記事

"戦後最長景気"でトクをしたのは誰なのか

2/2

■訪日外国人によるインバウンド消費で潤った業界

一方、売る側の統計を見ると意外な事実が浮き彫りになります。「小売業売上額」の伸びを見ると、2014年度は消費税増税の影響で比較的大きなマイナスですが、15年度、16年度、17年度ともに個人消費の伸びの数字を上回っているのです。家計の支出は総じてマイナスなのに、なぜ小売業売上は上向いたのでしょうか。

その理由はとても興味深いものです。家計の支出には、小売り以外の通信費や教育費、医療費なども含まれます。このところ通信料金が下がっていますが、それも家計支出が減少した原因となっているのです。

もうひとつの原因は、「インバウンド消費」です。旅行者など訪日外国人が買うものは、日本に住む人の「家計」の支出には含まれませんが、小売業販売額には加算されます。訪日客の消費額は2017年で約4兆4000億円と言われており、日本経済に大きなインパクトがありました。

ただし、もうひとつの景気指標を見ると、違う側面が見えます。「全国百貨店売上高」です。2014年度は消費税増税の影響もあり、前年比マイナス4.6%と大きく落ち込みましたが(その前年度は駆け込み需要もありプラス4.0%)、2015年度はプラス1.8%と従来に比べても大きく上昇しました。これは、この頃に、インバウンド消費が急拡大したからです。百貨店では高級時計などが飛ぶように売れた時期です。

しかし、その後は、2016年度マイナス2.9%、2017年度プラス0.4%、2018年度は前年比で総じてマイナスです。これは、2015年度あたりから中国の経済状況が減速傾向を見せ、海外での人民元の売りが増えたことにより、中国政府が人民元防衛のために、外貨の持ち出し規制や関税の強化などを行ったためです。

それでも訪日外国人は、順調に増え続け、2018年にはとうとう3000万人を超えました。そのおかげもあり、東京や大阪だけでなく、京都や福岡、札幌などの地域では主に訪日客向けのホテルが次々と建設され、ホテル業界、建設業界も活況を呈しました。

■ほとんどの人の肌感覚は「景気はよくない」

また、高額品の売上は減少傾向ですが、ドラッグや化粧品は、リピートの訪日客が増えたことなどもあり、堅調に推移しました。こうしてインバウンド消費が小売業売上額を後押ししたのです。

しかし、米中貿易摩擦などにより、中国景気のさらなる減速傾向は鮮明で、訪日客の伸びや消費に急ブレーキがかかる懸念もあります。また、活況を呈しているように見えるインバウンド消費ですが、その恩恵を受けているのはごく一部だからでしょうか、内閣府が毎月発表している「景気ウォッチャー調査(街角景気)」を見ると、実際に現場で働いている人たちの景況感はそれほど良くはありません。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/UygarGeographic)

この調査は、タクシーの運転者さんやホテルのフロントマン、小売店の店頭にいる人など、景気の状況を敏感に感じる人への調査で、「50」が良いか悪いかの分かれ目なのですが、直近も含めて、ここ数年間は「50」を切る月が多かったのです。とくに2016年は「40」程度まで落ちたことがあり、2017年は年末にかけて少し持ち直しましたが、2018年の1年間でも、「50」を超えている月は11月だけしかありません。12月も「48」という状況です。結局のところ、ほとんどの人の肌感覚での景気はそれほど良くないということなのでしょう。

■消費税増税は景気にどのような影響を与えるか

今年10月に消費税率が2%上がります。2014年4月の増税時には、個人消費が先ほども述べたように、大きく落ち込み、その後もマイナスが続きました。今回はその轍を踏まないように、ポイント還元などで景気刺激策を行う予定ですが、全体の景気が危うい中で、果たして増税を行うべきでしょうか。

消費税増税には、当然、政治的な思惑も絡みます。安倍晋三首相が政治家として、また総理大臣在任時に最も行いたいことは消費税増税ではなく、憲法改正です。今の通常国会での憲法改正議論は先送りしましたが、4月の統一地方選挙、7月の参議院選挙を乗り越えれば、首相は一気に憲法改正に動くでしょう。野党が弱体化しているので、場合によっては衆議院との同時選挙の可能性もありますが、いずれにしても選挙を乗り越えれば、一気に憲法改正へと向かうと考えられます。

そうした中での10月の消費税増税。景気が悪化する中、消費税の増税を行うことは、国民の反発も強いでしょうし、憲法改正にも影響が出ます。私は消費増税のさらなる延期もあってしかるべきなのではないかと思っています。いずれにしても、今年の景気は予断を許しません。これまで比較的景気が良かった業種でも、相当の注意が必要でしょう。

(経営コンサルタント 小宮 一慶 写真=iStock.com)

あわせて読みたい

「景気」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。