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西武・そごうCM新春初炎上「女に生まれたら罰ゲーム」をパイ投げで再現か - 網尾歩 (コラムニスト)

(wildpixel/Getty Images)

笑って立ち上がらせるなら、せめてパイを投げ返させてくれ。

「女性差別もあったけど、『わたしは私』です」ってこと?

西武・そごうといえば、2016年に放映された樹木希林出演のオリジナルムービーだ。「歳をとったら、歳相応の服を着なさいとか、妻や母親、祖母という役割に自分を合わせなさいとか、周りの人と同じように振る舞いなさいとか。そんな窮屈な常識は、もういらない」という力強いメッセージ。周囲との軋轢を避けようとすればするほど枠にはめられやすい日本社会の狭量さを鮮烈に描写してもいた。

しかし同じ企業の広告が年始から炎上している。安藤サクラが出演する「わたしは、私」。

少し長くなるが、コピー全文を引用する。

===== 女だから、強要される。 女だから、無視される。 女だから、減点される。 女であることの生きづらさが報道され、そのたびに、「女の時代」は遠ざかる。

今年はいよいよ、時代が変わる。 本当ですか。期待していいのでしょうか。 活躍だ、進出だともてはやされるだけの「女の時代」なら、永久に来なくていいと私たちは思う。

時代の中心に、男も女もない。 わたしは、私に生まれたことを讃えたい。 来るべきなのは、一人ひとりがつくる、「私の時代」だ。 そうやって想像するだけで、ワクワクしませんか。

わたしは、私。 =====

「女だから減点される」は、明らかに東京医大などの不正入試を意識したものだろう。「強要される」は、#metoo以降に告発が相次いだ「性的強要」を意味しているはずだ。「無視される」は具体的事例に悩むが、あえていえば「土俵から降りてください」の件で、女性の働きがさっくり無視されたことかもしれない。

企業の広告で、性暴力をイメージさせる「強要」の言葉を使うのは、思い切った試みだと思う。広告において明るいエロは歓迎されても、性的強要はタブー中のタブーだからだ。また、ローラが「辺野古の海を守ろう!」と言えば政治的発言ダーっ!の大号令がかかる昨今において、財務省のセクハラや議員の関与も指摘されている不正入試を容易に推測させる言葉を入れたり、政府が推進する「女性活躍」に疑問を呈していくのは、それなりに覚悟のある態度ではないか。

しかし、この広告は批判されている。理由は主に、コピーの後半部分と映像にある。

都合よく「私たち」を使っていないか

「強要、無視、減点」はそのとおりである。すでに述べたとおり、ここに言及するのは覚悟のある態度だと感じる。しかし「女であることの生きづらさが報道され、そのたびに、「女の時代」は遠ざかる。」から、急によくわからなくなる。

女の生きづらさが報道されると、「女の時代」は遠ざかるのか。報道されず無視されていた時代よりは、まだマシではないのか。もしかして報道されなかった女性差別はないと思っている人がムービーを制作しているのか。そしてここから、さらに迷走する。意地悪くて申し訳ないが、一行ずつツッコミたい。

「今年はいよいよ、時代が変わる。」

根拠を希望する。

「本当ですか。期待していいのでしょうか。」

言い切ったことに保険をかけておくかのような問い返し作業。誰に期待するのか。もしかして男社会なのか。

「活躍だ、進出だともてはやされるだけの「女の時代」なら、永久に来なくていいと私たちは思う。」

「男社会」にもてはやされるだけの「女」ならいらないって意味であれば同意である。ただ、「女の権利を主張してもしょうがない」と言うために、都合よく「私たち」を使っていないか。

「時代の中心に、男も女もない。」以降は急に、「個の時代(=わたし)讃歌」となる。映像では、安藤サクラに白いパイがぶつけられ、彼女は倒れる。ちなみに、このシーンで真っ先に思い出したのは、避妊クイズに間違えると粉をぶっかけられる女性の動画である(※参考:「粉をぶっかけられる女の横で、放っておかれる男の性」)。ちなみについでに言うが、通常、「わたしは、私」などとあえて主張する女は、それだけで古臭い価値観の方々から煙たがれるか小バカにされる。しかし、「女性差別はあるけれど、わたしは私」となると話は別である。一転して「わかってる女」になることができる。

パイなんていらねえよ、新春

このムービーに欠如しているもの。あるいは徹底的に排除されたものは、怒りなのだと思う。怒りが排除され、「怒るな」の意が遠回しに込められている。

「差別もあったけど、前向きに頑張ります」って態度がスマートかのように言わないでくれ。女ってだけで「強要、無視、減点」されたら、怒って当然じゃないか。「まあまあ、いったん座りましょう」ではなく、「いったん怒りましょう」でいいじゃない。

でもやっぱり、世の中は女に怒らせない。「男とか女とか言うのやめましょ!」に持っていこうとする。自称中立派の定石である。「フェミニストって言葉もなくなればいいよね。ほら、個の時代だから! ワクワクするね!」と、足元の課題を解決せぬまま、百歩先の話をしようとする。

散々「女だから」という理由で「男より劣る」社会で差別されてきた側に、「時代の中心に、男も女もない」と言わせる空恐ろしさ。大企業のトップに居座る男が土下座しながら「男も女もない」と言うなら、いや、「男とか女とかで差をつけてすみませんでした。男に下駄を脱がせます」と言うならわかる。実際は、パイをぶつけられながらも女が立ち上がり「男も女もない」と笑顔で言わされているのである。まじかよ2019年。

せめて安藤サクラが既得権益を象徴するおっさんにパイを投げてほしかった。おっさんにパイをぶつけること、あるいは「強要、無視、減点」の責任の所在を明らかにしておっさんの機嫌を損ねることは、エッチな描写や#metooなんて目じゃない、日本社会最大のタブーなのかもしれない。ムービーの中には当たり前だが、財務省の福田前事務次官も「セクハラ罪はない」の人や「待機児童なんていない」の人も東京医大も土俵も、そのほか#metooされた方々も出てこない。パイを投げた彼らに対して、あなた「時代の中心に、男も女もないですよね」って言いますか? 「今なんでパイ投げたんですか」って聞かないか。まず。

 「男も女も関係ないってメッセージ、素敵やん。うちの妻もそう言ってる」などとまだ言っている人がいるのであれば言おう。パイを投げつけられた黒人が「時代の中心に黒人も白人もない」と笑う広告があったとしても、あなたは何も思わないか。今ある問題から目をそらせようとする圧力を感じない人は、とてもハッピーな頭をしている。

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