反応や質問を頂いたようなので、嬉しいかぎりです。「いい男が…」というタイトルにびっくりされた方、どうもすみません。私もびっくりしました(笑)。
―"釣りタイトル"のようになってしまい恐縮です。さっそく質問に移りたく思います。前回のインタビューを読んで、少子化、晩婚化の原因を経済の落ち込みに求めることに、違和感をもった方が多かったようです。「国が豊かになるに連れ少子化は進む一方で離婚率は高くなる。また、貧困が激しい国では出生率が高いというのが一般的な傾向」などといった意見ですが、この点について教えていただけますか。
筒井氏:長期的にはもちろんそのとおりで、全般的に先進国のほうが出生率は低いです。
2007年の一人当たりGDP(US$換算、横軸)と出生力(縦軸)の関係を下の図に示したので、見てみてください。図は、世銀WDIのデータより私が作成したものです。全体的にマイナスの関係になっている、つまり一人当たりGDPが高いほど、出生力が低くなっていることがわかりますね。参考までに、両変数を対数変換した上で相関係数を計算すると、マイナス0.78となります。相関係数とは、2つの数字のあいだの関連の強さを表すための統計学的な計算方法のひとつで、0.78というのは強めの相関であると言えます。外れ値的な位置にあるいくつかの国は図から除外してありますので、図は参考程度にご覧下さい。
それと同時に、図からは、一定以上の経済水準に達すると、経済的豊かさと出生力の関係のマイナスの関係は消えることもわかります。同じように一人当たりGDPが高い国であっても、出生率の高低のばらつきがみられますよね。前回お話ししたように、同じ豊かな先進国であっても、出生率が高い国もあれば、出生率が低い国も出てくるわけです。このような出生力の差は、国の全体的な経済力というよりも、より内部的な要因の差によって説明されるものになります。
参考までに、経済的にあまり豊かではないが出生力も低い国の中には、ロシアなど旧社会主義国が多く含まれています。これに対して、経済的にある程度発展している国で少子化の度合いが強いグループには、東アジアや南欧諸国が多く含まれます。
経済先進国では、一部の貧困国とは違って、人びとは「貧しいので子どもをたくさんつくって生活を支えよう」とは考えません。その背景には、第一に、子どもに教育投資をしないかぎりその子どもが稼げるようにならないこと(それどころか子どもが安定職につけなかった場合、親の負担が増えてしまう)、次に老後の面倒を子どもに見てもらえるとはかぎらないこと、といった事情があります。
いずれにしろ、世界的・歴史的な視野で見た場合、出生力を説明する要因は多様であるということは確認しておきたいところです。前回のインタビューでは日本についての実証研究の成果の蓄積を紹介しましたが(したがってわたしの「見解」ではないことに留意してください)、他の国、他の時代では他の要因のウェイトが高まってきます。
―なるほど。重ねて同じような質問ですが、日本においては高度経済成長期においても出生率が上がっていませんでした。そのため「バブル期の80年代末さえ、現在の出生率~1.4とさほど変わらない出生率~1.5をつけていたことを考えるのであれば、出生率低下を経済だけで説明するのには無理があるのでは?」という指摘もありました。
筒井氏:これも繰り返しになりますが、出生力の低下はひとつの要因「のみ」で説明されるわけではありません。意識や価値観、あるいは結婚のためのマッチング行動の変化を含んだ要因の複雑な絡み合いが背景にあります。ですので、いつの時代、どこの地域においても、少子化をひとつの要因「のみ」で説明することは当然つねに無理があることで、研究者でもそのように主張している人はいません。前回のインタビューでお話ししたのは、あくまで「現代日本」における晩婚化の原因として、どのようなものが考えられるか、ということです。
―あくまで「現代の日本」では、経済の落ち込みによって安定した所得を見込める男性の数が減っていて、そのため女性側の需要とのミスマッチが生じているということなのですね。
筒井氏:そう。その上で、日本の晩婚化が1970年代以降の経済成長の鈍化から始まっていると議論している実証研究もありますし(明治大学の加藤彰彦先生の研究など)、その他の実証研究でもその知見に整合的なものがいくつかあります。したがって非正規雇用の問題が表面化した2000年代より前に、早めの段階から経済状況が少子化の要因の1つとして効果を持っていた可能性は無視できないと思われます。




