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書評「社長は労働法をこう使え!」

著者は日本では珍しい企業サイドの労働弁護士で、本書も主に中小企業経営者向けの労務トラブル回避のためのガイドブックとなっている。
「残業代を忘れたころになって請求されないようにするためには」とか「問題社員にどうやって揉めずに辞めていただくか」など、きわめて実務性の高い内容だ。

企業寄りの労働弁護士と聞くと弱者に冷たい仕事だと勘違いする人もいそうだが、本書を読めばそれがとんでもない誤解だというのがよくわかるはず。
著者も言うように、労働者はけして弱者ではない。
本書は「とにかく日本では雇ったら負けだ」という現実をこれでもかというほど見せつけられる本でもある。
よく「終身雇用は大手だけ」という人もいるがややミスリーディングだ。

たしかに労働者から見れば、ほっておいても定年までレールが続いているのは大手だけかもしれないが、中小企業といえど適用される法律は同じ。
解雇はもちろんのこと、有名無実化した手当を廃止したり、残業規定の穴を放置しているだけで、突如として会社存亡の危機に直面することもある。

たとえば、業務命令にまったく従わない月給30万円の従業員を一人解雇し、不当解雇で訴えられた場合。高裁まで2年間かけて敗れたとすると、(仮処分も含め)その間の給与をすべて払うことになるから、それだけでざっと1350万円ほど支払うはめになる。
しかも金銭解雇が認められていない以上、その問題社員は職場に帰ってくるわけだ。

なんとか辞めてもらうためにさらに退職金を上積みすれば、結局一人の問題社員を解雇するために2000万円ほどかかる計算となる。※
さらに恐ろしいことに、世の中には仮処分→じっくり裁判→和解を繰り返し、働かずに職を転々とするモンスター社員まで存在するというから恐ろしい。

確かに労働者保護のために、違法な解雇を禁じる等の一定の規制は必要だろう。
ただ、それが行き過ぎればどうなるか。
2003年、ある会社が社内手当を廃止したのは不当であるとの判決が出された。
原告の年収は3000万円、その会社とはJALである。

そうまでして労働者を守った末に同社がどうなったかは、改めて言うまでもない。

労働者の合意が無いまま賃金を削減できるという先例をつくりたくないのは理解できるのですが、資金繰りが悪くなり赤字経営に陥ってから賃金を下げても間に合いません。
会社が倒産してしまっては元も子もありません。ですが、これが日本の労働法の現実です。
毎月固定でもらえる基本給や手当は聖域であり、余程のことがない限り削減することはできません。

最終章でトラブル予防法として著者が最初にあげるのは「そもそも変だなと感じたら採用しないこと」である。

出口が見えない以上、入り口の敷居を上げるしかないということだ。

一方で、はなから労使交渉すら応じる気の無い「ブラック企業」には、やり手の社外労組でさえお手上げだという。
訴えたところで会社を畳んで開業し直すだけだから、関わるだけ時間の無駄ということだ。

まともな会社は、とりあえず直接雇用は出来るだけ回避しつつ、採用する場合は職歴や面接での言動を徹底的にチェックする。運よくその中で職を得ている人は、問題を起こさないようにじっと息をひそめてやり過ごす。
そしてそこから漏れ出てしまった人は、コンプライアンスとは無縁なブラック企業で糧を得る。


本書を一冊読み通せば、日本の閉塞感の縮図がなんとなくイメージ出来るに違いない。


※ちなみに、著者の結論としては「割に合わないから解雇は極力避けるべき」というもの。
 筆者も同感だ。一部の中小企業で見られる解雇は、それがハイリスクだと気付いていない 経営者か、労働者の“良識”によって行われているにすぎない。

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