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炎上上等――悪役になることも辞さない巨人・原監督の覚悟 - 新田日明 (スポーツライター)


2009年WBC連覇で胴上げされる原監督(REUTERS/AFLO)

超巨大補強を断行した巨人がいろいろな意味で今オフの話題をかっさらった。広島からFAで獲得した丸佳浩外野手を筆頭に前マリナーズ・岩隈久志投手ら実績とネームバリューのある新戦力を迎え入れ、G党も当初は大歓迎ムードとともに5年ぶりのV奪回へ鼻息を荒げていたはずだ。

しかし、その代償としてFAの人的補償で内海哲也投手を西武へ、そして長野久義外野手も広島へそれぞれ放出。このダブルパンチによって風向きが一気にガラリと変わった感はどうしても否めない。長年に渡ってジャイアンツをグラウンド内外で支えてきた生え抜きのベテラン2人をプロテクトから外してまでカネにモノを言わせた〝血の入れ替え〟を押し進めたことで、今や世の中の多くの人は巨人に厳しい目を向けている。

その批判の矢面に立たされているのが、原辰徳監督だ。今オフ、4年ぶりに巨人の指揮官へ復帰。通算3度目の就任にあたって球団側からは指導、采配だけでなく選手獲得などの編成面においても自身の考えが反映できるような体制を約束されている。全権を託された原監督がくだんの巨大補強とプロテクトリスト作成でかじ取り役を務めていたのは疑いようがない事実だろう。指揮官がサバサバした表情で「足し算で丸、(同じくFAで西武から獲得した)炭谷。引き算は内海、長野になった」と発言して物議を醸した経緯からも、それは明白と言い切っていい。

一時期よりはやや沈静化してきているとはいえ、それでもネット上では「欲しい欲しい病」やら「功労者への非情な仕打ち」などといった原監督への罵詈雑言がまだ散見される。

しかし、当の原監督に気にする素振りはまったく見られない。いくら嵐のようなバッシングを向けられようとも泰然自若としている。巨人の球団幹部が内海、長野を人的補償で相手球団から指名されて放出せざるを得なくなった際、申し訳なさそうに沈痛の面持ちを浮かべていたのに対し、原監督はさきの「足し算・引き算」の発言からも分かるように公の場では眉ひとつ動かさなかった。

馴れ合い集団ではなく、一度ぶっ壊して以前のような常勝軍団に必ず再建してみせる――。すでに球団史上ワーストタイの4年連続V逸となっているジャイアンツの今後を託された原監督は就任決定直後、周囲にそう力強く語ったと聞く。だからこそ結果を出すためには時としてドラスティックな決断を下さなければならない。巨大補強とFA選手獲得に絡むプロテクトリスト作成において水面下で陣頭指揮を執っていた時点から、すでに自身はその後に猛烈な批判を浴びせられることも早々と覚悟していたようだ。 

ちなみにその昔、原監督はこのような言葉を口にしたこともある。

「監督っていうのは、いかにチームを強くするかが最大の仕事。いちいち選手の顔色をうかがっているだけではダメなんだよ。結果を残して最後はチームや球団全体が笑えるように導かなければいけないんだ。そのためには場合によって非情な決断をしなければならないし、自分自身が嫌われ役になることも恐れてはいけない」

余りにもキレイごと過ぎると、うがった見方をする人もいるに違いない。しかしながら率直に言って至極全うなコメントだと思う。そして、この言葉は奇しくも今オフのストーブリーグで大きく動いたチーム編成を経て自らが置かれた境遇をも表している。そう考えれば、やはり原監督は今オフ、周りからどれだけブッ叩かれようが柳に風とばかりに軽く受け流しているのだろう。

勝つためならば手段を選ばず世間の批判など気にすることなく、非情に、そして悪役にも徹する。少々きつい言い方をすれば、原監督はこういう人物像と評せるのではないだろうか。まあ、とにかく強靭なメンタリティの持ち主であることは間違いない。

巨人の監督を通算12年も務め、7回のリーグ優勝と3回の日本一を達成。実績から考えれば、その能力は疑いようがない。ジャイアンツの指揮官だけでなく2009年には第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表・侍ジャパンの監督にも就任。凄まじい重圧の中、日本代表を連覇へと導いた。同年には世界最優秀監督にも選ばれている。人によってさまざまな考えがあるとは思うが、長年に渡ってプロ野球を取材している立場から個人的に言わせてもらえば、不撓不屈(ふとうふくつ)を地で行く原辰徳氏の真骨頂を垣間見たのはこのWBC開催前後の2008年から2009年だったと考えている。 

WBC連覇と日本一を同時に達成

この2009年の第2回WBCに臨む侍ジャパンの監督候補には当初、複数の候補者たちがNPB側や有識者たちから挙げられていたものの最後の最後まで調整は難航。多くの人たちは「連覇が当たり前とされるチームで、しかも日本人メジャーリーガーを含めたスター軍団をまとめる役割は余りに荷が重過ぎる」と就任に難色を示していた。

その中でWBC日本ラウンドを主催する読売新聞社の強力な後押しもあって監督就任の命を受けたのが、当時の巨人を率いていた原監督であった。おそらく内心では人気球団ジャイアンツと日本代表の兼任監督という激務を引き受けることはできれば避けたかったであろうが、政治的背景もあって断れなかったのが本音であろう。

それでも原監督は持ち前の超プラス思考でオファーを受諾すると対話路線を重視し、スター軍団を見事にまとめ上げてチームを2大会連続の世界一へと導いてみせた。このチームで絶対的存在だったマリナーズのイチローも後に「それまでほとんど面識がなかったはずなのに、あれほどフェース・トゥ・フェースで接する人は球界広しと言えど記憶にない」と原監督の手腕に感心しながら述懐している。

日の丸を背負うプレッシャーや過度な期待値をものともせず例え初対面であろうがスーパースターたちに臆することなくフレンドリーに接し、自分の考えを貫いて統制できる能力は、ある意味でこの人の〝専売特許〟と言っていいかもしれない。

そして、さらに特筆すべきは2008年シーズンで阪神に最大13・5ゲーム差をつけられながら最後は逆転優勝を成し遂げ、第2回WBCで2大会連続制覇を果たした2009年も巨人をリーグ3連覇、7年ぶりの日本一を達成したことだ。何だかんだと言われながらも兼任監督として求められた結果をしっかりと残しているのである。

さて、その原監督はかつてないほどの逆風を浴びせられながら、3度目の就任となる今季はどのような戦いを見せるのか。高橋由伸前監督の時代に育成されて一人前になりつつある岡本和真内野手ら生え抜き若手選手をベースに巨大補強で上積みした戦力を駆使できなければ、今季終了後は確実に自身の進退問題へと直結するであろう。ただ何度も言うが、その腹はとうに据わっているはずだ。これまで過去に発揮してきたマネジメント能力の高さと何事にも動じない図太い神経が噛み合えば、おのずと原巨人の5年ぶりVは見えてくる。

炎上上等。さまざまな観点から百戦錬磨の指揮官と言い切れる原監督がヒールの立場を受け入れ、猪突猛進するレアな姿に今季は大きく注目したい。

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