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箱根駅伝初優勝 東海大「渾身のレースプラン」がハマった理由 - 佐藤 俊

 東海大が箱根駅伝、悲願の初優勝を飾った。ダイエットして17キロ痩せた両角速監督の身体が宙に舞う。下馬評では圧倒的に青学大優位の中、なぜ東海大が今回、勝てたのだろうか。

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「全区間、二桁の順位の選手はいなかった。全員が冷静にそれぞれの力を出してくれたことに尽きますね」

 両角監督は、そう語る。選手たちの力を発揮させるための戦略が見事にハマった。


東海大を箱根初優勝に導いた両角監督 ©末永裕樹/文藝春秋

鬼門の2区を落とさずに走れれば……

 まず区間配置だ。山登りの5区には西田仁志(2年)が早々に決まり、下りの6区は中島怜利(3年)に決まった。エース区間の2区は当初、阪口竜平(3年)に決まっていたが、夏に足を故障した影響で外れた。東海大にとって、ここ数年、2区は鬼門だった。この区間を落とさずに走れる選手が出てくれば、全体がつながってくる。そこで11月の全日本大学駅伝後に、湯澤瞬(4年)を指名した。湯澤はスピードに自信があるタイプではないが20キロを粘って走れるのが特徴で、関東インカレのハーフマラソンで2位になったタフな選手。この湯澤を2区に起用し、1区鬼塚翔太、3区西川雄一朗の3区間でトップに遅れずに、タイム差1分30秒以内を維持。4区の館澤亨次(3年)でトップとの差を詰める、あるいは後続との差を開く、というレースプランを描いた。

 このプランがハマった。

 館澤が青学大を抜いて2位に上がり、東洋大を追いやすい状況で5区の西田にタスキを渡した。総合優勝の必須条件として両角監督があげた「往路優勝」は達成できなかったが、トップの東洋大に対して1分14秒差で往路を終えることができた。駅伝には流れがあると言われているが、1区から3区まで我慢のレースをつづけ、館澤、西田が翌日につながる追い上げムードをつくったのだ。

 さらに8区と9区の選手を変更した。2区間とも初優勝に大きく貢献したが、とりわけ小松陽平(3年)の8区起用は衝撃を与えた。小松は3大駅伝を一度も走ったことがないが、この2カ月間、絶好調で練習では常に最初にゴールした。両角監督は、この「絶好調男」を12月28日に8区に投入することを決め、6区、7区で東洋大をひっくり返し、9区に同じく当日の選手変更で入ったキャプテンの湊谷春紀(4年)でレースを決めるレースプランを作り上げた。

 レースは、身震いするほどプラン通りの展開になった。

東海と青学の明暗を分けた「ミス」とは

 全10区間が隙なくハマり、起用された選手はミスなく、冷静な走りを見せた。青学大との差は、そのミスの差だった。

 原晋監督は「4区、5区が誤算だった。自分の采配ミス」と語っていた。4区の岩見秀哉(2年)は世田谷ハーフ2位。この成績と直前の状態を見た原監督の、「いける」という目利きがあってこその起用だった。しかし結果は区間15位。トップでタスキを受けたが3位に後退した。選手を見極める原監督の“勘ピューター”こそが、これまで箱根優勝を手許に引き寄せてきた重要な要素だったが、今回はそれが外れた形になった。復路は優勝を果たすなど力は十分にあっただけに、4区と5区のミスが往路ではトップ東洋大と5分30秒の差となり、ノーミスの東海大に総合で敗れた最大の要因になった。

 東海大が勝てたのは、絶妙な区間配置に加え、ライバス校のミスもあったが、彼らがしっかり走れるだけの走力をつけたことも大きかった。その走力は東海大の持ち味であるスピードの上に長距離を走ることで身に付けられた「東海大オリジナル」ともいえるものだ。

 選手は夏まではトラックを中心にスピードを磨き、その後、長い距離を走って箱根仕様に仕上げていくが、今回のレースでは、このスピードが生きた。1500mで日本選手権2連覇を達成した館澤はレース終盤にそのスピードを見せてくれたし、1区鬼塚、7区阪口、8区小松らが後半にギアを上げて走れたのもトラックでのスピード強化が活きたと言える。

選手側からの疑問の声で調整を見直し

 さらに今シーズンは、ピーキングを本番に合わせるために箱根へのアプローチを変更した。従来、東海大の全日本大学駅伝から箱根までは記録会などのレースに出場して好タイムを出し、その勢いのままハードな練習メニューを直前までこなして、本番に備えるというものだった。

 だが、昨年、直前まで疲労が残る練習を課したことに選手側から疑問の声が上がり、今シーズン、両角監督と西出仁明コーチは全日本大学駅伝以降の調整方法を見直した。レースへの参加をやめ、箱根仕様の足を作るための合宿をした。ただ長い距離を走るだけではなく、後半に粘って走れるような足を作る練習メニューを課した。その成果が表れたのは3区の西川雄一朗(3年)の走りだ。国学院大の青木祐人(3年)に一時離されたものの、最後に粘って1秒逆転して4区館澤につなげた。西川だけではなく、7区の阪口がラストに東洋大を追いつめたように全員が最後まで粘って走れるようになったのだ。

「箱根モードのための練習の成果が、それぞれの選手の走りとして後半に出たなと思います」

 両角監督は満足そうにそう言った。

両角監督の“新しいやり方”

 そうした練習の裏付けがあって、選手は各区間を好走した。さらにコンディション調整は各選手に任され、チーム練習の際に負担が大きいと感じた場合は、申告して練習量を減らすなど、常に自分の身体に相談してピーキングを箱根本番に合わせるようにした。チームがもうワンランク成熟するために昨年とは異なり、選手の自主性を尊重したのだ。

 また、今回は補欠要員の關颯人(3年)を起用せず、松尾淳之介(3年)も8区から交代させたが、ここに両角監督の新しいやり方が見えた。

「關や松尾は走れる状態でしたが100%ではなかったんです。それよりも小松、郡司の方がよかったので起用しました。昨年まではタイムや実績を重視し、選手を説得することを意識していたのですが、今回はその反省を活かして、過去の実績にとらわれず、自分の目を信じて選手を起用することができたと思います」

 両角監督が選択した小松が8区で区間新を出し、郡司はアンカーとして快走した。選んだ選手が活躍したことで自分の目による起用が間違いないことを確信できたのは、両角監督にとっても大きな収穫だろう。

「われわれは王者ではないですから」

「ここまでチャレンジと反省を繰り返して、ようやく総合優勝することができました。」

 東海大が強くなれたのは、昨年の失敗例をそのままとせず、次にうまく活かして常に新しいやり方にチャレンジしてきたからだ。自分たちのやり方を変更するのは勇気がいるが、何も成し得ていなかった東海大は常識にとらわれず、チャレンジしやすい環境にあったともいえる。

 新しいやり方が結実し、優勝した。こうした成功体験を元にチームは成長し、強くなっていく。来年は青学大や東洋大に追われる身になるが、両角監督に過信も慢心もない。

「われわれは王者ではないですから」

 館澤ら“黄金世代”は来シーズン、4年生になる。この優勝をベースに、東海大が本当の強さを見せるのは、2020年の箱根駅伝になるだろう。

箱根0区を駆ける者たち
佐藤 俊
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(佐藤 俊)

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