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「古典は本当に必要なのか」討論会へ行ってきた

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古典不要派の言葉を使って考える(国際競争力と国力)

 他にも、噛み合わせるポイントはある。

 このテの議論をするには、相手の言葉で語ることが重要だ。相手が使う言葉を掘り下げてみると、実は互いにつながりあっていたことが分かる場合もある。「古典は本当に必要なのか?(いや必要でない)」という言葉尻だけ捉えて、やれ焚書坑儒だ、華氏451だと批判するのではなく、テーマの範囲内で、相手の言葉をどうやったら建設的に使えるか? と考えるのだ。

 たとえば、不要派が重視する”国際競争力”の変遷を、古典からたどるアプローチはどうか。不要派が紹介したスライドで、20年前と今の大企業の一覧があった。GAFAに席巻されたグローバル経済を示し、変化に対応できる”国際競争力”が必要だという。

 これ、スケールが20年だから目まぐるしいが、200年、2000年ならどうだろう。その必要な技能は、「今だけ」なのか、200年来必要なのか。国力、経済力、軍事力、文化的影響、社会制度といった観点で、数百~数千年を振り返る歴史家の仕事になるが、その根拠となっている古典をカウントすることで、古典の影響力を測ることはできないだろうか。あるいは、他の発想が埋まっていないか、掘り起こしが可能だろうか。

 もっと生々しく”国力”への訴求性を求めるなら、歴史問題に踏み込むこともできる。たとえば領土問題として焦点の当たっている島嶼で、その歴史的根拠を探すなら、昔の文書を参照することになる。その有効度は状況によるが、「たしかにその場所について日本と由縁があった」証拠の一つとして挙げることができる。

 そして、その文書はただ一つ、単独で存在するのではなく、文書の存在を示す別の文書、その文書から引き出された(引用や言及、随想など)別の文書として、確実なものとなるということだ。その当時のネットワーク全体で、その文書が示す「確からしさ」が検証できる(ここ重要)。

 なぜ重要かと言うと、争っている相手から、「こちらの方が古いから有効だ」と出所不明・ネットワーク不在の文書が出されてくる可能性があるから。あるいは、相手が時間をかけて「ここは私の領土だ」と繰り返したり、詭弁や武力にモノを言わせて事実化する場合があるから。相手には相手の理屈があり、ストーリーがあるのだから、数十年から百年かけても、国策としてその主張を通そうとするだろう。

 詭弁や武力ではなく、エビデンスに基づいて問題を解決するのなら、文書ほど重要なものはないだろう。歴史問題についてエビデンスとなっている一次文書と、それを参照・言及している文書(相手が提示してくる「文書」も含む)、さらにその解読に携わる人をカウント・比較することで、古典の有用性を可視化することが可能だ。

 一例をあげるなら、[『沖縄は中国の属国だ』という主張が今更な感じがするのですが、どういうことなんでしょうか?]がある。この回答を支えている事実関係を示す一次資料は、それを参照・言及する文書のネットワークの中にある。これらを伝えていかない限り、時間をかけて辛抱強く繰り返される「沖縄は中国の属国である」主張へのエビデンスを手放すことになる。さらに、いま懸案となっている課題だけでなく、将来現れる新たな歴史問題を議論する準備として、古典を解析して維持していくことは、日本の「国力」につながる―――こうしたアプローチだと、古典不要派の「国力」と同じ視線で考えることができるかもしれない。

「認可的ワクチン」としての古典

 上記の例は、読書際さんの「認知的ワクチン」に関する一連のツイートから学んだ。

 「認知的ワクチン」とは、デマをウイルスになぞらえ、知識を教え学ぶことでその流行を防ぐことを指す。たとえば、化学を学ぶことで「水素水」や「コラーゲン配合」の流行を防ぐことになる。

 古典の場合、「水素水」や「コラーゲン配合」に相当するカッコに入るものは何になるか? 先の例だと「沖縄は中国の属国だ」だが、他にもあるだろう。一次資料ではなく、ネットに流れるトンデモ歴史を「事実」として本に書いたらどうなる? 鼻で笑われるだろうが、それがベストセラーになって大勢の人が信じたらどうなる? カッコに入るものは、結構ありそうだ

 そうしたものを数え上げることで、「古典は必要である」のうちの「どれくらい」かを、他と比較することができる。もちろん単純比較はできない。単なる数ではなく、代えのないものであれば、重みづけも考えるべきだろうね。そして、一次資料を読み解く人「だけ」が必要なのではなく、そこから引き出された知識を重視し、トンデモを鼻で笑うだけのマスが求められる。

 デマの拡散については、たとえば東日本大震災におけるデマをテーマにした論文[拡張SIRモデルによるTwitterでのデマ拡散過程の解析]がある。このSIRモデルを歴史認識に当てはめることで、古典教育の普及度とデマの拡散しやすさをシミュレートできるかもしれない。

古典の「効果」を可視化する

 古典は、言語や歴史といったアイデンティティに深く関わっているため、これを考えるわたしたち自身に内面化されており、その結果、見えにくくなっている。

 伝えたいという動機があるならば、そこに表現があり、レトリックがあり、古人がさんざんやってきたことなのだから、先例と踏襲と改変がある。

 パネリストから、連歌をおこなってきた先人たちの発想の集大成として歌語集を捉え、これと現代語の関わり合いを可視化するアイデアが出た。想いを伝えたい高校生にとってのLINEの一行を、図書室の歌語辞典から見つけてくる、というのはアリだろう。人は、それくらい、変わっていないのだから。

 ひょっとすると、わたしが気づいていないだけで、言葉の発想のつながり方を考えるなら、概念のかなりの部分は、古典によって準備されているのではないか、と思えてくる。ネットを行き交う言葉のうち、古文・漢文の影響を拾い出すことも、古典の可視化に一役買うだろう。

 さらに抽象度を上げて、行動様式としての影響を見るならば、わたしが何気なく撮ってSNSにアップする画像とつぶやきは、1000年前に紅葉を折り込んで詠んだことの現在形ではないだろうか。

 あるいは、映画「シン・ゴジラ」において発生した出来事を、時系列に沿ってリアルタイムで実況し、それに乗っかってツイッタラーがネタを広める[シンゴジ実況]なんて、インターネットを使った巨大な連歌は見えないだろうか。

 短い文章でつながっていく twitter において、普及度と特異な(?)使われ方を日本と他国で比較すると、そこに和歌や連歌の影響を可視化できないだろうか。

古典は「どれくらい」必要か?

 大事なことなので何度でも言う、古典は必要だ。

 だが、どれくらい、何をもってそう言えるのかについては、議論の俎上に上っていないものがある。なぜなら、言語や思考様式として内面化されているから。ニュートン力学が基礎としてあたりまえなように、古文・漢文も基礎としてあたりまえなのである。だが、両者の種類も程度も違う。それを測るための可視化が問われており、そうした検証の上で、議論が可能となる。

 噛み合わなくてもいい、という人はネットでうそぶいているがいい。リアルで、互いの最も重要なリソース・時間を使って議論をするのなら、最低でも「互いに問題視するものがあり、妥協ポイントは見いだせないにせよ、共通の問題は明確にできた」までは辿り着けないと。これは、(次回があるのなら)それまでの課題になるね。言葉の定義、立論を合わせ、当日までに議論ポイントとその検証までを準備しておく。

 それは「仕事とわたしとどっちが大事?」と訊くようなもので、異質なものをムリヤリ測ろうとするならば、どこかで歪みや偏りが出る。それは分かる。だが、議題に戻っていただこう。有限な「高校生の時間」というリソースをどうやって配分するかを考える上で、何らかの指標は、どうしたって必要なのだ。

 また、目的的行動の危うさについても分かる。「〇〇のために古典が必要」の〇〇なんて、時と場合により、そうした時と場合を超えて残り、普遍性を持っているのが古典なのだからね。それでも、その時とその場合による〇〇に対し、こういう面が応用できるという観点から訴えない限り、削られていくのみとなろう(そして、削られて残されたものが”古典”となる)。

 もう一度言う、古典は必要だ。

 だからこそ、その必要性を「伝わる言葉で」伝えないと。だが、内面化された古典の影響力を定量化するのは、かくも難しい。この件、もう少し続けてみる。国語のエキスパートたちのがどのように示してきたか、調べてみよう。かつて、古典は不要だ、全部ローマ字でいい、いや英語を公用語にしてしまえ、といった主張があった。

 知りたいのは、そこで「古典は必要だ」という人が、どんな主張をしてきたかにある。昔の古典必要派がフンショコージュの脊髄反射しかしなかったから、現在この体たらくなのか、あるいは、昔の古典必要派が体張って議論してくれたおかげで、この程度で済んでいるのか。議論が噛み合わないのは分かる(現在そうだから)。だが、そこで放置しないで、噛み合わせようとした努力は試みられたのか、知りたい。

 バトンは既に渡されている。わたしと、ここまで読んでしまった、あなたにも。

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