- 2019年01月10日 16:15
名門医学部「純血主義」が生む「不正」「性犯罪」「医療事故」 - 上昌広
2/2関連病院とのいびつな関係
話を戻そう。閉鎖的な環境で生まれる名門意識が関連病院との付き合い方もいびつにする。慶大OBである土屋了介・元国立がん研究センター中央病院長は、「東大と比較して、名門とされる私大は関連病院を完全に仕切りたがる。慶應の場合、関連病院を慶大一色にしがちだ」という。
慶大の代表的関連病院である東京都済生会中央病院は、29の部長ポストがあるが、我々の研究所が調べたところ、そのうち24を慶大卒(大学院を含む)が占めていた。
この傾向は慶大に限った話ではない。東京医大の系列である戸田中央総合病院では、理事長、院長、4人の副院長全員、部長以上31人中、20人が東京医大出身(大学院を含む)だった。
東大の関連病院とされている虎の門病院では、49の部長ポストのうち、東大卒が占めるのは19だけ。歴代院長は東大卒だが、過半数の部長が他大学卒だ。東大の都合では動かない。
もちろん、「その他」に分類される医大は関連病院も少ないから、こんなことは起こり得ない。
こんな状況が続いて、腐敗しないほうがおかしい。その最たる例が性犯罪の多発だ。
古くは1999年5月、慶大医学部の学生5人が20歳の女子大生を集団でレイプした(逮捕は7月)。主犯の男は23歳だったが、実名は報じられなかった。被害女性との間に示談が成立し、最終的に不起訴処分となった。この学生は慶大を退学したものの、他の国立大学医学部に再入学し、現在は医師として働いている。
このような事例は慶大だけではない。慈恵医大では、2009年1月には36歳の内科医がビタミン剤と偽り、妊娠した交際中の看護師に子宮収縮剤を飲ませ、さらに「水分と栄養を補給するため」と称し、陣痛促進剤を点滴した。
この件は妊娠した看護師の知るところとなり、この男は不同意堕胎罪で逮捕され、懲役3年執行猶予5年の判決を受けた。さらに厚労省から医師免許を取り消されている。
2017年2月には、慈恵医大の31歳の医師ら3人が、泥酔した10代の少女を集団で準強姦した容疑で逮捕された。この件では不起訴となったが、暴行の事実は隠せない。
戦前からの医科大学で残るのは日本医大だ。同大では強姦事件はないが、恋愛での刃傷沙汰が起こっている。2017年5月、同大学の4年生が東京医科歯科大学付属病院に乗り込み、勤務中の41歳の歯科医に隠し持っていた刃渡り21センチの牛刀などで切りつけた。幸い、歯科医は一命を取り留めたが、全治3週間の重傷をおった。学生は駆けつけた警官に逮捕され、その後の捜査で交際中の女性をめぐるトラブルが原因と判明している。
このようなケースは氷山の一角だろう。事件化しなかった多くのケースがあると考えるのが普通だ。
「医療事故」「医療犯罪」が続出
こんな状況で、まともな医療が出来るわけがない。医療事故が多発する。なかには「犯罪」と言われて仕方ないものまである。
例えば、2012年には慶大の呼吸器外科教授だった野守裕明氏(当時)が、自らが主導する臨床研究のため、26人の肺がん患者の手術中に無許可で骨髄液を採取していたことが明らかとなった。
傷害罪で刑事罰を受けてもおかしくないケースだが、慶大は野守教授と専任講師を停職1カ月にしただけで、厚労省も刑事告発しなかった。
その後も事態は改善されないようだ。『選択』は2016年7月号で「実録『慶應病院オペ室』封印される手術ミス『続発』の戦慄」という記事を掲載している。この記事の内容は、知人の慶大の外科医から、私が聞いている話とも矛盾しない。
このような状況は慶大だけに限った話ではない。慈恵医大では2002年に有名な慈恵医大青戸病院事件が起こった。
この事件では経験の乏しい泌尿器科の医師が、高度先進医療であった腹腔鏡下前立腺摘出術を行ったところ、静脈を損傷し、患者を死に至らしめた。術者と第1、第2助手は業務上過失致死で起訴され、最終的に執行猶予つきの禁固刑が確定した。
慈恵医大の医療事故は、これだけではない。2017年1月には消化器・肝臓内科を受診した72歳の男性がCT検査を受けたところ、肺がんの疑いを指摘されたが、主治医が検査の報告書を読まず、約1年間、放置していたことが明らかとなった。患者は適切な治療を受けることなく、死亡した。
順天堂大も例外ではない。2018年4月には新生児の取り違えがあったことが判明しているし、2017年9月には無痛分娩の事故で提訴された。
このような事情を知る知人の開業医は、「自分の患者は紹介しない」と言う。このことは、データでも確認できる。
例えば、大学病院のドル箱であるがんの手術件数だ。『手術数でわかるいい病院2018』(朝日新聞出版)によれば、2016年の胃、大腸、肝胆膵、肺がんの手術数の合計は順天堂大898件、東京医大675件、慶大約670件、日本医大545件、慈恵医大477件、昭和大約450件だ(いずれも本院)。がん研有明病院の2025件、国立がん研究センター中央病院の1528件はもとより、順天堂大学以外は、学術研究にウェイトを置く東大病院(853件)にも及ばない。
特記すべきは、がん研有明病院や国立がん研究センターからの医療事故の報告が少ないことだ。2~3倍程度の手術をこなしているにもかかわらずだ。量が質に転化しているのだろう。このままでは、淘汰されるのは時間の問題だ。
「金融業者には絶好のカモ」
明治以来、首都の医療をまもってきたのは私大医学部だ。ところが、閉鎖的な男性社会に閉じこもり、「世間知らずのエリート」ばかりの集団になってしまった。女性差別、裏口入学、贈収賄まで罷り通っている。医療レベルは低下し、患者からも見放されようとしている。
人気漫画『ナニワ金融道』の著者である青木雄二氏は、以下のように言う。
「カネ貸しはね、自分より賢いやつにゼニは貸しません。これ、鉄則」
「金融業者は弁護士にはカネを貸さない。追い込みをかけようとしても、あれこれと頭のいい抜け道を使われたら、金融業者の手に負えなくなってくる。けど、医者には貸す。医者はいくら頭がよくても、やはり世間の知識にうといから、金融の抜け道なんていうのは知らない。学校の先生や警察官、公務員もこの類いだから、金融業者にとっては、絶好のカモ」
医師は医学バカであってはならない。医学的な専門知識とともに、社会的な常識をわきまえなければならない。グローバル化、情報化が進む世界で、求められる「社会的な常識」は増えている。いかにして、よき医師を育てるか、医学部教育の抜本的な見直しが必要である。



