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市長の再議申し出(議決への拒否権)・・・アメリカと似て非なるところ

松阪市の山中光茂市長が、市民まちづくり基本条例(自治基本条例)と住民投票条例、マニフェスト作成支援条例の3条例を否決した議会の議決に対する再議を議長に申し出たことが、マスメディアの話題を誘いました。

「再議の申し出」とは、市長による、議会の議決に対する拒否権です。 市長と多数の与党会派による馴れ合い議会の時代では「なんでも賛成」が当たり前だったので市長と議会の対立はありませんでしたが、議会がチェック機関として機能すれば、市長提案の議案を修正や否決も、当然あり得ます。

その一方で、議案の提出者の市長が、提出趣旨の異なる議会の結論に対しては異議を申し出たいというのもまた当然です。

わたしは、市長の思いと議会の結論が異なるとき、市長からの申し出があれば、ルールに基づいて、審議をやり直すべきだと思っています。 なぜなら、議会の出した結論に誤りがある可能性もあります。 市長と議会という、それぞれの代表機関が、再び議論の場を持つことは、議会と市長のバランスある緊張関係を築くことができるように考えます。
そして、何よりも、市民的利益につながるはずです。

市長と議会は、それぞれが市民から選出されていることから、「二つの代表」と呼ばれています。 市長は、松阪市の予算や条例(市の法律)の案を作成し、議会はそれを審議し決定、市長は議会が決定した予算や条例を執行できる権限を持っています。

ただし、議会は審議の過程で、市長原案を修正したり否決したりすることができますので、市長の思いと議会の結論が異なる場合があります。 そんな場合、地方自治法という法律は、「再議」という制度を用意しています。

「再議」とは文字通り、一度、議会が議決したことではあっても、再び、議論をやり直すことを指します。やり直しを求めることができるのは市長なので、市長の拒否権とも呼ばれています。

地方自治法第176条
普通地方公共団体の議会における条例の制定若しくは改廃又は予算に関する議決について異議があるときは、当該普通地方公共団体の長は、この法律に特別の定があるものを除く外、その送付を受けた日から十日以内に理由を示してこれを再議に付することができる。

今回、議長は、会派代表者で構成される議会運営委員会の意向を受けて、再議を受け入れないことを市長に回答しました。 その根拠は、行政実例と呼ばれる、昭和26年に国が作成した通達に、地方自治法176条の再議は、市長原案に対し、議会による修正案が可決された場合にのみ適用され、否決された議案は効力が発しないという考え方が示されていたためです。

しかし、法律を見る限り、修正案の可決しか適用できないとはどこにも書いてありません。議会の議決に異議のあるときは10日以内に理由を示せば、再議が可能となる内容です。

このルールは、戦後、地方自治法が施行された翌年の昭和23年(1948年)に追加されたものですが、近年になって長と議会が対立する自治体が増えるようになって注目されるようになった以外は、これまで実際に用いられたことはほとんどありませんでした。

戦後の日本の自治体の議会制度のほとんどがアメリカの自治体議会とほぼ同じルールで運営されています。
再議というルールも、再議の場合は可決が通常の過半数ではなく、議員の3分の2以上の賛成を以ってという細部までアメリカとそっくり同じです。

ただ違うのは、アメリカの議会では首長提案の予算案などに対して議会は公聴会を開いて市民の声や、専門家を参考人として招致して意見を聴いたうえ、じっくり議員間で議論をして決定する点です。だから、原案を議会が修正するのが当たり前です。むしろ、修正しないようでは議会は仕事をしなかったということになりかねません。だから議会も必死になります。議会の修正を首長は受け入れるのが普通ですが、場合によっては異議申し立て(拒否権を発動)し、再議を申し出ることがあります。

残念ながら、日本の議会では市長に対して質問はすることはあっても議員間での討議はまだ始まったばかりで十分な審議とは言えません。ましてや、議案に対する市民の声や専門家の意見を議会という場において聴き取りをするということはまず実施できていません。 そのいずれも、議会の中でわたしの方から提案はしていますが、まだ合意には至ってはいません。

要するに、議会として十分な審議を行って出した結論が否決だったかどうかが問われているわけです。 そういった意味で、市長からの再議の申し出を拒否するのではなく、むしろこれを機に、議会の審議過程のレベルアップのために活用すべきであるとわたしは考えています。 

議会と長、互いを否定し合うのではなく、議会と長が競い合うことにより優れた結論を導き出すツールとして機能すればと願います。

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