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大手マスコミに代わって危険な戦地へ向かうフリーランス 安田純平さん拘束から見えるいびつな構造

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海外メディア「安田さんは謝罪する必要はない」

綿井健陽氏

綿井健陽(ジャーナリスト・映画監督):1971年生まれ。アジアプレス・インターナショナル所属。米軍によるイラク侵攻では、現地に留まって取材を続けた。スリランカや東ティモールなど数多くの紛争を取材し、「ロカルノ国際映画祭」人権部門・最優秀賞を受賞。

イラク戦争の取材を2003年以降、細々とやっているのですが、日本人の殺害と、その合間に拘束事件が起きている。だいたい2、3年おきに起きていて、そのたびに「創」で座談会をやり、シンポジウムをやるのが定着している。いつも忸怩たる思いなのですが、こういうときだけジャーナリストが注目される。取材していることやシリアで何が起きているかはあまり注目されない。

安田さんの日本記者クラブの会見の1週間後、日本外国特派員協会で会見があった。最初の会見は非常に張り詰めた空気だったと思うのですが、特派員協会のほうは温かい歓迎ムードだった。日本のメディアと、外国のメディアが注目するところは非常に違うと思いました。最初の質問は「あなたは謝罪する必要はないのだ」というところから始まって、そういう質問が相次いだ。

ジャーナリストが標的にされている

2018年は、世界的にジャーナリストが注目された年だと思います。サウジアラビアの記者が領事館で殺害されました。ミャンマーでロイター通信の記者2人が国家機密を盗み出した罪で禁固7年という判決を受けました。調査段階ですが、2018年のジャーナリストの死亡者は53人から80人ぐらいということなんです。ジャーナリストが非常に標的にされている。見せしめとして殺害されたり、あるいは脅しとして殺害されたり。非常に憂慮しています。

世界のジャーナリストたちはいわゆる戦闘や銃弾に巻き込まれる以上に、国の中でローカルな記者が対国家や対政権の機密や秘密を暴こう、あるいは伝えようとしている。それをいつも横目に見ていて、「やっぱり日本の記者もそういうところにいたほうが」と。(殺害されたフリージャーナリストの)後藤健二さんも安田純平さんもそうですけど、日本人が日本の感覚で、日本と比べたりして取材して報道すると身近に感じられると思います。

政府に従わないと叩かれる 日本の国民性に疑問

金平茂紀氏

金平茂紀(TVキャスター):1953年生まれ。77年にTBSに入社し、モスクワ支局長、ワシントン支局長などを経て、『筑紫哲也 NEWS23』の番組編集長(デスク)。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。

自己責任論でいうと、2004年にイラクで日本人3人が人質となった時に、まるで彼らが非国民であるかのようなバッシングが起きた。その時、私はワシントン支局にいた。アメリカでは人質になっていた人が戻ってきたら非常に温かく迎える。「よかったね」と。

日本の場合はめちゃくちゃに叩かれて、家族にまで脅迫状がいく。ワシントンにいて信じられなかった。この国民性は何なんだと。政府に従わないものは叩いて当然だと。要するに、自己責任論の背景というのは、今の政権を支持するものが声高に自己責任論を叫ぶということをきちんとつかまねばならない。

ある女性国際政治学者をテレビが良く使うんです。政治学者って言ってるのに、安田さんの言うような事実を踏まえずに、「身代金が払われただけである」とか、「ひとつも事実がわからなかったから失敗だ」とか何を言っているんだと。そういう人が政治学者として食っていけるという世の中のほうがおかしいんですよ。それを聞いていて私は非常に不愉快だったのですが、そういう人間を使うメディアもまたメディアなんだと思います。

自己責任は、新自由主義の経済が出てきて、政府とか公の責任をいかに軽くするかの文脈で出てきた言葉だが、今使われている文脈は自業自得。ざまあみろ論です。日本的な同調圧力をかけてはじき出すみたいな。非国民探しですよね。そういう論理は全く与する必要はない。そういう論が出たら、「一体どういう立場でそんなこと言っているんだ」と問い詰めて、徹底的に論破する必要がある。

危険な現場はフリーランスに 大手マスコミの欺瞞

もう一つはフリーランスが置かれている立場です。既存の大手メディアが戦場に取材に行かずフリーランスに行かせる構造が、NHKもTBSもテレ東も日テレもある。危険を回避して自分たちの社員は行かせないで、フリーランスの人が行って出来高払いでモノを放映する。そういった構造を打ち砕かないといけない。自分たちが危険を回避して自己規制して、忖度して、危険をフリーランスに追わせて、その成果を自分たちの成果であるかのようにオンエアする醜悪さをそろそろ感じるべきだ。

今起きていることの背景にある一つが排外主義。「日本だけでいいじゃないか」「そんな外のことでわけ分からないとこまでわざわざ行って」と。日本だけで充足して、「日本は素晴らしい日本は良いとこだ」と言って、外のことに目をつぶる排外主義がすごく広がっている。中東で起きていることは、「遠いとこのことなんて関係ねえよ」みたいな空気が流れていることが、自己責任論の背景、フリーランスの人にきちんとした対応をしない背景にある。

外に目を向けないままでは、日本は戦争に気づけなくなる

川上泰徳氏

川上泰徳(中東ジャーナリスト):1956年生まれ。元朝日新聞中東特派員で、2002年「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。退社後、フリーランスとして中東と日本半々の生活。著書に「『イスラム国』はテロの元凶ではない グローバル・ジハードという幻想」(集英社新書)など。

戦争というのはずっと中東で続いています。戦争というのは日本から見ると非常に遠いことと思うかもしれません。実際にそうかもしれません。ただ現地で見ると、僕たちが考えている以上に恐ろしい。戦争が起こると、武器が集まって武器が蔓延する。それから暴力が蔓延する。戦争が起こると、地域も国も不安定になる。そうすると、みんなが自分で身を守らなくてはならなくなり、結局、武装化が進む。

日本の排外主義の中で、外に目を向けない中で、戦争の怖さがだんだんと遠のいていく。ということは、戦争が近づいてきたときに分からないわけです。中東を取材していますが、日本との関係や、これは知らなくては、知らせなくてはと思って取材をする。安田さんが紛争地に入っていく、そこの社会がどうなっているかに関心をもって、知りたい、伝えたいということで入っていく。危険は伴うが、重要なことなんです。

シリア内戦は30万人の人々が死に、500万人の難民、700万人の避難民というような状況。こんなひどいことが世界に広がっているという想像力、単に想像するだけじゃなくて、現地に行ってどういったことが起きているかを調べて取材して、伝えるのはジャーナリストしかない。国は情報を統制したいでしょう。「なぜ危険地で安全が確保されないのに行くのだ」とパスポートを取り上げたりする。

「戦争の現実は?」 市民の思いがメディアを動かす

ジャーナリストがなぜ戦場に行くのか。行かなくてはならないからです。暴力によって、イラクで生活が無茶苦茶になったことが、いつ日本で起こるかわからない。70年前は日本でそういうことが起こったわけですよ。今中東で起こっていることを知ることは日本の未来かもしれない。

自己責任論が広がると、新聞社が「こんなことをするとバッシングを受けるから」となりかねない。「君は中東のことを知りたくて行くかもしれないけど、君が捕まったら、会社は責任取れない」と言われる。情報を伝えることに市民の支持がないわけです。それは、日本のメディアの責任かもしれないけど、市民が「戦争の現実が知りたい」「中東で何が起こっているのか知りたい」となれば、新聞社だってテレビ局だって人を送って伝えるはずです。

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