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ゴーン氏事件で表れた日本社会の「病理」~このまま「平成の30年」を終えて良いのか

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平成の時代が、残り5か月余と「最終盤」に入った昨年11月19日、日産・ルノー・三菱自動車の会長だったカルロス・ゴーン氏が、東京地検特捜部に、突然逮捕され、その直後、日産西川廣人社長は、緊急記者会見を開き、「ゴーン氏への権力の集中」を是正するため同氏の不正に関する社内調査結果を検察に提供したことを明らかにした。

国内だけでなく、海外からも大きな注目を集めることになった「日産・ゴーン事件」のその後の展開は、平成の時代における重要テーマとされてきた、企業のガバナンス・透明性、「日本版司法取引」と検察の在り方、マスコミ報道の在り方等の問題に関して、日本社会が今なお根深い問題を抱えていることを示すものとなった。

4ヵ月間の「平成最後の年」を迎え、この事件で表れた日本社会の「病理」をこのままにして平成の時代を終わりにして良いのだろうか。これらの問題の相互関係を整理しつつ、考えてみたいと思う。

「平成の30年」の企業ガバナンスへの取組みと日産経営陣の行動

第1に、西川社長ら現経営陣が、ゴーン氏を代表取締役会長の座から引きずり下ろした方法が、コーポレートガバナンスの観点からどう評価されるかという問題である。

西川氏は、逮捕直後の記者会見で、ゴーン氏への権力の集中によってガバナンスが機能していなかったことを強調した。しかし、ガバナンスの観点からまず問題とされるべきは、その西川氏らが行ったこと、すなわち、「ゴーン氏の不正」について密かに社内調査を行い、その結果を検察に情報提供して代表取締役のゴーン氏・ケリー氏の2人を検察に逮捕させ、その間に、臨時取締役会を開催して両氏の解職を議決したやり方である。

社内調査の結果把握した「絶対権力者」の不正が悪質・重大であったとしても、不正が、「会社の開示義務違反」「会社の資金の私的流用」など会社の対応や財産に関するものなのであれば、本来は、ガバナンスのルールにより、「私的自治」の範囲で解決されるべきだ。社内調査結果を取締役会に報告し、当事者に弁解・説明の機会を与えた上で、代表取締役会長の「解職動議」を出して議決するというのが本来のやり方だ。

「昭和の時代」には聞くことがなかった「コーポレートガバナンス」という言葉は、平成に入って以降、旧態然とした日本企業の経営改革の旗印とされ、会社法や上場企業のルール整備などが行われ、日本社会の重要なテーマとされてきた。

「取締役会自体が、絶対権力者に支配されていて、不正事実を報告されても適切な議決ができない」という理由は、平成に入ったばかりの頃であればともかく、現在においては、ガバナンス無視を正当化する理由にはならないはずだ。そのような事態を防止し、対処するために、会社法上、ガバナンス上のルールが整備されてきたはずだからだ。不正事実が明白であればそれを容認することは取締役の善管注意義務違反となる。取締役会に出席する監査役は、そのような不正・善管注意義務違反を指摘し、是正するための法的権限が与えられている。それらの仕組みがあり、法的責任の追及が可能となることで、「企業経営者の暴走を抑止する」というのが、コーポレートガバナンスの仕組みだ。

西川氏らは、そのような会社法上の法的手続を無視して、社内調査結果を、取締役会での議決を経ることなく検察に持ち込み、検察の捜査権限で代表取締役二人を取締役会から強制的に排除した上で、代表の座から引きずり下ろした。まさに、会社法の規律とガバナンスを根本から否定するものだ。

組織のボスに逆らう態度をとった者は、その瞬間に、マシンガンが火を噴き物理的に抹殺されるというマフィア映画のような世界であれば、ボスに立ち向かうためには警察の力を恃むしかないということもあるだろう。しかし、日産自動車という上場企業での「ゴーン会長による独裁」を、果たして、そのようなマフィア組織と同視してよいのであろうか。

ゴーン氏ら逮捕直後の会見で、西川氏は、「内部調査によって判明した重大な不正行為は、明らかに両名の取締役としての善管注意義務に違反する」として、(1)逮捕容疑の役員報酬額の虚偽記載のほか、(2)私的な目的での投資資金の支出、(3)私的な目的で経費の支出、の3つを指摘し、11月22日の臨時取締役会で、それらを理由に、ゴーン氏・ケリー氏の代表取締役解職理由にしたようだ。ゴーン氏という権力者の不正は、誰の目にも明白な「犯罪」であり、それは、検察当局の権限によって刑事処罰の対象にするしかないものだった、と言いたかったのであろう。

しかし、西川氏が言うところの内部調査の結果判明した「不正」が、明白な「犯罪」で、代表取締役解職が当然のものであったのか否か、現時点では、検察が逮捕・起訴した(1) の「役員報酬額の虚偽記載」は「退任後の報酬の支払の約束」記載の問題であることが明らかになっているだけで、(2)(3)については、検察の捜査に関わるとして、社内調査の結果すら、一切、公式には明らかにされていない。

このように考えると、西川氏ら日産経営陣がゴーン氏を代表取締役会長から追い落とした手法は、「平成の30年」の間にルールが整備され、大幅に進化したはずの日本のコーポレートガバナンスにおいて決して許容される行為でないことは明らかである。

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