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虚偽証言による有罪判決 国賠訴訟の過失の有無だけで終わらせてはならない その発想ならまたえん罪を産む

虚偽の証言によって強姦の罪で有罪判決を受け、服役中に被害者とされた少女が実は虚偽の証言をした、そのため再審無罪となった事件について、捜査機関、裁判所の責任を問う国賠訴訟の判決がありました。請求棄却です。

 判決文そのものはみていませんが、報道では、捜査、起訴の過程に過失はない、被害者の動機に思い至らなくても有罪判決を下したことに裁判所の判断に過失はないとするもので、想定通りのものです。

 刑事補償は当然に受けられますが、それで済むような話ではありません。刑事補償は1日1000円以上12500円以下とされています。12500円でも時給換算すればわずか521円にすぎません。
 日々老いていくことを考えれば、その時点で一番、良い時期を刑務所に身柄を拘束されているということになるのですから、これほどひどい話はありません。

 だからこそ誤判はあってはならず、例え10人の犯人を逃すことがあっても1人の無辜を処罰してはならないという疑わしきは罰せずという大原則があるわけです。


 今回の事件では、被害者の証言と目撃証言が証拠の中核になっています。

 但し、目撃証言は被害者の兄で被害者と近い関係です。もともと他人でありながら、同居していたという普通とは異なる世帯構成でした(但し、報道ではこのあたりが詳しくはわかりません。)。

 被害者の証言、目撃証言に依拠する場合の怖さは、犯罪への引き込みです。

 共犯者の自白がその典型とされていますが、性犯罪などでも従前から問題にはなっています。痴漢えん罪などでは被害に遭ってもいないのに逆恨み、恐喝目的などでの虚偽の申告など悪質なものであったり、強姦事件では自ら承諾したにも関わらず、無理やり強姦されたと虚偽の申告するものなどです。
 単に犯人性を間違えたというだけでは済まない、虚偽の申告の場合です。

 今回、問われているのは、捜査機関も裁判所も虚偽の証言だと見抜けなかったのかということです。

 この事件で問われているのは、捜査機関、裁判所がえん罪防止のために真剣に検証したのかということです。

 これは過失の有無という法的評価の問題とは別です。捜査機関にも裁判所にも過失がないから問題なしね、という態度ではえん罪事件はなくなりません。

 次の事件は裁判の過程で被害者Aの目撃証言の信用性がないということで無罪判決となったものです。
「器物損壊 無罪確定女性「逮捕で一変」PTSD、家は売却」(毎日新聞2018年11月2日)
「近隣住民の乗用車に漂白剤のような液体をかけたとして器物損壊の罪で逮捕・起訴され、10月に無罪が確定した岡山市の女性(40)が毎日新聞の取材に応じた。女性は「犯人扱いされ、自白を強要された。警察や検察は間違いを認めて謝罪してほしい」と訴えている。」

 弁護人の活動により幸運にも無罪判決を得られました。

 ここでは被害者Aの証言の信用性が客観証拠と矛盾するということで積極的に否定されています。

 では、この被害者Aの証言と矛盾する客観証拠がなかった場合はどうでしょう。

 ないというのは存在しないという場合もありますが、そうではなく見つかっていないだけという場合もあります。

 もちろん、あるべき場所になかったということであれば、その場合には被害者Aの証言に矛盾する客観証拠は存在しない(そうした証拠が1つだけとは限らないのですが、ここでは単純化しています。)と確定し、被害者Aの証言は信用できるとなります。

 証拠となるものが証言や供述のみしかない場合、それ自体に矛盾がないとして信用性ありとしてしまったら、えん罪を生み出すことになります。

 供述調書は捜査機関が作成しますが、当然のことながら矛盾を来さないように作成されます。証言の場合も証人テストによる捜査機関からの後知恵の問題もありますが、それ以上に単に「見た」というだけの証言そのものを崩すことは困難です。

(証言の信用性を基礎づける証拠の捜索ですべきところをしていないというのであれば、捜査の怠慢であり、矛盾する客観証拠が「ない」とすることはできません。このような捜査で起訴されるのは問題外です。)

 器物損壊の事件では、弁護人が種々の客観的事実との矛盾を指摘し、そうしたことがある意味では積極的に無罪判決を導いたとも言えるのですが、無罪推定の原則からすれば、そうした客観的事実との矛盾がなかったとしても有罪の決め手を欠くということで無罪判決にいたらなければない場合でもあります。

 ところで、目撃証言に信用性がない=意図的な虚偽とは異なります。記憶があやふやで首をかしげるようなものであれば、有罪判決の証拠として用いるのは躊躇するということで無罪判決になる場合でも意図的なのかどうかは記憶があやふやだからというだけではわかりません。

 偽証罪に問われるのも故意に自己の記憶と異なる証言をした場合ですから、こうした主観の立証は普通は困難なので、偽証罪に問われるケースはまれです。

 意図的に陥れるためであれば、逆にその証言は具体的かつ詳細ということになります。

 まず問われているのは捜査機関です。捜査機関が被害者とされる者の証言を鵜呑みにするようなことは普通はありません。何故、という疑いの目も被害者に向けます。当然のことです。被害者の供述を元に裏を取りますが、全く裏取りもしていないような場合は問題で、よく逮捕後2日後に保釈というように普通に捜査としてやるべきことをやっていれば人まちがえなどには至らないようなものなど杜撰さが指摘されることになります。時折、被害者とされる者の供述を鵜呑みにしてしまうときに誤りが起きます。

 しかし、ここが素通りされてしまうとベルトコンベアに乗せられたかのように起訴まで行ってしまいます。後から矛盾する客観証拠が出てきてしまうのはこのパターンです。

 ただ、そういった案件で思うのは、こうした案件が杜撰捜査のまま起訴されてしまった場合でも裁判所は無罪判決を下せるんだろうかという不安です。

 被害者の供述と被告人の供述のどちらが信用できるかなどという天秤に掛けるようなやり方で、被害者が特に被告人を陥れる動機がない、具体的かつ詳細であり、供述は信用できる、他方で被告人は不合理な弁解に終始し、その供述に信用性はない、というのは裁判所の大好きなフレーズです。

 これで多くの痴漢えん罪が生まれました。結局、裁判所が歯止めになっていないというのが一番の問題です。

 今回の国賠訴訟の請求棄却ですが、裁判所が自らの失態を反省し、検証しているのかが問われいてるのですが、大きな危惧感を与えるものと言わざるを得ません。

 裁判官が見抜けないというのであれば、1つの方策としては、被害者の供述の変遷をすべて記録することです。どのように変遷したのか、不自然さはないのか、信用性を判断する上では非常に重要な要素になります。
 取り調べの可視化以上に重要なはずなのですが、議論は低調です。

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