- 2019年01月09日 09:15
ドトールが"コーヒーの味"にこだわる意味
2/2ドトールの根底に残る「適正価格」の自負
1980年にスタートした「ドトール」を低価格帯と紹介したが、実は、創業者の鳥羽氏が嫌ったのが「安売り」や「ディスカウント」という言葉だった。
筆者はかつて、鳥羽氏の著書『ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記』(日経ビジネス人文庫/原題は『想うことが思うようになる努力』、プレジデント社)の編集にも関わり、何度か取材した。本人は150円コーヒー(当時)を「お客様が毎日飲める適正価格」の思いで作り上げた自負心があった。利益込みの「適正価格」はドトールの根底に残る。
若手社員時代に、コーヒーへの意識の高さを鳥羽氏に評価された菅野氏は、コーヒー工場にも勤務し、2008年からは商品生産統括本部統括本部長を務めた。現在も、ドトールコーヒーの味の最終決定者は菅野氏が務める。「神乃珈琲」のコンセプトや中身は、現在のドトール・日レスHDの最高責任者である大林豁史会長と菅野氏で詰めたという。
前述したように「神乃珈琲」のコーヒーは、「ドトール」よりも高く、銀座店ではブレンドが4倍以上もする。それでも驚くような金額で提供することはしない。
ちなみに鳥羽氏は、別会社の鳥羽珈琲で「ロイヤルクリスタルカフェ」という店を銀座5丁目で運営する。豪華な内装の同店の「ロイヤルクリスタルブレンド」は1500円もするが、おかわりができる。高額でも「コーヒー屋の店主」の姿勢を保ち続けるように思える。
「おいしさ」の上から目線は嫌がられる
ドトールが「神乃珈琲」に注いだエネルギーは大きいが、数多く展開できる業態ではない。高価格帯のコーヒーを納得して飲む顧客が訪れる場所でないと出店できないだろう。
さらに、現代の消費生活の中心は「カジュアル化」だ。たとえば外食のレストラン選びでは、フルコースのフランス料理店を選ぶ消費者は多くない。もちろん人によるが、総じてフレンチよりもイタリアンを好み、イタリアンでもメインディッシュを魚料理や肉料理ではなく、パスタやピザで締めるような時代だ。
そうした時代、店主がうんちくを語り過ぎる「コーヒー道場」は消費者に支持されにくい。コーヒー通のマニアは集まるかもしれないが、顧客層の広がりが期待できないのだ。神乃珈琲はそこに気づいており、菅野氏は「おいしさの上から目線は嫌がられる」と話す。
コーヒーを極めたい社員の「居場所」にもなる
一方で、最高級への追究は「コーヒー屋のロマン」でもあり、大手カフェがフルライン価格帯でチェーン展開する場合の必然かもしれない。「必然」には別の意味もあり、人材活用の視点では、コーヒーを極めたい社員の「居場所」にもなるのだ。
コーヒー生産量全体の5%程度といわれる「スペシャルティコーヒー」に造詣が深い菅野氏も、もしかすると「ドトール」や「エクセルシオールカフェ」だけでは、承認欲求が満たされなかったかもしれない。社内には菅野氏と二人三脚で動く若手社員がいる。グループ内には「カフェ レクセル」という店も展開し、同店はスペシャルティコーヒーと日本のカフェ文化の融合を掲げる。
高級コーヒーはコーヒー屋のロマン
競合で国内店舗数3位の「コメダ珈琲店」創業者の加藤太郎氏(現在は退任)は、かつて「吉茶」という高級業態を手がけた。ドトールの鳥羽氏は、「ロイヤルクリスタルカフェ」とは別の高級業態店を描いている。いつの時代でも、高級コーヒーへ想いは、コーヒー屋のロマンなのだ。
総合型として、多くの価格帯の店を持つドトールコーヒーにとって、高級店はロマンとソロバンの両立が求められる。親会社は一部上場企業のドトール・日レスホールディングスなので、採算性は無視できない。
今後、「神乃珈琲」をどう「身近さ」と「高級」のバランスで展開するか。
「カフェのお客は、来店動機によって求めるものが変わります。『休む』や『話す』を目的にしたお客さんには、高級なコーヒーを訴求しても伝わりません。味の好き嫌いはありますが、厳選された豆を使った本当においしいコーヒーを飲んだ人は、味の違いに驚き、価格の高さにも驚きます。欧州のように高い=おいしいのヒエラルキーができるまで、もう少し時間がかかるでしょう」(フードビジネスコンサルタント)
日々の接客をしながら、「話のネタに一度行けば十分」とならないための創意工夫を続けるのだろう。
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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト 高井 尚之)
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