■「可能な限り質疑に応じるべきだった」
新聞各紙の社説は問題の7分会見をどうみているのか。1月16日付の読売新聞の社説はこう指摘する。
「五輪招致に関する疑惑が払拭されていない以上、丁寧な事情説明が必要となる」
「相場よりかなり高いとされる、2億円余の支払いは適正だったのか。コンサル会社は、それに見合うどんな活動をしたのか。こうした疑問点について、16年の調査報告書は説明が不十分だった。より明確な回答が求められよう」
そのうえで主張する。
「それにもかかわらず、竹田氏の会見は、質問を受け付けず、書面を読み上げるだけで終わった。捜査中で詳細を語りにくい事情はあるにせよ、可能な限り質疑に応じるべきだったのではないか」
読売社説はその冷静さに定評があるが、この社説も捜査を受けている竹田氏やJOCに配慮しながら質問に応じる姿勢を求めている。
■「東京五輪のイメージが傷つきかねない」
毎日新聞の社説(1月16日付)も「五輪招致の正当性が問われる事態をどうとらえているのか。対応に疑問が残る記者会見だった」と書き出し、「招致を巡る裏金との疑念がもたれている以上、コンサルタント費の使途についても責任ある説明をする必要がある。このままでは東京五輪のイメージが傷つきかねない。情報公開に進んで応じるべきだ」と締めくくっている。
毎日社説も読売社説と同様、冷静に竹田氏側に対して適正な情報の公開によって説明責任を果たすよう求めている。
■「組織の責任者としての自覚も資質もない」
やや感情的なのは1月17日付の朝日新聞の社説である。
「あきれたのは会見した竹田氏の振る舞いである。疑惑を否定するメモを読み上げただけで質問に応じず、わずか7分間で席を立った。国内はもちろん、外国メディアも一斉に批判した」
「竹田氏は会見で、五輪準備に影響を与えかねない状況を招いたことを謝罪したが、説明責任を放棄した自身の行動が、事態をさらに悪化させていると認識しなければならない」
「あきれた」「放棄した」「認識しなければならない」など強い語調で竹田氏を批判する。沙鴎一歩は決して竹田氏に与すわけではないが、朝日社説には品性が要求される社説の在り方を再考してほしい。
さらに朝日社説は「竹田氏は会見で『私自身は契約に関し、いかなる意思決定プロセスにも関与していない』と釈明し、最後に書類に押印しただけだと述べた。組織の責任者としての自覚も資質もないことを、明らかにしたに等しい」とも書く。
あの7分会見の劣悪さを考えると、朝日社説が「自覚も資質もない」と批判するのは理解できる。
■読売社説は報復説を臭わせるような書きぶり
読売社説で気になるのは次の点だ。
「竹田氏は、賄賂の支払いを許可したという疑いを持たれ、仏司法当局が昨年末、起訴に向けた『予審手続き』に入った」と書き、「この時期に仏当局が予審を始めた理由は明らかではない」と指摘する。
なぜ読売社説は「この時期に」の一文を添えたのか。読売社説がその情報をつかんでいなければ添える必要はないはずだ。それを書いた。杞憂かもしれないが、報復説を臭わせるような書きぶりだ。
ただそうだとしても、刑事捜査は事実を積み重ねて真実を導き出し、法律に照らして違法性があれば起訴して裁判所の判断を仰ぐ。民主主義の先進国ならどこの国も流れは基本的に同じはずだ。つまりたとえ報復であったとしても、結果的にそこに違法性があれば司直の判断が下される必要がある。
■招致活動に不可欠な「コンサルタント」をどう扱うか
「オリンピックは不正な資金にまみれている」とはよく耳に話である。この点に関し、読売社説はこう書く。
「招致を巡っては、02年のソルトレークシティー冬季五輪で買収疑惑が生じ、招致都市はIOC委員への接触が困難になった」 「招致活動の制約が厳しくなった結果、情報収集などを担うコンサルタントの有用性が増した。このため、彼らなしでは十分な招致活動ができない面もある」
毎日社説もこう指摘する。
「02年ソルトレークシティー大会招致に際しての買収疑惑を契機に、開催地決定の投票権を持つIOC委員の立候補都市訪問は禁止された」
「その分、ロビー活動を請け負い、IOC委員と立候補都市との仲介役を果たすコンサルタントの役割が重要になっている」
コストが増すコンサルタントをどう扱うのか。来年の東京五輪をめぐっても経費が膨らむなど大きな問題がいくつも出た。東京五輪の開催を契機に日本が先頭にたってオリンピックの正常化に尽力すべきだ。それには日本が国際的に力を付けるしか道はない。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)