記事

『GRIDMAN』を平成オタの葬送として眺めた

2/2

「アカネの心の補完」という古いテーマ

 さて、『GRIDMAN』は表向きは響裕太たちがセカイを救うヒーロー活劇ではあったが、世界ではなくセカイであった点が、40代の私には大問題だった。
 
 というのも、人の心が作品世界と直結している、つまり、90年代~00年代なら「セカイ系」という言葉で括られていたであろう世界観が、この、カネと手間暇のかかった2018年の深夜アニメで復古されていたのである。
 セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史 (SB新書)

セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史 (SB新書)

 
 
 この作品の舞台は、アカネが望んだセカイであるという。心象がセカイになり、心象が物語に直結しているというこの構図は、『エヴァ』とその前後の作品群を思い出したくなるものだった。
 
 この、都合の良いつくりごとのセカイで(もちろんこのフレーズは『エヴァンゲリオン劇場版 まごころを君に』の引用であり、一種のサブカル仕草である。ちぇっ!)アカネは心の平安を保ち、と同時に、つくりごとのセカイの神として君臨してもいた。
 
[画像をブログで見る]
 
 ところが『エヴァンゲリオン劇場版』で否定された都合の良いつくりごとのセカイが、この、多分にエヴァを踏襲しているであろう作品では最後まで都合の良いつくりごとのまま推移し、アカネが救われる大団円で終わっているのである。
 
 90年代の特撮を2010年代の深夜アニメとしてリメイクし、古強者の愛好家が喜ぶようなガジェットや文脈を散りばめておくこと。救われるべきヒロインが碇シンジのような少年ではなく「かわいい」少女であるということ。そのアカネがグリッドマンや六花たちに「救われて」心を開いていくということ。
 
 こういった筋書きは、90年代の庵野秀明が「現実に帰れ」と言っていたものとは正反対のように私にはみえた。あの頃の綾波レイが「都合のいいつくりごとで、現実の復讐をしていたのね。」と冷たく言い放っていた対象とは、まさにこのようなセカイではなかったか。
 
 アカネの言動は、そのセリフの端々が90年代の碇シンジとダブっているところを含めて、そのような都合のいいつくりごとを期待する視聴者と重なるところがあったように私にはみえた。
 
 いまどきのアニメコンテンツは、美少女-所有願望の対象としてばかり少女を描いているわけではない。自分自身とかわいい少女を重ね合わせることをとおしてナルシシズムを充当できるような、マルチロールな機能もしばしば与えられている。
 
 [関連]:『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』にみる、マルチロールな感情移入と、その洗練 - シロクマの屑籠
 [関連]:なぜ少女が湯水のように消費されるのか――男性オタク界隈における少女の消費状況について―― - シロクマの屑籠
 
 そのような読み筋でアカネを眺めると、自己投影しやすいキャラクターの典型と読めるし、下記リンク先に記されている
 
「スクールガール・オタクコンプレックス」という新条アカネの生み出した怪獣に、僕は…。 - 1k≒innocence  

グリッドマン、そしてグリッドマン同盟が、我々視聴者のオタクも救ってくれることを願ってやまない。なぜなら新条アカネの救済こそが、新条アカネに心奪われたオタクを救うただ一つの方法なのだから。

 という、アカネと「我々視聴者のオタク」をダブらせた科白も理解しやすくなる。
 
 このようなナルシシズム的対象選択もまた00年代に流行した趣向であり、『GRIDMAN』という作品に懐かしさを感じる一因になっていたと思う。
 
 少女に対する(おもに男性愛好家の)自己投影――ナルシシズム的対象選択は、00年代にトレンドを迎え、10年代以降、アニメの前衛という感じではなくなった。わかる人にしかわからない表現をすれば、『動物化するポストモダン』に合致したキャラクター消費の最前線がスマホアプリになったのが10年代の界隈、というのが私の理解になる。
 
 ところが『GRIDMAN』は古めかしくも、アカネという、どこか懐かしいタイプの少女の心の補完を描き出してみせたのだった。そういった世界観を整合させるためもあってか、表向きの主人公である響裕太はうつろな主人公とうつったが、はたして、終盤に至って響裕太はいよいようつろなキャラクターになっていった。
 
 そういった部分も含めて、20世紀の『新世紀エヴァンゲリオン』への意趣返し、あるいは二次創作ともみえる筋書きが、私には興味深くて、いや、引っかかって、ツルツルとしたキャラクターデザインを楽しんでばかりもいられない心境にならざるを得なかったのだった。 
 
[画像をブログで見る]
 
 こんな実写シーンを見せられると、あの、「考察」を空回りさせていた懐かしい時代のことを思い出さずにはいられないではないか。

「こころ時代」のレクイエムとしての『GRIDMAN』

 こうした諸々をひっくるめて『GRIDMAN』の感想をワンフレーズにまとめるとしたら、「平成オタの葬送」となるだろうか。
 
 心理学ブーム・メンタルクリニックブームとともに始まった平成時代。そして心というものにセンシティブな一時代はアニメというジャンルとも無関係ではなく、『新世紀エヴァンゲリオン』をはじめ、時代がかった作品を複数生み出した。さきほど触れた「セカイ系」というボキャブラリーも、そういった時代がかった作風(のひとつ)を言い表したものだった。
 
 しかし平成も後半になってくると、心というものにセンシティブな作品は退潮していった。ひきこもりは若者の問題としてではなく、中年の問題として語られることが多くなり、カウンセリングは認知行動療法という言動のメンテナンスへ、メンタルクリニックブームは発達障害ブームへと置き換えられていった。
 
 平成時代の出口に立っている私達は、もう、心というブラックボックスを以前ほどは顧みていない――そんな風に私は思う*1。そういう「こころ時代」の終着点に、たまさか『GRIDMAN』という懐古的な作風の、それでいてキャラクターデザインをはじめ、全体的にツルツルに磨かれてのどごしの良いアニメに出くわしたのは幸せなことだった。
 
 このアニメを観るアングルや世代はさまざまだろうけれども、私は一人の40代のアニメ愛好家として、この作品を「こころ時代」のレクイエムとして受け取ることにした。
 
 だからどうした、という話ではある。けれども、記憶がなくならないうちに書き留めておきたいと思ったのでこうして書き留めておく。屈折した気持ちを抱えながらも、最終話までニコニコしながら眺めました。
 
 ※1/22追記:誤字その他をご指摘くださった皆さん、ありがとうございます。

*1:そのような換骨奪胎が起こっているにもかかわらず、災害などが起こるたびに「こころのケア」なる言葉が用いられることに、私はちょっとした興味を覚えるが、これ単体で5000字は必要になろうからここでは於く。

あわせて読みたい

「アニメ」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「自民党は嫌いでも、投票するのは自民党」立憲民主党が自民党に勝てない最大の理由

    御田寺圭

    09月23日 08:07

  2. 2

    45歳定年なんてホントに実現するの?と思ったときに読む話

    城繁幸

    09月23日 16:12

  3. 3

    43歳、年収600万円で「結婚できないのが辛い…」と会社を辞めた男性に励ましの声

    キャリコネニュース

    09月23日 12:17

  4. 4

    NHK党・立花孝志氏 へずまりゅう擁立も「二度と信頼しない」と支持者が続々離脱

    女性自身

    09月23日 10:32

  5. 5

    専門家の感染者数予想はなぜ実数とかけ離れてしまうのか

    中村ゆきつぐ

    09月23日 10:26

  6. 6

    新型は納車2年待ちの「ランドクルーザー」 なぜ世界中で高い信頼を得られたのか

    NEWSポストセブン

    09月23日 13:25

  7. 7

    河野氏は論戦巧者 他の候補者3人がほぼ無防備な年金問題に手を付けたのは上手い

    ヒロ

    09月23日 10:39

  8. 8

    河野太郎氏 自民党の身内にも…強気な“回答拒否グセ”に「誠意ない」と高まる不信感

    女性自身

    09月23日 20:28

  9. 9

    自民党総裁選⑽ 河野候補の発言で誤解を招かないように 党部会は日本型民主主義の根幹

    赤池 まさあき

    09月23日 11:26

  10. 10

    「レジ袋の有料化」と「レジ袋の減少化」が生んだ本末転倒な事態

    自由人

    09月22日 22:07

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。