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旅客機のパイロットの飲酒が問題になっていて、乗務の24時間前からの禁酒が義務づけられるようですが、実は医師の世界でも同じようなことが言えます。- 「賢人論。」第79回天野篤氏(中編)

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手がけた心臓血管外科手術は、過去30年で8,300例以上。その成功率は、緊急手術を含め98%を超える。天野篤氏は間違いなく、日本で最も心臓手術の経験豊富な外科医である。そんな天野氏が手術数にこだわっているのはなぜか。また、心臓血管外科の第一線で30年以上も活躍できているのには、どんな秘訣があるのか。2012年2月18日のあの手術の話と合わせ、医療のプロとしての理念を聞いてみたい。

取材・文/盛田栄一 撮影/佐藤類

多くの患者さんに向き合った人にしか見えない世界というものが必ずあります

みんなの介護 天野さんは2012年2月、天皇陛下の心臓バイパス手術を執刀されました。チームのなかでもメインの執刀医、相当のプレッシャーがあって当然だと思います。しかし、著書の『あきらめない心』(新潮文庫)を拝読すると、「緊張はしなかった」ということが読み取れます。この落ち着きはどこからきていたのでしょう?

天野 それだけの数の手術でも結果を出し続けてきたからです。天皇陛下を執刀する時点で、私が経験した手術数は6,000例を超えていました。手術を通して6,000人以上の命をこの手で預かってきたのですから、その経験値はとてつもなく大きかったのだと感じています。

みんなの介護 手術数について、天野さんは少なくとも年間250例はキープするよう心がけてきたそうですが、なぜそこまで手術数にこだわるのでしょうか。

天野 心臓外科医という仕事が、ある種の技術職だからです。腕の良し悪しは経験値で決まるし、外科医としてあるレベル以上の技術を身に付けたなら、そのレベルを維持していくためにも、一定数以上の手術をこなし続けなければならないと考えています。技術は使わないでいると錆び付きますから。

私が手術数にこだわるもうひとつの理由は、たくさん手術することで新たに見えてくるものがあるからです。およそ30年前に心臓外科医としてスタートして、手術数がまだ2,000例くらいのときは、予期せぬ展開に慌てたり、怖い思いをすることも結構ありました。

しかし3,000例を超えたあたりから、大局観というか、手術のおおよその展開が自然と見えるようになりましたね。その頃になると、それまでの手術経験が「静止画」として頭にインプットされているので、「このケースは〇〇さんのときと同じだな」とか、「ここをこうすれば上手くいく」とか、過去の経験を随時活かすことができるようになっていました。

介護の主な原因となる脳梗塞は、心臓手術で防げることもあるんです

みんなの介護 天皇陛下の手術は、具体的にはどのような手術だったのでしょうか。

天野 ごく一般的な冠動脈バイパス手術です。3本ある冠動脈のうち、「左回旋枝」と「左前下行枝」の内部が狭くなっていたので、陛下ご自身の体から別の血管を切り取り、その血管をバイパス用に縫い付けました。陛下は当時78歳とご高齢だったので、体へのご負担が少ないオフポンプ術を実施しました。

それと同時に行ったのが、左心耳縫縮術です。左心耳とは、左心房の上に飛び出ている袋状の突起物のこと。手術中は、心房が小刻みに震える心房細動という異常が起きやすくなりますが、そうなると、左心耳内で血液がよどんで血栓ができやすくなり、それが脳にまで到達してしまうと脳梗塞を発症します。

みんなの介護 脳梗塞は介護が必要となる主な原因のひとつなので、避けられるものなら避けたいですが…。

天野 そのリスクを低下させるためには、左心耳内で血液がよどまないよう、あらかじめ縫い縮めてしまえば良いわけです。その当時、左心耳縫縮術はそれほど一般的な手術ではありませんでしたが、私たちの病院では「脳梗塞を防げる」というデータが出ていたので、ためらわずに実行しました。

とにかく、私が陛下の手術を任された以上、私にできることはすべてやり切ろうと最初から決めていました。

みんなの介護 結果は大成功でしたね。

天野 陛下の場合は特に難しい手術というわけではなかったので、普通に手術して、普通に終わったという印象ですね。

ただ、手術の出来には絶対の自信を持っていたので、陛下には「手術した血管はあと20年以上は大丈夫です」と申し上げました。

みんなの介護 天野さんご自身にとっても、天皇陛下の執刀医となった経験は大きかったのではないでしょうか。

天野 あの手術の前と後では、確かに生活が変わりましたね。取材を受ける機会も増え、社会からより注目されるようになったと思います。陛下の執刀医となる機会が与えられたのは、他の病院に先駆けて、オフポンプ術や左心耳縫縮術に取り組んでいたからだと理解しています。

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