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文章が読めない「新聞読まない人」の末路

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Siri、コンピュータ将棋ソフト、お掃除ロボットにスマートスピーカーなど、AI(人工知能)技術は身近なものとなっている。だが、人間がAIの判断に依存することで、考える力を失ってしまう世代が生まれてくるという。いま、どのような教育が必要なのか。

■新聞を読まない人の、おそるべき傾向

【新井】これからAI時代が本格的に到来する中、生まれたときからAIの判断と推薦によって生きることになる世代を、私は「デジタルネーティブ」ではなく「AIネーティブ」と名付けています。

写真=iStock.com/woraput

例えば、YouTubeで電車の動画を見ていると、次はこれを見たらいいとどんどん推薦してきますね。子どもは自分から何かを探すわけではなく、AIに推薦されたことに無意識に従って生きていく。そんな子どもたちがこれから育ってくるのです。

【佐藤】タブレット型学習法によく似ていますね。

【新井】ええ。AIネーティブの子どもたちが育つとき、自分が本当に何をしたいのか。自分で切実に欲求する前に、与えられたものだけを消費してしまうことになる。そうやって育った子どもたちが将来的にクリエーティビティを発揮し、生産者として必要な真実の判断ができるのか。私は難しいように思うのです。

【佐藤】わかります。AIは統治者にとっては非常に有利なツールでもあります。ですから、統治者側の子どもたちには、そういったものには一切触れさせない一方で、統治される側のほうにはAI時代というかたちで浸透させていく。実際、新聞を読まない人たち、つまり、SNSに依存する度合いが強い人たちほど現政権を支持する傾向が高くなっています。

【新井】本当にそうですね。AIはお金を持っている人たちが制御しやすいツールなのです。どのように正解データをつくるかで、AIの動き方は決まってくる。それを客観的で公平なものだと思っていると本当に不利になります。

【佐藤】おっしゃること、よくわかります。AIに慣らされてしまえば、成立しえない非論理を、論理的だと思ってしまうことがある。

最近、私が教えている神学部の学生たちに見せたちょっと面白い映画があります。それが1944年の11月につくられた日本の国策映画『雷撃隊出動』です。

【新井】レイテ沖海戦の後、硫黄島の戦いよりは前の時期ですね。

【佐藤】映画の登場人物が、アメリカ人捕虜の話を聞いて、「あいつらは飛行機も軍艦も兵器も兵もいい、大なるものが小なるものに劣るということは成り立たないというんだ。そしてまた質も優れている、新兵器もいろいろある。そんなアメリカが絶対に負ける道理はないというんだ」と嘆く。

すると、仲間が「こっちが1人死んで、あいつらを10人殺せばいいんだ。それ以外にこの戦争に勝つ道はない」という。確かにそうだと納得して、最後は雷撃機を駆って敵機動部隊に次々と体当たりしていくところで終わりになるのです。つまり、負け戦を前提とした映画です。これがなぜ戦意高揚映画になるのか。そこを考えろと学生に課題を出したのです。そうすると、ある優秀な学生が「先生、これは死の美学ですね」と指摘した。つまり、いかにきれいに負けるか。玉砕の論理になっているというのです。

合理的に考えたら、絶対に勝てないけれど、気合とか精神力といった主観的な願望によって客観情勢は変わる。精神の力を極大にすれば絶対に勝つという論理です。

(写真左)1944年公開の開戦3周年記念映画『雷撃隊出動』(東宝)。魚雷を積んで敵空母へ突入する雷撃隊を描いた。
(写真右)佐藤氏が新井氏にスマホで動画を見せている様子。

■私が戦時中の映画を、学生に見せるわけ

【新井】この映画を見た当時の人たちが、1人で10人を殺さないとこの戦争は勝てないのか、というふうに思ってくれればよかったんですけど。

【佐藤】しかし、そうはならなかった。完全に非論理的なものを、論理的だと思ってしまう。これと同じことが、今あちらこちらに忍び込んでいる感じがするのです。

【新井】そういえば、2018年夏に考えさせられるニュースがありましたね。2020年の東京オリンピックのとき、猛暑になったらどうするのかという話です。その対策として、打ち水とかよしずといった、日本のコンテンツによっておもてなしをするという。

しかし、その前に考えるべきことは、40℃近い猛暑の中、マラソンランナーを走らせることが適切なのかどうか。国際基準に照らし合わせれば、不適切となってしまうはずです。猛暑の場合、オリンピックのマラソンを中止するというのは、死者を出さないためにも、正しい判断だと思うのです。

【佐藤】しかし、オリンピックをやることが生命よりも重要な価値となれば、話は違ってくる。

国立情報学研究所教授 新井紀子氏

【新井】そう。だからこそ、何事においてもグローバルに展開をするときに、精神論というものは、もう成立しないんです。

【佐藤】こういった非論理なことを、おかしなことだと自分で気付かなければならない。そのために、我々はきちんと読解力を身につけないといけないのです。ですから、私はわざと戦時中の映画を学生たちに見せています。戦前の軍のイデオロギーに基づいた教育を繰り返し受けて育った人と、さきほどのAIネーティブの話は似ているように見えます。

【新井】ある意味、1つの価値観の中で、純粋培養で育ってしまう。それがAIネーティブの問題点の1つでもあります。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は、明らかに自分たちのサービスを消費してくれるAIネーティブになってほしいと思っていますから。

【佐藤】資本の論理からすると、当然の話ですね。

【新井】それがまさにリバタリアン(完全自由主義者)による資本主義が、これ以上長続きしなくなる理由でもあるのです。資本主義というものは細く長く搾取することに意味があり、今のように一気に搾取してしまうと人材が駄目になって、資本主義が終わってしまう。最近、そんなことをヘッジファンドの有力者たちが言い始めています。

それは、ある意味、リバタリアンやGAFAがリスクになっているという認識だと思うのです。今は誰もGAFAが滅びるなんて言いませんが、私はGAFAが滅ぶ日は遠からずくると考えています。世界の有力者は資本主義を延命させるためにも、GAFAを滅ぼさなければいけないと思っている。

GAFAが提供するものは、普通の資本主義、つまり、生産物を売り買いするという正常系の経済学的な資本主義から考えると、ありえない話なのです。そもそも全然モノを売っていないのに、我々をずっとスマホ漬けにして、搾取してくる。

【佐藤】その結果、消費も非常にバーチャルな仕方になっています。

【新井】自己承認欲求や自己愛を心理学的にうまく操作されながら、消費者はずっとタダ働きをさせられて、わけのわからない消費をさせられてしまう。

それはどう考えても資本主義にとってメリットがあるとは思えない。どこかでこれをやめなければならない。そのことを一番よく理解しているのは、フランスのマクロン大統領とカナダのトルドー首相です。とくにマクロンは、本当に微に入り細に入りよくわかっている。それこそ、哲学や数学といった文理の教養を重視するグランゼコール(フランスのエリート教育機関)の偉さだと思うのです。ある意味、国民国家を守るために、どうやってこうしたテクノロジーを制御するのか。そんな難しい課題にまじめに向かい合っているのは、マクロンだけでしょう。

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