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14年連続縮小"ビール会社"に残された道

ビール離れの原因は「チューハイ人気」だけなのか

国内ビール大手5社が2018年のビール類の出荷量(課税出荷数量)を発表した。それによると、ビール類出荷量は14年連続で過去最低を更新した。

背景には消費者の“ビール離れ”があるとの指摘が多い。消費者が缶チューハイなど、アルコール度数が高いうえに価格帯が低いアルコール飲料を選好するようになっていると説明される。ただし、それ以外にもビールの需要低下(ビール離れ)の要因はあるはずだ。


2015年3月、キリンビールは東京・渋谷に「醸造所併設レストラン」を開いた。ここでは出来たてのクラフトビールを味わうことができる。(写真=時事通信フォト)

ビール類の課税出荷数量の対象に含められる「第3のビール」(麦芽以外を原料とするアルコール飲料)は、需要が増加基調で推移している。また、サントリーのように後発ながらもシェアを伸ばしている企業もある。

重要なことは、消費者が新商品を求めていることだ。企業には変化への適応力が求められる。人口の減少とともに、ビールなどに対する国内の需要は低下していくだろう。国内ビール各社は、海外市場の開拓や新商品の開発を加速し、新しい需要を生み出さなければならない。

アサヒは「鮮烈」「辛口」へのこだわりが強い

2018年、国内のビール類市場におけるシェアランキングにおいて、トップはアサヒビール(37%)だった。2位はキリンビールの34%、3位はサントリービールの16%、4位はサッポロビールの11%、5位はオリオンビールの1%だった。

大まかな傾向を見ると、アサヒのシェア低下が顕著で、キリンとサントリーが健闘している。背景には、ビール各社の戦略の違いがある。

近年、キリンは自前の営業による販路拡大に加え、小売り大手との連携を強化し、第3のビール市場でのシェア獲得に注力してきた。一方、アサヒはプライベートブランド(PB)事業に着手していない。この違いが、両社のシェア推移に大きく影響してきたように思う。

1990年代前半、国内ビール市場でキリンは50%程度のシェアを確保していた。その後、アサヒが「スーパードライ」のヒットによってトップシェアを手にした。アサヒの経営を見ていると、第3のビールへの注力は進めつつも、スーパードライの鮮烈、かつ、辛口なイメージへのこだわりがかなり強いように見える。

キリンがアサヒとの差を縮められた理由

競争の激化を受けて、キリンは、自前主義から他業種との連携・共存に戦略をシフトし、小売り大手のプライベートブランドビールの生産に取り組んだ。一例に、イオンのPBビールである「バーリアル」がある。2018年、こうした取り組みが功を奏してキリンはアサヒとのシェアの差を前年の7ポイントから3ポイントにまで縮めた。

また、サントリーはビールそのものを楽しむというコンセプトのもと、ブランドの育成に取り組んできた。同社の看板商品である「ザ・プレミアム・モルツ」は、泡のなめらかさ、口当たり、香りなど、高いクオリティの実現にこだわった。それによって、同社は“ビールを飲む愉しみ”という価値観を私たちに提供しているといえる。その取り組みがヒットし、サントリーのビールシェアは右肩上がりで推移してきた。

特定の商品がヒットしても、持続的な成長は難しい

市場環境に視点を向けると、わが国ではアルコールを口にする人の数そのものが減少している。なぜなら、少子化と高齢化、人口の減少が進んでいるからだ。

それに加え、消費者の需要(ニーズ、好み)は、経済や社会の環境変化、ライフステージなどとともに変化する。長い間、すべての人が同じ商品を使い続けるわけではない。一つの商品を使い続けていると、飽きてしまうことも多い。これは、需要の飽和だ。消費者に飽きられてしまうと企業の成長は鈍化する恐れがある。

特に、ビールのように余暇を楽しむための商品に関しては、それが当てはまるだろう。特定の商品がヒットし、大きなシェアを獲得したとしても、それが企業の持続的な成長を支えることができるとは言えない。

また、わが国の経済環境からの影響もある。実質ベースで賃金の持続的な増加が実現していない中で、同じ水準の満足度が得られるのであれば、より低い価格のモノを選択することは、消費者にとって合理的だ。

ノンアルコールビール市場は堅調に推移

ハイボールや缶チューハイの人気、およびキリンのPB対応戦略を踏まえると、どのブランドのビールを飲むかよりも、飲んだ際の満足感(ほろ酔い気分など)が得られるか否かに基づいて購入を決定する消費者は多いと考えられる。

健康志向の高まりからビールを控え、ノンアルコールビールなどを求める人も増えている。サントリーの調査によると、ノンアルコールビール市場は堅調に推移している。その中で、氷を入れて飲むなど、消費者の飲用スタイルも変化している。

子育てなどが一段落し、比較的生活にゆとりのある世代は、多少の贅沢をしてもいいから満足度を高めたいという人も多いだろう。クラフトビール(量産ではなく、小規模の醸造所で生産されるビール)の人気が高まりつつあるのも、そうしたライフステージやライフスタイルに合ったビール需要の広がりがあると考えられる。

オリオンビールはファンド傘下で海外強化か

わが国ビール類市場の縮小を考える上で、経済環境だけでなく、人々の好みなどが変化してきたことは見逃せない。キリンは低価格(PB)商品の開発戦略を重視し、サントリーは高付加価値戦略で他社とのすみわけを図り、環境変化に適応してきた。

国内の需要低下が見込まれる中、ビール各社には更なる取り組みを期待したい。沖縄を地盤とする国内第5位のオリオンビールは、外国人観光客の増加を足掛かりに、台湾や北米での売り上げ増加を目指している。朝日新聞などによると、同社は野村ホールディングスなどの傘下に入ることで、海外戦略を強化しようとしている。ビールの生産を本業としない投資ファンドなどがオリオンビールの成長を実現できるか否かは不透明だが、同社にとって現状を維持することは衰退に直結しかねないとの危機感はかなり強いのだろう。

ビールメーカーにとって、新しいテイストを持った自社商品(ブランド)を生み出す、あるいは海外でのシェアを伸ばすことへの取り組みを進める重要性は高まるはずだ。デフレで需要が伸びないというよりも前に、自助努力として従来にはない満足感を消費者が実感できる商品を生み出そうとすることが求められる。

サントリーの米ビーム社の買収は好例

そのために、これまでにはない要素(ビールのテイスト、ビール生産のノウハウ、ブランドなど)を獲得するために、海外企業の買収を検討する必要性は高まるだろう。持続的な成長を目指すために、プロダクト・ポートフォリオを分散することは重要だ。

リスクを見極めつつ、自社の強みを補完すると同時に新興国市場進出の基盤になるような買収を行うことができれば、ビール大手各社の成長期待は高まる可能性がある。

サントリーの米ビーム社の買収(1.6兆円程度)はそのよい例だ。世界経済の減速懸念が徐々に高まりやすい中で、ビール各社が新しい取り組みを進めて需要を取り込みつつ、海外戦略を強化して成長力を引き上げることを期待したい。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)

法政大学大学院 教授

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=時事通信フォト)

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