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東京オリンピックとフランス刑法(続:その2)

 この「東京オリンピックとフランス刑法」シリーズ、1本目2本目とも御好評でした。アクセス数が跳ね上がっておりまして、ちょっと驚いています。そういう中、「何故、竹田JOC会長が、東京オリンピック誘致関連でフランス法で裁かれ得るのか。国際オリンピック協会本部はスイスのローザンヌ、おカネの出所は日本、直接の行先はシンガポールのブラック・タイディングス社、収賄の嫌疑が掛かっているディアック氏親子はセネガル人ではないか。」という趣旨の問をたくさん頂きました。

 これは刑法上の「国外犯」の考え方が日仏間では決定的に違う事が関係しています。まず、日本における国外犯が刑法上、どういうふうに規定されているかと言うと、大体以下の通りです(非常に大まかなものなのですので、刑法に詳しい方はあまり詰めないでください。)。

● すべての者の国外犯(刑法第2条):誰が何処でやろうが犯罪という事で、分かり易いのは「通貨偽造」。外国で外国人が円の偽造やっていたら、それは罰しなくてはいけないでしょう。

● 国民の国外犯(刑法第3条):日本人が外国で犯した犯罪も、日本で犯罪とするという事。放火、強制わいせつ、強制性交、殺人、傷害、誘拐及び人身売買、窃盗、強盗、詐欺、背任、恐喝等、結構多いです。

● 国民以外の国外犯(刑法第3条2):外国において、外国人が日本国民に対して罪を犯したものを罰するという事です。2003年に盛り込まれた比較的新しい規定でして、元々は公海上の外国船籍船舶で起こった外国人による日本人殺人事件を、当時の刑法で裁けなかった事から設けられています。かなり限定的で、強制わいせつ、強制性交等、殺人、傷害、傷害致死、逮捕監禁、略取、誘拐及び人身売買の罪、強盗等に限られます。

(注:この他にも「公務員の国外犯」、「条約による国外犯」の規定がありますが、本エントリーとは関係が薄いので省略しています。)

 フランスが竹田氏に対する予審手続きを正式に本格化させていますが、これはフランス側から見ると、上記で言うところの「国民以外の国外犯」に当たります。そして、日本の現在の刑法では贈収賄はこの中には含まれません。なので、全く逆のケース(フランスのオリンピック委員会のトップが、自国のオリンピック誘致のため贈賄を行いその影響が日本に及んだ)では、日本の検察、司法はそれを取り締まる権限がありません。

 しかし、フランス刑法は違います。一般論として、大陸法系のドイツ、フランス、イタリア、更には韓国等では、国外で国民に対して犯された犯罪について自国の刑法を相当広く適用しています。

 まず、フランス国内で犯された犯罪に関する規定を見てみます。以下には「犯罪の事実関係の一部(un de ses faits constitutifs)でもフランス国内で行われていたのであれば、フランス刑法は適用され得る。」と書いてあります。

【フランス刑法第113条の2】
La loi pénale française est applicable aux infractions commises sur le territoire de la République.
L'infraction est réputée commise sur le territoire de la République dès lors qu'un de ses faits constitutifs a eu lieu sur ce territoire.

 そして、国外犯規定の中でも、上記の「国民以外の国外犯」に関するものを見てみると、非常にざっくり言って「外国人が国外で犯した犯罪であっても、重罪又は禁固を伴う軽罪については、被害者がフランス国籍であればフランス刑法が適用され得る。」となっています。

【フランス刑法第113条の7】
La loi pénale française est applicable à tout crime, ainsi qu'à tout délit puni d'emprisonnement, commis par un Français ou par un étranger hors du territoire de la République lorsque la victime est de nationalité française au moment de l'infraction.

 前回書きましたが、竹田氏事案が発覚したのはどちらかと言えば「マネー・ロンダリング」系の所からです。その部分は、間違いなく国内犯だと捉えているでしょう。そこから先の贈収賄のケースについては、どういう論理構成になっているのかよく分かりません。オリンピック誘致のためのカネがディアック国際陸連会長(当時)親子に行き、そのカネの一部がパリで使われた事を以て、犯罪の事実関係の一部がフランス国内で行われたと見ているのかもしれませんし(その場合は国内犯)、完全に後者の国外犯既定を適用しているのかもしれません。

 国外犯既定を適用する場合、ここで何を以て「被害者(victime)」と呼ぶのかは今回の件では難しいなと思って、フランス刑法を見ていたら面白い事に気付きました。

 普通の贈収賄に当たる犯罪は、刑法の中で「国の権威に対する侵害(Des atteintes à l'autorité de l'Etat)」というタイトルの中の、「公共行政への侵害(Des atteintes à l'administration publique)」という章の枠に位置付けられています。普通に考えるとそうなるでしょう。

 しかし、(今回の竹田氏に対する予審手続きの根拠となる)民間団体間の贈収賄は「公共の信頼に対する侵害(Des atteintes à la confiance publique)」というタイトルの中にあります。そして、そのタイトルの中で、民間団体間の贈収賄と同列で並べられているのは、虚偽行為・文書、通貨偽造、有価証券偽造といった犯罪です。多分、通常の贈賄と今回の竹田氏事案での民間団体間の贈賄とでは、罰則による保護法益が全く異なるものとして捉えられているのでしょう。多分、民間団体間の贈収賄という犯罪の「被害者」の概念はかなり広く取られ得るのでしょう。

 いずれにせよ、広く刑法を適用しようとするフランス刑法からすれば、今回の事案は「適用可」となるはずです。「自分の国の法律を何処まで適用させるか。」は、国によって異なります。日本の感覚で判断すると誤ります。フランスの報道に慣れ親しむと、「へー、そんな事まで裁けるんだ。」と思わされる事は多いですからね。

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