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「敗戦国」のままなら北方領土は戻らない

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本当に北方領土は日本に戻ってくるのか

「開けて口惜しき玉手箱」とは、期待が外れてがっかりすることのたとえに使われることわざである。竜宮城から帰ってきた浦島太郎が、乙姫さまからもらった玉手箱を開けると、中から白い煙が出てきただけだったというあの昔話をなぞっている。蛇足だが、煙を浴びた浦島はあっという間に年を取ってしまう。竜宮城の時間とこの世の時間の流れの速さが大きく違っていたのだ。

1月22日夜(日本時間)、ロシア・モスクワのクレムリン(大統領府)で行われた安倍晋三首相とプーチン大統領の会談は、まさに「開けて口惜しき玉手箱」だった。

今度こそ、北方領土問題の解決に大きな進展があるはずだと、日本の国民に期待させながら、ふたを開けてみると、白い煙どころか、安倍首相とプーチン氏が日露の平和条約交渉を本格化させることを再確認し合っただけ。北方領土問題の解決には何ら進展がなかった。本当に北方領土は日本に戻ってくるのだろうか。


2019年1月22日、共同記者発表後に握手する安倍晋三首相(左)とロシアのプーチン大統領。(写真=AFP/時事通信フォト)

交渉進展に必要な「プーチン氏の弱点」とは何か

昨年11月20日付のプレジデントオンラインの「北方領土2島先行で崩れる安倍首相の足下」との見出しを付けた記事の中で、沙鴎一歩は次のように指摘した。

「プーチン氏は一筋縄ではいかない。かなり手ごわい相手だ。このままでは得意技の払い腰をかけられ、1本取られるかもしれない。払い腰とは、相手を自分の腰に乗せて脚で払い上げる技だ」

会談終了後に行われた安倍首相とプーチン氏の共同記者会見では、会談の具体的内容は明らかにされなかった。安倍首相はプーチン氏から1本取ることができたのか。それとも逆に払い腰で1本取られたのか。

北方領土交渉の先は長い。交渉中に手の内をさらけ出すようなことは許されないだろうが、安倍首相がどんな技をプーチン氏にかけたかぐらいは国民の一人として知りたい。

外交交渉では相手国の弱点を突いて揺さぶることが重要である。それではプーチン氏の弱点とは何か。

ロシアは日本から大きな経済協力を引き出したい

ロシアは5年前のクリミア半島の併合を欧米各国から強く批判され、現在も経済制裁を受けている。ロシアは孤立状態にある。そこがプーチン氏の最大の弱点だ。時折見せるプーチン氏の物寂しげな表情が、それを物語っている。

22日の日露首脳会談後の共同記者会見で、プーチン氏は経済効果を強く口にしていた。あの口ぶりなどから判断すると、プーチン氏の狙いは北方領土問題を先送りにして平和条約を優先的に締結し、その結果、日本から大きな経済協力を求めようというところにあるようだ。

もうひとつの弱点が、北方領土への在日米軍の駐留である。ロシアは北方領土を返還した場合、在日米軍の駐留が実施されると懸念している。プーチン氏は昨年12月の記者会見で沖縄の在日米軍基地について「日本にどこまで主権があるのか分からない」と牽制している。ロシアは米国が怖いのである。そこでロシアは日本との平和条約交渉で日本とアメリカの関係にくさびを打とうとしている。この辺りがロシアの本音だろう。

日本はそんなロシアの思惑を逆手にとってこれからも続く交渉に生かしていきたい。

日ソ中立条約を破って、北方四島を奪った

ここで択捉(えとろふ)島、国後(くなしり)島、歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島の北方四島の歴史を簡単に振り返っておこう。

第二次世界大戦で日本は、ドイツ、イタリアと三国同盟を結ぶとともに、ソ連とは中立条約を結んで、米国や英国と戦争を始めた。ところが1945年2月にソ連(スターリン首相)が、ヤルタ会談で米英両国の首脳と協定を結んだ。ソ連の対日参戦の見返りとして千島列島をソ連の領土とするという密約だった。すでに日本の敗戦が目に見えていただけに、ソ連にとっては棚から牡丹餅だった。

ソ連は中立条約を無視して8月9日に対日参戦した。ソ連は日本がポツダム宣言を受諾して降伏した14日以降も侵攻を続け、さらに日本が降伏文書に署名した9月2日以降も攻撃を止めなかった。そして北方四島を占領した。

これが歴史的な事実だ。ソ連が弱り切った日本に対し、日ソ中立条約を破って攻撃し、その結果、日本固有の領土だった北方四島を奪ったのである。四島返還こそが、本筋なのである。

それなのにどうしてロシアは北方四島を日本に返そうとしないのか。返還すれば日ソ中立条約を破った事実を認めることになるからだ。

敗戦したがゆえに北方四島を取られても何も言えない

ロシアはヤルタ会談を持ち出して「大戦の結果だ」と主張してやまない。言い換えれば、日本が敗戦したがゆえに北方四島を取られても何も言えないのである。敗戦という事実は、いまだに日本の外交に暗い影を落としている。日本が国際連合(国連)の主要機関である安全保障理事会(安保理)の常任理事国になれない現状を考えればよく分かるだろう。

ちなみに国連安保理は、戦勝国の5カ国(米国、ソ連、英国、フランス、中国)の常任理事国と、2年ごとに国連総会で選出される10カ国の非常任理事国で構成されている。日本は2017年12月に任期が切れて11回目の非常任理事国を退いた。日本に対してはここ数年前から常任理事国に入れるべきではないかとの議論が国連にはある。

日本が北方四島を常任理事国のロシアから取り戻すことができれば、敗戦国という負い目を克服したことになる。日本の外交において大きな追い風である。

それゆえ安倍首相は焦ることなく、北方領土交渉を続けてほしい。自分の任期中に何とか形にしようとすればするほど、間違いなくしたたかなプーチン氏に足下を見られる。

繰り返すが、北方領土交渉に成功すれば、日本の外交力は増す。世界が敗戦国と見なさなくなるからだ。国連安保理の常任理事国という立場を得る可能性も強くなる。日本はまずロシアとの北方領土交渉を、目先のことにとらわれずに長い目で続けていくことが大切である。

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