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過去との「呼応」で描き出す「難民の現実」 - フォーサイト編集部

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マルセイユで、別人に「乗り換える」ことになってしまったゲオルク(右)。出会ったマリー(左)は、その別人の妻だった (C)Schramm Film

 地中海に面したフランス最大の港湾都市・マルセイユ。この街は、ファシストの猛威に追われて国外へ脱出しようとする人々であふれていた。激しく動きつつある歴史に翻弄される、男と女。その運命の行きつく先をスリリングに描き出した独仏合作映画『未来を乗り換えた男』(原題『TRANSIT』)が、1月12日から公開される(ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館をはじめ全国順次公開)。

クリスティアン・ペッツォルト監督 (C)Schramm Film

 メガホンをとったのは、冷戦下の東ドイツを題材にしたベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作『東ベルリンから来た女』(2012年)や、第2次世界大戦直後のユダヤ人を取り上げた『あの日のように抱きしめて』(2014年)といった歴史映画製作で知られる、ドイツの巨匠クリスティアン・ペッツォルト監督である。

 この作品は、ドイツ抵抗文学の代表作『第七の十字架』で著名な作家アンナ・ゼーガースが、自らの亡命体験を基にした小説『トランジット』(1944年発表)が原作。だが、ペッツォルト監督は設定を第2次世界大戦中の時代から、その現代のマルセイユへと大胆に変えている。なぜ舞台設定を変えたのか、そして作品に込めた思いは――ペッツォルト監督に聞いた。

「リアルな寓話」

――作品の設定を、原作の1940年代前半から現代に移していますが、作中にはパソコンもテレビもスマートフォンも一切登場しません。なぜ、全くの「現代」にしなかったのでしょうか。

 確かにそうしたものは、作中には登場させませんでした。それは息子からこう言われたことがきっかけになっています。「映画にパソコンとかスマートフォンを出すと、すぐに古臭くなるよ」と。

 例えばスティーブン・スピルバーグ監督の『E.T.』(1982年)を観てみると、当然ですがパソコンもスマートフォンもないかわりに、永遠の映画となりうる要素を持っています。一方『ストレンジャーズ』(ブライアン・ベルティノ監督、2008年)には、当時の最先端だったスマートフォンが登場しますが、今観ると、なんて古臭いんだろうと思ってしまう。私は今回の作品で、意図的に「現代の文明の利器」を登場させなかったのです。その意図とは、1944年当時と現代とのつながり、言い換えれば昔と今とがこだまのように呼応しあう世界を描き出そうというものです。

 私はそもそも、映画とは夢のようなものであるべきだと思っているのですが、その意味からすれば、これは現代を舞台にした「リアルな寓話」ですね。

――振り返ると、原作が発表された1944年当時は、ナチスがドイツで猛威を振るい、進攻によってそれがフランスへと広がった時代でした。一方、今のヨーロッパではポピュリズムが広がり、一歩間違えばファシズムへと転換してしまいそうに思えます。監督の言う「呼応」には、そうした政治的な意味があるのでしょうか。

「呼応」の意味については、撮影を進めていく中でそうした政治的な意味合いも明確になってきましたが、元々はそういうつもりはありませんでした。

 舞台となったマルセイユという街は、ヨーロッパにとっては文化の1つの中心であり、また軍の施設もある大都市です。10年ほど前まで、この街は世界に開かれた、オープンなところでした。ところが今や、地中海を通って各地の難民が集まる街になってしまった。私はここに、大きな時代の変化を感じます。

 原作が書かれた頃は、ヨーロッパから人々が逃亡しようとしていて、マルセイユはその「出口」でした。ところが今は、世界の難民がヨーロッパにやってこようとしていますが、ヨーロッパはここに壁を築こうとしている。私はこの作品で、出て行こうとしている人と入ってこようとしている人の出会いを「呼応」として描きました。最近の2作品はいわゆる歴史映画ですが、今私が撮りたいのはそれではない。過去を再構築するという安全な作業をするつもりにはならなかったので、現代を舞台にしました。

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