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遠くなる「昭和の戦争」とマンガの力:おざわゆき『あとかたの街』 - 高井浩章

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 『あとかたの街』(おざわゆき、講談社)は、第2次世界大戦末期の名古屋市を舞台とする名作だ。著者は2015年度に本作とシベリア抑留に材を取った『凍りの掌(こおりのて) シベリア抑留記』(講談社)の2作を対象に、日本漫画家協会賞の大賞を獲得している。

もうすぐ平成が終わる


おざわゆき『あとかたの街』 講談社

 今回、当欄で本作を取り上げようと考えた理由は3つある。

 2つは個人的なもので、私は、著者おざわと同じ名古屋生まれ・名古屋育ちだ。名古屋の街が空襲で焼き尽くされたことは、学校でも詳しく習ったし、歴史関連の展示イベントなどで空襲直後の写真などにも、他県出身者よりは多く接する機会があった。なのに、恥ずかしながら『あとかたの街』は、この年末まで未読だった。灯台下暗しというか、「知ってるつもり」で読むのを後回しにしていた。遅ればせながら今回読んでみて、「これは多くの人に知ってもらいたいマンガだ」と強く思った。

 もう1つの理由は、我が家の本棚にあった『凍りの掌』(こちらは15年に出た新装版を初版で買ってあった)を、小6の三女が年末にふと手に取って読んだことだった。感想を聞くと、「絵がかわいいし、面白かった」という答えが返ってきた(時系列で言うと、三女の感想をきっかけに、『あとかたの街』も読ませようと発注したという成り行きだった)。三女の気まぐれな読書をみて、「戦争をマンガで描く」という手法のもつ可能性、重要性に改めて気づいた。

 そして、3つ目の理由は、もうすぐ平成が終わる、ということだ。

低いハードル、高いイメージ喚起

 2018年12月の天皇誕生日の記者会見で、今上天皇は「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています」と述べられた。同時に第2次世界大戦の戦禍と犠牲を振り返り、サイパン島、パラオのペリリュー島、フィリピンのカリラヤへの慰霊訪問に言及し、戦後生まれの世代に歴史を語り継ぐことの重要性を改めて強調された。

 確かに、日本に限れば、「平成の世」は戦争のないまま幕を閉じようとしている。

 新元号が決まるのはもう少し先だが、はっきりしているのは、昭和が「ふた昔前」になってしまうことだ。昭和生まれの私にとって、2つ前の元号である「明治」は、同時代性を全く感じない「日本史」の領域だ。

 「昭和かよ」という時代遅れを指すフレーズが定着しているように、平成生まれと昭和の「しっぽ」に生まれた世代には、すでに「昭和は遠くなりにけり」という状態にある。改元して何年か経てば、昭和、特に戦争体験は完全に「日本史」でしかなくなってしまうだろう。

 昭和が遠くなるなかで「戦争の記憶を伝える」という重要で難しいテーマにおいて、マンガというメディアは力強い存在だ。

 文学や歴史書に比べてハードルが低く、イメージ喚起力は高い。感情移入の容易さや情報量でも、映画やノンフィクションなどの映像作品に引けを取らない。誘導したわけでもないのに私の娘がふと手に取ったように、本棚という家庭内メディアセンターで常時アクセスできるのも強みだろう。

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