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【読書感想】大学大崩壊 リストラされる国立大、見捨てられる私立大

大学大崩壊 リストラされる国立大、見捨てられる私立大 (朝日新書)

Kindle版もあります。

大学大崩壊 リストラされる国立大、見捨てられる私立大 (朝日新書)

内容(「BOOK」データベースより)

「量か質か?」を迫られる私立大学、競争に疲れ切った国立大学、将来不安にさいなまれる「ポスドク(博士研究員)」や非常勤講師―。留学生頼みの「グローバル化」や、奨学金を過大に借りる学生激増も、大学の屋台骨を揺るがす。そんな中で、奮闘を続ける大学、学部も確かにある。すべて実名、最新データで「明」と「暗」を解明する。

 いま、日本の大学はどうなっているのか? 

 大学で働いている人や企業の就職担当者でもないかぎり、自分や子どもが関係ない時期には、あまり興味がない人がほとんどだと思います(もちろん僕もそうです)。

 教育っていうのは、多くの場合、「いま」を知らないにもかかわらず、自分の経験と照らし合わせてあれこれ言いたくなりがちなものではあるんですよね。

 うちの子どもたちは、まだ大学受験云々、という年齢ではないのですが、なにかと批判されがちな日本の大学教育の現状に興味を持って読んでみました。

 国際的学術誌への掲載論文数が世界大学ランキングの指標になる。そのランキングで日本の大学の研究力が国際的に低下しているとされた。

 危機意識を強めた国は、論文採用数などを重視して科学研究助成基金助成金(科研費)やそのほかの研究補助金など「狂騒的資金」で、国立大学教員を煽り立てている。これが、教員が見境なく投稿論文数を増やそうとしたとみられる背景なのだ。悪質な学術誌に掲載された論文の数がそのままランキングに反映されるとは限らないのに、その点に気づかないふりをしているのだろうか。しかし、教員が置かれている環境を考えれば、彼らだけを責められない。

 国は、教員をさらに追いつめる。この競争的資金は、以前からある文部科学省と日本学術振興会による科研費だけでなく、国立大学法人運営費交付金や私学を助成する経常費補助金などにも範囲を広げている。学生数や教員数などをベースとすべき基盤整備の補助金にも、競争的要素を取り入れて選別が進められているのだ。その研究も5年間など期間限定が多く、任期付き研究教員が増える主な理由となっている。これでは、息の長い研究テーマに取り組めない。

 苦しいのは国立大学だけではない。膨大な志願者を集める東京の有名私立大学でも、地殻変動が起きている。

 2016年、立教女学院短期大学、2017年、青山学院女子短期大学と、有名女子短期大学で募集停止の発表が続いた。現在の経営は良好であるが、将来受験生が減少する可能性の高い短期大学部門を閉鎖する方向で、「とりあえず、本体部門の大学や中学・高校の経営に専念する」という判断であろう。今やブランドだけでは生き残れない時代なのだ。

 本書では、大学が内部崩壊していく様相を明らかにしていく。長く日本の様々な大学を取材し、大学教育や研究に情熱を持って取り組んでいる教員の姿に接してきた私にとって、このまま崩壊が進行していくことは堪えがたい。

 2018年度入試でまず目につく動きは、東京都心の有名私大の難化だ。今まで「トリマ」といわれていた。「とりあえずMARCH(明治・青山・立教・中央・法政)を受けるか」という首都圏の私大受験生が、それらの大学に軒並み不合格となった。早稲田、慶応などを第1志望にしていた首都圏進学高のトリマ受験生本人だけでなく、保護者や高校教師も大慌てだった。どうしてそうなったのか? 本文で詳述するが、文部科学省による「都内23区の私大定員抑制策」の予期せぬ結果の一つなのである。

 日本は少子化が進行してきており、若者の人口はどんどん減っていくわけですから、大学に入る人も減って、経営が厳しくなっていくのは自明の理です。

 大学のなかには、この時代にも受験生を集められる「勝ち組」と、大きく定員を割り込み、経営の危機を迎えている「負け組」があって、その格差は広がってきています。  

 2000年から2015年までの15年間に、地方(首都圏以外)の15~29歳人口は1831万人から1299万人へと532万人も減った。また、全国の大学生289万人(2017年度・学校基本調査)のうち55万人、約19%が東京23区に集中し、さらに近年増加傾向にある。このまま進むと、大学の地域間偏在が極度に強まり、地方における大学の崩壊が続出しかねない。

 そのため文部科学省では、全国の私大に定員の厳格化を求めることにした。しかし、相手は私学であり、憲法で「公の支配に属さない独立性」が認められている。定員減を直接求めるわけにもいかず、といって要望だけでは強制力がない。文部科学省が定員厳格化を言い出したの2016年や2017年には、多くの主要私大が定員の増加申請を出して、結果的に文科省の顔をつぶした。これらの都内の有名私立大学に文部科学省が定員の抑制を要望しても素直に聞くことはないだろう。

 そこで国は2018年5月に「地域大学振興法」を成立させ、東京23区にある大学は10年後の2028年3月まで、収容定員増を認めないと決めた。もし新学部を作るなら、その定員分を他の学部から減らさなければならない。都内の大学に進学しようとする首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)の受験生にも大きな影響を与えた。

 さらに文部科学省が打ち出したのが、入学定員を超えて入学させた私立大学に対する私学助成の補助金カットというペナルティーである。

 日本で人口増加が続いていた時期に、文部科学省は私大に受験生を多めに引き受けてくれるようにお願いしていた、という「借り」があったため、それまでは2割や3割の定員オーバーを容認していたのです。

 しかしながら、これだけ若者が東京23区に集中しているという状況に、文部科学省も「定員厳格化」に舵を切りました。

 ところが、厳格化してみると、2018年には各大学が定員オーバーにならないように合格者を絞り、おかげて入学式直前まで追加合格を出す大学が続出して大混乱するという事態となったため、定員を1人でもオーバーした場合でのペナルティーの導入は見送られたそうです。

   大学の「成果主義」は、漫然と地位にしがみついているだけの研究者を駆逐していった一方で、結果が出るまでに時間がかかる研究やお金にならない研究の衰退、という影響をもたらしています。

 ポスドクを多く生み出した任期付き雇用問題は、若手研究者を中心に日本の大学院に深刻な影を落としている。

 第1に、大学における正規の教育研究者のポジション(働き場所や職務上の地位)間の流動性が非常に低下している。具体的には大学間の人事交流も少なくなってきている。既存の教員がその座にしがみついている。定年にならないと、常勤で無期雇用の大学教員はなかなか辞めない。他大学にもそのポストが少なくなっているからだ。新学部や新学科ができても、学内の正規教員の横滑りや、実務家教員や他大学の定年教授が新採用で補充される。新たな常勤ポストがポスドクなどに用意されるケースは多くない。国立大学に限っても、2007年から2016年の10年間で任期なし教員が激減し、それぞれの割合が逆転している。

 2点目に待遇の格差の問題も大きい。熱意のある若手研究者の多くは給料も少なく、社会的な立場が不安定な状況にある。図表12「博士の年間所得」を見てみよう。大学卒と修士を含む大学院卒とを比べると、所得は一般に大学院卒のほうが高い。ところが博士を見ると、500万円以上も多いが、300万円未満の層が大学院卒平均より多くなり、大学卒でも4.2%しかいない100万円未満がなんと9.3%もいるのである。生活保護水準の場合、都市の1級地で単身なら月間7万9000円の生活扶助の他に住宅補助も付くので、年間100万円を超える。それ以下の大学院修了者が1割弱もいるのである。博士間の所得格差が広がっているのだ。

 また、この調査は「収入なし」を除いている。すなわち無色無収入の博士はカウントされていない。前掲図表10「大学院修了者の進路状況」によれば、博士課程修了者全員がポスドクというわけではないが、バイトも含めた就職・進学以外の者と不詳・死亡を合計すると、人文・社会学系では、なんと40%を超えている。研究力強化どころか「博士大失業時代」なのだ。

 とくに文系学部では、博士号までとっても、それに見合った仕事を得られていない場合が多いのです。まさに「高学歴ワーキングプア」というか、「ワーキング」すらできないのか……

 財政的な課題と、日本という国の将来を考えての研究レベルの維持・向上とがせめぎあっており、それに、東京と地方の格差なども絡み、どんどん問題が複雑化し、学生や職員が右往左往させられているというのが、日本の大学の現状なのです。  

 近い将来に進学を控えている(であろう)子どもを持つ親としては、それでも授業料は上がっていくのか……と暗澹たる気持ちになるんですよね。だからといって、「行かなくてもいい」とは言えないし……

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