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"億り人"が突然死すると親族に税だけ残る

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パソコンやスマホ、インターネットを自然に使いこなす現代のシニア世代。資産運用もネットで行う彼らに突然「その日」が来たとき、本人にしか全貌がわからない「デジタル遺産」をどう把握するのか――。

■「故人のパソコンを、解析してほしい」――

相続手続きの第一歩は、被相続人の資産の全体像を把握すること。そこで問題となるのが、ネット銀行やネット証券口座などの「デジタル遺産」の取り扱いだ。

写真=iStock.com/NicoElNino

パソコンのデータ復旧事業で業界シェア1位の、デジタルデータソリューション(東京都・中央区)。同社の「デジタル遺品調査サービス」には、こんな依頼が持ち込まれる。

「事故死した弟のパソコンと携帯電話を調べてほしい」「亡父が仮想通貨をやっていたらしいので、どのサイトで取引をしていたのか調べたい」「遺産を相続するために、ロックのかかったパソコンからデータを復元してほしい」「亡父の携帯を見ていたら、仮想通貨や株関連の検索履歴がたくさんあった。家族に内緒の取引があったらと心配で夜も眠れず、亡父のパソコンを解析してほしい」……。

動かないパソコンを修理して解析したり、スマートフォンの基盤のチップから直接データを読み込んだりと、海外の司法当局が犯罪捜査に使うような高度な技術を駆使するため、それなりの費用はかかる。パソコンの比較的簡単な解析で数万円、スマートフォンの場合は数十万円というのが目安だ。

「データの復元だけでなく、必要であれば時系列の行動記録など、裁判で証拠として使えるレベルの詳細なレポートも作成します」と言うのは、同社PR・IRグループの森恵子氏だ。「今のところは相続にかかわる案件より、メールや写真などの復元依頼のほうが多い状況ですが、お金がからむご依頼はやはりお客様も深刻ですね」。

■取引や口座残高の全体像がつかめない

ネット銀行やネット証券以外にも、FX(外国為替証拠金取引)や商品先物取引、最近話題の仮想通貨など、パソコンやスマホで投資や資産管理をしている人は少なくない。名義人が死亡したときには、通常の口座と同様、取引先の金融機関や業者に連絡を取り、残高を把握するとともに清算等のその後の手続きを進めるのが基本だ。

問題は、パソコンやスマホにはたいていパスワードや暗証番号でロックがかかっており、故人がどこにどのくらいの残高の口座を持っていたのか、簡単にはわからないことだ。10カ月以内に相続税の申告を行わなければいけないことを考えれば、時間的余裕もあまりない。分割協議をまとめた後に残高の大きい口座が出てくれば、相続税の申告漏れだけでなく、相続人の間で遺産争いが燃え上がりかねない。

「大手の銀行や証券会社であれば、ときどき郵送される紙の書類をもとに連絡を取ることも可能ですが、実際にはご遺族も全貌を知らないケースがほとんどでしょう。FXや仮想通貨の業者の場合はやりとりがデジタルのみということも珍しくなく、紙の資料が見つからないリスクがあります」と言うのは、日本デジタル終活協会代表理事で、相続や「終活」に詳しい弁護士の伊勢田篤史氏だ。

■仮想通貨口座は、とくにリスクが高い

とりわけリスクが高いと伊勢田弁護士が指摘するのは、仮想通貨だ。値上がりして評価額が多額となれば相続税の申告義務が発生する可能性があるし、一方で放置しているうちに値下がりすることもある。保有する仮想通貨を入れておく「ウォレット」の取り扱いにも注意が必要だが、取引している本人以外の家族は、現金化の方法すらわからないことが多い。

「たとえば『億り人』と呼ばれるような、億単位の仮想通貨を保有される方が亡くなった場合、税務調査などで巨額の相続税の支払い義務を指摘されるかもしれません。それなのに、遺族がUSBメモリのような『コールドウォレット』を誤って捨ててしまい、現金化できないということもありえます」(伊勢田弁護士)

FXやオンラインでの商品先物取引、証券の信用取引などでも、大きな損失が出たタイミングで相続が発生した場合には追加証拠金を払わなければならなくなる可能性がある。

「FXの場合、契約者の死後に為替が大幅に変動し、その相続人が最大100万円程度の追加証拠金を支払った事例があるようです。こうしたリスクの高い取引は、早く把握して決済してしまうのが望ましいですね」(伊勢田弁護士)

このほか、被相続人が契約していた有料サービスの解約、クラウドサービスに預けていたデータの回収、相続とは離れるが家族のデジタル写真などの回収なども、「デジタル相続」で考慮が必要なポイントだ。

「オンラインサービスは民法上はあくまで『契約』(債権)ですので、デジタル機器のような『物』の相続とは少し扱いが変わってきます。もしその契約が、故人だけがサービスを受けることができるという『一身専属』契約であった場合、当該サービスを遺族が引き継いで使うことはできません」(伊勢田弁護士)

▼主な「デジタル遺産」の要注意ポイント

●銀行・証券口座

どこの銀行や証券会社に故人のオンライン口座があるかを把握するのが大変。郵送物が手がかりになる例も。自動引き落としや積み立ての解約、信用取引の清算にも注意。

●FX(外国為替証拠金取引)

口座把握の難しさは銀行・証券と同様。株のような値幅制限がなく、解約のタイミングによっては損失が出る。大きな損失が出ていた場合、追加証拠金の支払いを求められる可能性も。

●仮想通貨

業者からの郵便物等がないケースが多く、口座の把握が難しい。所得税や相続税の申告、「鍵」を保存した記憶媒体「コールドウォレット」の扱いなど、注意すべき点が多い。

●その他

各種有料サービスの解約、クラウドサービスに預けたデータの回収など。相続とは離れるが、写真データやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)アカウントの整理も。

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