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消費増税をするなら「共済年金補填条項」を付けよ!~「丁寧な説明」が不必要な野田内閣向けの増税条件

「丁寧な説明」の結末は、「言うだけ番長一任」という議論打ち切りだった。

「言うだけ番長」は、「反対意見は尊重するが、いつまでも議論を続けるわけにはいかない。今の財政状況と国債マーケットの動きを考えた場合、ここで決めなければ、ソブリンリスクが高まるとの思いを持っていた。その中での決断だった」と説明した。

「言うだけ番長」が「ここで決めなければ」と心配した日本の国債利回りは、相変わらず1%前後で低位安定。国債マーケットのどんな動きを見て、何を根拠に「ここで決める」必要があったのか、「丁寧な説明」どころか、何の説明もない。

さらに「言うだけ番長」は、反対派に「選挙を考えて行動するのではなくて、歴史的使命を果たすことを通じて有権者に理解してもらい、再選することにマインドを変えていただきたい」と訴えたが、27日のAIJ参考人質疑で、金融知識が欠如していることを露呈した国会議員の「今の財政状況と国債マーケットの動きを考えた場合、ここで決めなければ、ソブリンリスクが高まる」という根拠のない相場観に基づいて、「歴史の使命を果たす」ことに暴走することなど、国民にとって「無理心中」を強いるようなもの。

民主党が消費増税関連法案を了承し、30日に閣議決定することにしたことを受けて、NHKは28日、来日中のイタリア、モンティ首相のインタビューを放送。モンティ首相が「たとえ痛みを伴う政策でも、将来のために何が必要かを具体的に説明することが、議会や国民の支持につながる」と述べ、必要な政策を十分に説明しながら実行することの重要性を強調した、と強調している。

昨年11月に首相に就任したばかりで、何の政策的な成果が確認できていない段階でこうした報道をするのは、完全なミスリードであり世論操作。

モンティ首相はイタリアの危機は去ったと語っているが、欧州の債券市場が足元落ち着いているのは、ECBが無制限の資金供給を実施したことに加え、ギリシャ国債が実際にデフォルトし、少なくともこの1、2ヶ月の間にはこれ以上の悪材料は出ないと思われることが原因であり、イタリアを含めた南欧諸国のソブリンリスクが解消したからではない。

増税など「痛みを伴う政策」を実施しながらも比較的高い支持率を誇るモンティ首相の「たとえ痛みを伴う政策でも、将来のために何が必要かを具体的に説明することが、議会や国民の支持につながる」という発言を紹介することで、野田内閣の「消費増税を中心とした財政再建」を「将来のために必要な政策」であるかのように演出し、「議会や国民の支持につながる」かのような印象を植え付けようとする意図が見え見えである。NHKは「日本のギリシャ化」を避けるために、日本は「イタリア化を目指すべき」だと主張するのだろうか。

野田内閣の主張は、「ギリシャのように財政赤字を放置し続ければ、日本もソブリンリスクに襲われる」というもの。一見もっともらしく見える主張も、「多額の財政赤字」という「結果」だけに焦点をあて、「なぜ財政赤字が膨らんだか」という「原因」にから目を逸らす「バランスを欠いた理屈」でしかない。

ちなみに、NHKが手本にすべきとするイタリアの経済成長率は、2012年予想で▲0.5%、2013年で+0.5%(OECD見通し:以下同様)に過ぎず、ユーロ圏の同期間の成長率+0.2%と1.4%を大きく下回っているうえ、日本の+2.0%、+1.6%にはるかに及ばないもの。何故「ユーロ圏の経済の劣等生」ともいえる経済状況にある国の政治を日本が模範にする必要があるのだろうか。ここでも「丁寧な説明」どころか、何の説明もない。

「言うだけ番長」は、増税慎重派から出され、民主党のマニフェスト2010で大々的に掲げられていた「名目成長率3%・実質成長率2%」という消費増税法案の景気弾力条項については、「努力目標」として盛り込んだものの、増税の条件とはしないこととした。

これに関して「言うだけ番長」は、「条件となれば、マーケットに間違ったシグナルを与える。法律そのものが骨抜きになる可能性がある」として、増税停止の条件とならないよう腐心した経緯を披露した。マニフェスト2010に明記された「名目成長率3%超、実質成長率2%超の経済成長。(2020年度までの平均)」という「国民との約束」は、「超」を取り去ることでハードルを下げた上に、「努力目標」に格下げされてしまった。

さらに、「名目成長率3%・実質成長率2%」という「努力目標」も、「and」なのか「or」なのか明確にしないことで、増税実施への足枷にならないようなお飾りにされている。これでは消費増税はフリーハンドと変わりはない。

理論的には成長率に基づいた景気弾力条項はもっともなものである。しかし、何時でもお飾りに出来るGDP成長率を増税の条件として持ち出したところに、増税慎重派の戦略ミスがあったのかもしれない。何しろ交渉相手は、名目GDPが1997年の水準を下回り続け、2008年以降4年連続で縮小し続けているなかでも「景気は持ち直し」「景気は踊り場」と言い続けている厚顔無恥な日本の政府なのだから。

消費増税を実施するというのであれば、「共済年金補填条項」という結果責任を取らせる条件を付けるべきである。

「共済補填条項」とは、消費税8%、そして10%にした場合の所得税(23年度予想13.5兆円)、法人税(同7.8兆円)の税収が、消費増税による景気の落ち込みで見込み額に達さなかった場合、その不足金を国家公務員共済年金の積立金を取り崩して埋め合わせる、という考え方である。

ちなみに、国家公務員共済年金の22年度末時点での長期給付積立金残高は8兆1,822億円と、23年度の法人税見込み額7兆8,000億円を上回り、消費税率換算で約4%に相当する規模であり、税収の落ち込みを補填するのには当面十分な規模である。

「消費増税と経済成長を両立出来る」という「詭弁」を繰り返している野田政権は、世論の手前も「共済年金補填条項」を拒否し難いはずである。拒否すれば「消費増税と経済成長を両立出来る」という主張が「詭弁」であることを認めることになるからだ。

さらに、こうした条項を付ければ、既得権益の維持に強い執着心を見せる政府や公務員は、自分達の年金を減らさないために、所得税、法人税の税収増加に繋がるような政策を必死に考えるだろうし、徴収漏れが起きないように確実な徴収にも躍起になるはずである。これにより、「景気の維持」と「不公平感の解消」が期待できる。

何時までも「先送り」され続ける議員定数削減やら公務員人件費の削減などに時間を浪費すことは、もはや「政治的浪費」の段階にある。そして、景気悪化による税収のしわ寄せを、一般国民だけが負わされるような政策の解消は「待ったなし」である。

政治の責任を、身内の痛みでとる「共済年金補填条項」を、「不退転の決意」で実行に移すことが出来れば、野田総理の支持率がモンティ首相を上回ることも十分可能のはずである。そして「共済年金補填条項」の都合のいいところは、国民に対して「丁寧な説明」が必要のない、野田総理向けの政策であるところだ。野田総理には、「歴史に名を残す」ためにの、是非具体的に検討してもらいたいものである。

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