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  • Willy

経済統計の社会的価値を考え直してみよう

毎月勤労統計の調査において不正が発覚した。法律によって従業員500人以上の規模の事業所を全て調査すべきところを、1996年より一部の事業所を調査せず、2004年より東京都の分について一部だけを抽出して調査する方法に無断に切り替えていたという。また、抽出調査が不適切で、2018年以前はその復元処理が行われていなかった事も分かった。

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まず全数調査を抽出調査に変更するというのは、ほとんど全てのケースで調査コストを削減する事が第一の目的である。毎月勤労統計の不正も、統計調査のリソースを削減しすぎた事が要因になっているというのはほぼ間違いない。もちろん例えリソースに問題があったとしても法を犯してはいけないが、この問題に関して犯人探しをすることは経済統計の質の向上にはあまり意味がない。むしろリソースを削減すれば質は低下するという統計的に捉えるべき事実を、個別の人間の過失で片付けてしまうなら、そういう風潮こそが統計軽視そのものだからである。

私がこの問題を機会に日本社会に一番考え直して欲しいのは、経済統計の社会的価値である。

90年代後半以降、政府債務の増加が注目され政府支出が削減されるなかで、政府の統計に携わる部署でも合理化のプレッシャーが高まったのは想像に難くない。総務省によれば、厚生労働省の統計職員数は2004年の351人から2018人の233人へと大幅に減っているし、都道府県の専任職員数も2004年の2242人から2014年の1811人へと2割減っている。もちろん無駄な部分があったのであれば削ることに問題はないが、根本的な問題は、社会に経済統計の重要性が認識されず、なし崩し的にリソースが削減されていることだろう。

身近なところで物価統計にはどんな社会的意義があるか考えてみよう。

例えば、総務省の消費者物価では紙おむつの値段を調べている。皆さんは「紙おむつ」と聞いて何を思いかべるだろうか?私はまず、優しそうなお母さんがかわいい赤ちゃんに微笑むテレビCMの事を思い浮かべ、次に娘が小さい時に安い店を探して紙おむつを買った事を思い出した。しかし、私が思い浮かべたステレオタイプは紙おむつ全体の半分でしかない。実際のところ、総務省は乳幼児用の紙おむつと大人用の紙おむつを同じウエイトで調査しているのである。

もしも乳幼児用の紙おむつの値段が低迷し、大人用の紙おむつが長期にわたって値上がりしたら、紙おむつのメーカーは何をするだろうか?

値段はモノやサービスの需給を反映している。すでに両方のおむつを作っているメーカーであれば、おそらく高齢化によって大人用の紙おむつの需要が増えていて供給が追いついていないと考えて、大人用の生産をすぐにでも増やすだろう。乳幼児用しか作っていないメーカーであれば、しまったと思って、大人用の製品開発を急ぐかも知れない。結果として、大人用おむつ市場で品不足が解消されたり、競争が生まれて値段が下がったり、品質が上がったりするだろう。その結果、社会はより豊かになるのである。

マクロ経済全体に関わる問題についても考えてみよう。

大企業の経営陣であれば、経済統計を見ることによって、業界全体や景気の動きをみて、自社の投資の方針を決めたりすることになる。そうやって、例えば車を国全体で作りすぎてしまったり、大盤振る舞いで銀行が貸しすぎてしまったりというような悲劇を最小限に抑えているのである(それでも不幸にして度々起こってしまうのだが)。

もちろん経済統計がなくても、オムツのメーカーは必死で需給を追うだろうし、大企業や銀行も必死で他社や景気の状態を追うだろう。しかし、それぞれの会社が独自に調査をするのは非常にコストがかかるし、調査をせずに感覚で判断すると大抵は判断が遅れるものである。統計は実態に1-2ヶ月遅れるが、人々の意識は数ヶ月から数年遅れるというのが面白いところである。

一部の分野では、政府が統計を作らなくても企業が集まって業界団体を作り、集めた調査結果を共有する事もある。この事は、重要な統計の作成は経済的にペイするものであることを示唆している。

しかし、こうした統計の社会的意義が一般国民に意識される機会はほとんどない。残念ながら、政治家や予算を取り仕切る官僚であっても、そうした事をきちんと理解している人は少数だろう。直接一人一人に配られる補助金などと異なり、社会に薄く広くメリットをもたらす業務の価値を把握することは、感覚的にとても難しいことだからだ。

確かに、時代と共に役割を終える統計もある。詳細な農業統計の重要性が50年以上前に比べて低下して大幅な合理化が図られたことなどには理由がある。しかし、国民の暮らしに大きな影響を及ぼす経済統計については、制度設計と実際の調査の両面で十分な人的資源と財源を投入し続けていく事が国として不可欠なのである。

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