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【読書感想】残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?

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 この本のなかでは、「残業のさまざまな側面」が検証されています。

 まず把握したいのは、残業が1日4時間といっても、人はそれ以上の時間を仕事のために費やしているということです。日本の労働時間は先進国の間でもトップクラスですが、「通勤時間の長さ」が状況をさらに特異なものとしています。

 特に、都心部の平均通勤時間は、往復約2時間。これを足すと、睡眠や食事以外の家族の時間や家族とリラックスして過ごす時間が、国際的な水準から見て3割以上少なくなります。

 いかがでしょうか。残業時間こそ「4時間」ですが、通勤時間が加わると、1日「14時間」が仕事にとられています。さらに通勤の準備で1時間、昼休み1時間が加算されると、16時間が仕事関連で消えていくことになります。これでは、平日に家族とゆっくり過ごす時間はほぼとれません。残業時間が長ければ長いほど、家族と過ごす時間が顕著に少なくなるのです。

 こうした暮らしを続けることは明らかに不可能で、長期的視野に立てば「個人の幸福」とは矛盾するはずです。しかし、このような生活を送っているにもかかわらず、その時点では「幸福感」を抱いている人がいるのです。

 人々の間に生じる、こうした少し矛盾した心理的状態をこの講義では「残業麻痺」と呼び、その実態を具体的に分析したいと思います。

 短期的には「残業をすることによって、幸福感を得られる時期」もある、ということなのです。
 また、年長者のなかには「自分が若いころには残業をして成長した」というイメージを持ち続けている人も少なくありません。
 日本の人口がどんどん増え、製品をつくればつくるほど売れた時代は、残業で生産量を増やすことが利益に直結していたのですが、少子化、人口減のいまの日本では、残業のメリットのほとんどが失われてしまっているにもかかわらず。
 残業することそのものが「努力の証」として評価されたり、効率的に仕事をして定時に帰っても、「それなら、残業すれば『もっとできた』のではないか?」と見なされたりする、という日本社会の慣例は、なかなか変わりません。
 残業手当目的で、業務時間中は熱心に仕事をせず、だらだらと会社に残っている人のほうが上司に可愛がられることだってあるのです。

 私は、これまで様々な企業で残業にまつわる管理職研修をしてきましたが、研修をうまく進めるためにはひとつコツがあります。
 それは、管理職の皆さんに「長時間労働を是正してください」とは最初に言わないことです。ましてや「政府が言っているから、長時間労働の是正に取り組みましょう」などといったメッセージングは絶対にしてはいけません。私はそう思います。

 むしろ、最初になすべきは「市場・環境が変化している中、このままだと自社がどのように推移していくか、経営の数字をもって語ること」です。
 そのうえで「経営のために、会社のために、長時間労働是正に取り組みませんか?」と語りかけます。「長時間労働の是正」は「手段」であって、「目的」ではありません。自社が力強く成果を残すためにこそ、この課題に取り組むべきであることを、私ならば強調あす。長時間労働は「経営のため」に是正するのだというメッセージが、管理職には最も抵抗感なく受けとられる気がします。

 ちなみに、残業施策をどのように伝えているか調査したところ「上司からの呼びかけ・号令」「上司への説明会・研修」が上位に入っていましたが、これは最も抵抗感の強い上司層から施策実施に巻き込んでいく、という意味では効果的なやり方といえるでしょう。

 残業というのは、そう簡単にやめられるものではない。
 まずは、その功罪を理解するところからはじめたほうがよさそうです。
 長時間労働を是正することは、「働いている人たちのため」だけではなくて、「会社のため」でもあるのだから。
 「残業の是正」「労働の効率化の徹底」が進んでいくと、働く側からは、「だらだらしながらでも会社にいれば、みんなが納得してくれた時代のほうがラクだった」という愚痴が聞こえてくるのではないか、とも思うのです。

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