- 2019年01月23日 12:00
卑しい人たちがいる…… - 鈴木耕
1/2汚語を連発する連中
かなり腹が立っているので、今回はちょっと言葉遣いが荒っぽいかもしれないけれど、乞うご容赦、です。
日本人って、いつからこんなに卑しくなってしまったんだろう、と感じてしまうことがあったのだ。もちろん、そんな日本人なんて、ほんの一部ではあるけれど……。
懸命に体を張って訴えている人に対して聞くに堪えないような汚語を発し、それを得々とネット上に発信する。いかに匿名性に隠れられるとはいえ、書いた自分を恥ずかしくは思わないのだろうか。しかも、これらの人たちのプロフィールを見ると「日本大好き」「日本古来の伝統を守る」「反日を許さない」などと書いてあるのが多い。
「自分と考え方の違う人間を汚い言葉で貶すのが、日本古来の伝統なんですか?」と問うてみたくなる。
こういう連中には「卑」という漢字を進呈しよう。
卑怯、卑劣、卑猥、野卑、卑屈、卑小、卑下、卑賤、卑俗……。どんな熟語を並べても、ろくな意味はない。とにかく「卑しい」のだ。
そういえば『粗にして野だが卑ではない』(城山三郎、文春文庫)という本があったな。反骨の経済人と呼ばれた石田礼助氏の伝記だ。意味は「粗野な人間ではあるが、卑しい心は持っていない」といったところか。
ぼくが腹を立てているのは、石田氏とは正反対に、その「卑しさ」をツイッター上に臆面もなく書き散らす連中のことだ。
「沖縄・県民投票」とは何か?
沖縄の県民投票が迷走している。本来なら、全県で一斉に行われるべき県民投票に対して、沖縄の5市(沖縄市、宜野湾市、宮古島市、石垣市、うるま市)の市長が「県民投票には参加しない」ことを表明したからだ。
経緯を簡単に記しておこう。
若者を中心とする「『辺野古』県民投票の会」(元山仁士郎代表)が立ち上がったのは昨年の5月。
国政選挙や県知事選で、沖縄県民が繰り返し「米軍基地建設反対」の民意を示したにもかかわらず、辺野古の埋め立て工事を強行する安倍政権。それならばもう一度、はっきりとした形で「沖縄の真の民意」を示そうではないか、という趣旨だった。
県議会に県民投票実施を提案するには、有権者の50分の1の署名(約2万4千筆)が必要だが、実際には約9万3千筆が集まった。それだけ「民意を示す投票」を県民が望んでいたということになる。
これを受けて沖縄県議会は10月26日「県民投票条例」を可決、2019年2月24日を県民投票日に決めた。これ自体、何の問題もなかったはずなのだが、危機感を抱いたのは安倍官邸だった。もし圧倒的多数で「基地建設反対の民意」が示されたなら、いくらなんでも工事強行はやりにくくなる。強行すれば本土の世論の反発も招きかねないし、7月の参院選にも影響が出る。ここから安倍官邸の猛烈な巻き返しが始まった。
裏で暗躍したのが官邸の意を受けた自民党・宮崎政久衆院議員だ。彼は沖縄の保守系市長や市議らに「県民投票不参加の裏ワザ」をレクチャーして回ったのだ。投票を拒否しても罰則はない、刑事罰には問われない、政権との関係を緊密にできる……などと説いたのだという。
宮崎議員は長野県出身だが、弁護士資格を持ち、沖縄で事務所を開いていたので県内で多少の知名度もあり、そのレクチャーは保守系市議や市長たちにはそれなりの効果があった。県民投票不参加には多少の不安を抱えていた5市の市長や市議らは安心感を植え付けられ、周囲の雰囲気を確かめながら、投票不参加に舵を切った。そのため、不参加5市の約41万人の有権者が投票できないということになった……。
玉城デニー県知事も、投票権を奪われた!
だが、それでことは終わらなかった。
元山仁士郎さん(27)は現在、一ツ橋大学大学院在学中なのだが、故郷の沖縄への想いは強く、大学を休学してこの県民投票実現に奔走した。やっと条例制定と投票日設定にこぎつけたのだが、5市の不参加により、県内の約35%の有権者が投票できないという事態に強い衝撃を受けた。
元山さんの選挙権は宜野湾市にある。宜野湾市長は投票拒否。つまり、県民投票実現のリーダーだった元山さんが投票権を奪われる。さらに凄いことが起きた。なんと、県知事である玉城デニーさんは沖縄市在住だから、県知事も投票権を奪われるという前代未聞の状況に陥った。県知事が「県民投票」に投票できない!? んなバカな!
元山さんは宜野湾市の松川市長や市議たちに面会、投票参加を要請したが、彼らは頑なに投票参加拒否の姿勢を変えなかった。そのため元山さんは、自分の体を張って訴えることに決めたのだ。
元山さんは1月15日朝から、宜野湾市役所の前で、県民投票の全県同時実施を訴えてハンガーストライキに入った。これが全国的にも大きなニュースとなった。
その前に行われていた米政府への「県民投票実施まで辺野古工事をストップするよう求める署名活動」には、なんとあのクイーンのブライアン・メイさんまでがメッセージを寄せ、必要数の10万筆を大きく超え、ついに21万筆を上回った。
これらの状況に後押しされるように、投票拒否の5市では参加を求める市民たちの動きが活発化。宜野湾市では市民多数が、投票の権利侵害への損害賠償を裁判所へ提訴すると発表した。他の4市でも同様の動きがあるし、さらには市長らのリコールを呼びかける動きも出始めた。
保守系市長らに動揺が走った。
超右派として有名な石垣市の中山義隆市長も、いつもの強気に似ず、かなり焦ったらしい。ハンスト中の元山さんに向けて、こんなツイート(1月18日)を発信した。
元山さん、県民投票に向け多数の署名を集めた責任感からの行動だと思いますが、ハンストで事態は変わりません。全県民参加には条例見直しが必要だと思います。知事や県議会への働きかけに注力傾けるなら私も動きます。ハンストでない行動を、体を壊しては元も子もありません。
元山さん批判のツイートの中には「ハンストなんて効果はない」「単なるパフォーマンス」「目立ちたがり屋の公開ダイエット」などというのもあったけれど、中山市長のツイートは、逆に元山さんの行動が大きな政治的効果を発揮したことを示していた。「反県民投票」を明言していた山中市長までもが、こんなツイートをせざるを得なるほどの影響を与えたのだから。
中山市長は「ハンストで事態は変わりません」と書いたが、その市長が「条例見直しをすれば、自分も知事や議会へ働きかけをする」と事態の打開に言及しなければならなかったほど「事態は大きく変わった」ではないか。