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  • L.star
  • 2012年03月28日 13:07

ロスジェネ世代がロストした最も大切だったもの

異議あり! 有給休暇

釣り針と言うより、あまりにもでかすぎて錨とでも言いたくなるが、しかし全くの善意で書かれていることは疑いない不思議な記事である。

なぜなら、「働かないのに給料がもらえる」ということと、それが「労働者の当然の権利」と言われていることに対して、率直に「ありえない」と思うからです。


善意が釣り記事に化ける最大の理由は、上の引用だけで全部言い表せる。この筆者は「期間契約」と「時給仕事」の区別が全く付いていない。

例えば年間52週完全週休2日有給計20日でいくら、という契約があったとすれば、それは年間260日の稼働日のうち、稼働率92.3%(=240/260)を維持しろ、というSLA付き契約ということである。ところがそれを「働かないのに給料がもらえる」と発想するなら、稼働率100%が前提なのである。

「稼働率100%なんて当たり前だろ」と思う人は、稼働率を保証することの難しさを全く知らない馬鹿だ。

高可用性システムをいくつもやった経験から言うと、稼働率をあげるには桁外れのコストがかかる。年間稼働率99%(=3日強のダウンタイム)を保証するのは難しくない。

ところが99.9%(=年間8時間)にするには素人がその辺のマシンで、では全く無理。専用データセンターなりホットスワップ可能なRAID構成のハードディスク、即応のための体制や予備機など10倍近いコストがかかる。99.99%(年間1時間以下)には、HA構成のサーバ群が必須で、これが手間やら運用ノウハウがかかる上、ハードやソフトもべらぼうに高い。

人間よりはるかに連続稼働が簡単なコンピューターですらこれである。人間が稼働率100%を維持するというのがどれほど大変か。もちろん「偶然にも」稼働率100%を実践できることはある。しかしそれは所詮偶然に過ぎない。だからこそ余裕を持ってリソースを確保して行かなければ、不慮の自体に対処できないのだ。それをせずに何か起こるのを「稼働率が高くないから悪い」というのはずいぶん甘えた発言だ。

脇道にそれてしまったが、もちろん最初に書いたとおり、筆者はそういう「無能さ」を押しつけようとするのでは決してなく、全くの善意で書いているのだろうな、とは思う。それはつまり「権利」ではなく「感謝」であれ、という「自分に厳しく」ということだ。しかしそこに正しい説得力のある裏付けがないと、「会社に優しくあれ」というありもしない意図が見え隠れしてくる。

二十一世紀にふさわしい「頑張る」を考えよう…「若い人たちに時間を気にしないで働いてもらう」騒動の本当の意味

でも「頑張らなければ駄目だ」という話をしたが、実はこの記事にも割とネガティブなコメントがいっぱい付いた。それは先人の一言を「自分に厳しくあること」という読み方をしたか、「会社に優しくあること」という読み方をしたかによって大きく分かれたのだろう。特に若い人はこういう文面を「会社に優しく」と読みがちである。そう読まれると悲しいことに通じないエントリである。しかし、その壁はいったいどこにあるんだろうかと悩みつつ、その「会社に優しい」という解釈が新しいヒントになった。

何の言い訳も無しに自分に厳しくなれる人は本当に少ない。ごく少数が「好きだから」自分に厳しくなれる。またそれよりはましだが、まっとうな目的のために自分に厳しくなれる人も多くはない。こういう人はだいたい最高の人材になる。

しかし、多数の人たちをそういう風に条件付けする方法は見つかっていない。大半の人は何かを言い訳にする。古い「自分に厳しく」ある人は、多くの人が「会社」とか「社会」を言い訳にして自分を厳しく律してきた。それは結果として会社を甘やかしただろうが、それ以上に自分に厳しくあることにはメリットがあった。

しかし、そのバランスはだいぶん崩れた。例えば「会社に優しいこと」を「自分に厳しいこと」と勘違いする人が多数出てきた。ゲーム会社勤務の友人(当然名前は秘す)は上司が「だって若い人たちはゲームさえ作れればよくて、お金なんか欲しくないでしょ?」と言い放ったのを聞いたそうだ。

もちろんお金が欲しくない人などまずいないわけで、これほど甘ったれた発言はない。できれば作り話だと信じたいが、残念なことに、実際にこれに類する甘い発言はいくらも聞いたことがあるので、良くある「会社に優しい発言」の一つだろう。

このような「会社を言い訳に自分に厳しくする」を巧妙に利用して搾取しようとするのはいつの世にもいる。例えばブラック企業などはその典型だろう。思えばそれは「現実と認識のギャップを利用して儲ける」非常に巧妙な手法と言える。中年以降の層がそのギャップにはまった反面若者が「騙されない」のは、植え付けられ方の差だろうか。そういう若者を見るにつけ、ロストジェネレーション世代は確かに失ったものがあったのだ、と思う。「頑張るべき理由」を。

そういう意味で、二十一世紀の「頑張る」とは「会社を言い訳にして頑張る」というやり方、言い換えれば「社畜モデル」からの脱却といえるだろう。それは短期的には目標の多様化と搾取の排除であるし、中期的には新しい努力モデルの構築であり、長期的には我々の心のありようをどう形作るか、である。「社畜モデル」は未だ有効だが、もはや中枢ではなくなったのだ。

その視点で見ると、昨今の「ノマド」vs「アンチノマド」には、その「会社モデル」に論拠して頑張るやり方と、そうでないやり方の対立、という見方が出来る。

ブラック企業 vs ハイテクノマド:最後まで立っていたほうの勝ち

では「騎兵」vs「歩兵」という文脈からこれを読み解いたが、「努力モデル」という観点から見れば「歩兵」とは「歩兵の一員として頑張る」という確立したものがある。一方の「騎兵」には今のところ確固たる努力モデルが存在していない。たしかに何人も「ノマド」が出てきているが、彼らは自発的に努力が出来る限られた一部の優秀な人材だ。それがもっと普遍化するにはもっと時間が必要だろう。

 

その新しい努力モデルの確立のために、現在沢山の試行錯誤がある。例えば英語やグローバル化などを軸に国際社会にそれを求めるとか、ネットなどを活用した新しいコミュニケーションに求めるとか、貨幣経済以外にそれを求めてみるとか。L.starがツイッターで仲良くしている連中は、だいたいそういう試行錯誤の大好きな連中だ。確かに荒唐無稽や無意味なものがあったりするのも事実だ。が、それでも試行錯誤を続ける彼らには本当に「未来は明るい」と感じさせられる。

確かに我々ロスジェネ世代は本当に大切なものを失ったな、と思うことはよくある。でもそういうチャレンジの中に、我々はもっと大切なものを見つけられるのだろうな、という期待、そんな時代を生きていけることは本当に素晴らしいことだ。

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