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インフルエンザ報道にみるマスメディアの問題点

インフルエンザウィルスが猛威を振るっている。
罹患者の急増とともに、報道の量も増えているが、安易な情報開示がかえって混乱を招くことにもなりかねないので、注意が必要だろう。

1/23放送のワールドビジネスサテライト(WBS)で取り上げられた新薬「ゾフルーザ」をめぐっては、「1回で効く」「今までとは異なるメカニズムで効く最新の薬」という触れ込みで報道されることが多く、患者の希望が殺到する事態になっている。

その結果、販売元の塩野義製薬が出荷調整に追い込まれるほどの供給ひっ迫をきたしている。
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医療関係者の多くは、この現象を異常事態だと感じているのではないか。

「ゾフルーザ」を単純に最新=最高の薬とみなすには、保留を付けなければならない点が多い。
日本感染症学会でも日本小児科学会でも、それぞれ変異(耐性)ウィルスの産生、データ不十分(のため安全性が未確立)、との理由で「ゾフルーザ」投与を推奨していない。

科学的にみると、有症状期間の短縮ではオセルタミビル(商品名タミフル)と比較して同程度、ウィルスの減少スピードではバロキサビル(商品名ゾフルーザ)が速い、という結果がでている。
そしてどちらも、発症後48時間以内の患者でしか治療効果が認められていない。

一方、ゾフルーザは治験時に9.7%の薬剤耐性ウィルスが出現していることから、感染症の専門家からは将来高病原性の新型ウィルスが出現したときに、今の時点で一般的に広く使われる状況は好ましくない、との見解も出ている。(日経メディカル1/24配信 岡 秀昭氏)

タミフルの耐性株問題は一時期話題になっていたが、1/21にデータ更新された最新の抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスでは、2018/2019シーズンのタミフル耐性ウィルスの検出は確認できていない。

副作用のコントロールも1回服用のゾフルーザより、1日2回、5日間服用するタミフルのほうに分がある。
一治療あたりのコストもゾフルーザがタミフルより2,069円高い。タミフルのジェネリックと比べると3,429円高い。
(仮に1000万人にゾフルーザを投与した場合、タミフルのジェネリックを使った場合と比べ、計算上342億9000万円のコスト増となる。)

先述したWBSでは、高熱を発していた中学生がゾフルーザを投与された翌日、解熱した事例が放送された。
このように一事例を前景化することは、視聴者に「強い印象」を抱かせる効果があるが、客観的な評価を隠蔽するリスクもある。

雑誌やテレビなどで情報の一側面の「強い印象」が振りまかれることで、一般市民の間での一情報の支配力が高くなり、世間が一方向に振れる、という現象は、医療情報にあっては好まししいものではない。

ある食品を健康情報番組で取り上げると、翌日のスーパーでその食品の棚が空になる現象は典型例だが、情報の一側面がある程度の権威とセットになると、強力な影響力を発揮する。

マスメディアにはインパクトがないと視聴率が稼げないという面がある。
それはわかるが、可能な限り一側面ではなく、別角度からの情報を取り上げる工夫をこらす責務もあるだろう。

「別角度から」によって情報のメッセージ性が薄くなっても、客観的情報は添えるべきではないか。
昨今の医療情報番組(特に民放)を見ていると、一方的な内容のものも散見され、製作者側の安易な見通しが目立っているように感じる。


蛇足
個人的には抗インフルエンザ薬は健常者には必要ないのではないか、と思う。
アメリカ感染症学会での推奨レベルも低く、世界的には自宅療養が主流。
1回通院し、インフルエンザ判定がでず、また次の日通院する、といった事態も日本では珍しくないが、無駄な感染リスクを高めているとしか思えない。

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