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平均寿命の延伸に伴い、高齢者でも心臓手術を受けれるようになった。手術方法が進化しているんです。 - 「賢人論。」第79回天野篤氏(前編)

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天野篤氏はとにかく型破りの医師である。3浪して入った日本大学医学部を卒業して医師免許を取得すると、いくつかの病院勤務を経て、当時はまだ無名だった新東京病院へ。そこでオフポンプによる心臓バイパス手術のパイオニアになると、その後は名門・順天堂大学で心臓血管外科の教授に。2012年2月、今上天皇の心臓バイパス手術で執刀したことはあまりに有名だ。そんな天野氏によれば、後期高齢者が急増している今、心臓手術のあり方も変わってきているという。心臓血管外科の最新事情について、話を伺った。

取材・文/盛田栄一 撮影/佐藤類

高齢化が続く現代では、がんよりも心疾患が問題になります

みんなの介護 天野さんの著書『100年を生きる 心臓との付き合い方』(セブン&アイ出版)を拝読すると、年々延び続ける平均寿命に比例して心疾患による死亡数も増えていることがわかりますね。

天野 もう少し正確に言いますと、心疾患死は超高齢化の進展とともに、2000年頃までずっと増加を続けていました。ところがそれ以降、心疾患による死亡者数は一時的に減少しました。

その理由には、AEDを用いた救命処置などの急性期医療が全国的に普及したこと、健康志向の高まりとともに、健康食品などで動脈硬化対策が進んだことなどが挙げられます。とはいえ、超高齢化の波を押し戻すことはもはや不可能で、2007〜2008年頃から、心疾患死は再び増加を続けています。

みんなの介護 平均寿命が延びると、その分だけ心臓の病で亡くなる人が増える傾向にあるのは間違いありませんか?

天野 はい。心臓病は65歳以上の高齢者に多い病気ですから。長生きすればするほど、がんよりも心疾患で亡くなる確率のほうが高くなると言えます。

みんなの介護 以前に比べて、近年は心臓の手術を受ける高齢者も増えていると伺いました。

天野 その通りです。私が心臓外科医になった30年ほど前まで、心臓の手術が受けられる年齢的な上限は65歳くらいまででした。ところが、いまでは85歳くらいの患者さんまで、通常の心臓手術が受けられるようになりましたね。患者さんにできるだけ負担をかけないよう、手術方法も進化しているからです。

超高齢社会の心臓手術は“弁”が重要です

みんなの介護 高齢者の心臓手術について、内容は以前から変化しているのですか。

天野 手術内容も変化していますね。これまで心臓の手術といえば、冠動脈バイパス手術が圧倒的に多かったのです。ところが、高齢化が進むにつれて、弁置換術や弁形成術といった弁膜症の手術が増えてきました。もう少し噛み砕いて説明しましょうか。

心臓は、生まれてから死ぬまで全身に血液を送り続けるポンプ。大きさは握りこぶし2つ分ほどある筋肉の塊です。

構造的には、4つの部屋(右心房・右心室・左心房・左心室)と4つの弁(三尖弁・肺動脈弁・僧帽弁・大動脈弁)でできていて、1日に約10万回も収縮と拡張を繰り返すことで新鮮な血液を送り込むのと同時に、全身から戻ってきた血液を取り込んでいます。

また、心臓の病気には、大きく分けて2つのタイプがあります。心臓の血管と筋肉がダメになる病気と、心臓の弁というパーツがダメになる病気です。どちらも放っておくと、心臓のポンプ機能が失われる「心不全」の状態になり、死に至ります。

みんなの介護 つまり、心不全にならないよう、心臓の手術を行うのですね。

天野 はい。心臓は死ぬまで動き続けなければなりませんから、心臓の筋肉(心筋)には、血流によって常に新鮮な酸素と栄養分が供給される必要があります。

その心筋に酸素と栄養分を供給しているのが3本の冠動脈ですが、この冠動脈は動脈硬化などで内側が狭くなったり、血栓で部分的に塞がったりすることがあります。そうなると、そこから先の筋肉に酸素と栄養が届きにくくなり、筋肉が悲鳴を上げます。

これら、心筋に血流が届きにくい状態になってしまうのが「狭心症」と、血流が完全にストップしてしまう「心筋梗塞」の2つを合わせて「虚血性心疾患」と言います。心筋梗塞になると、そこから先の心筋は壊死してしまい、重大な機能障害をもたらします。

みんなの介護 ここまでお話いただいたのは、心臓の血管と筋肉の病気ですね。

天野 そうです。それに対して、心臓の弁というパーツの病気が「心臓弁膜症」です。心臓の中では、血液が効率良く一方通行で流れなければならず、その流れを4つの弁がコントロールしているのですが、高齢となるにつれてパーツが傷み、閉じるべきときに弁がきちんと閉じなかったり、開くべきときに弁がきちんと開かなかったりします。

そうなると、心臓内で血液の逆流が起こり、心臓に大きな負担をかけます。前者は「閉鎖不全症」、後者は「狭窄症」と呼ばれ、近年では「大動脈弁狭窄症」と「僧帽弁閉鎖不全症」が目立って増えてきました。

先ほどの手術の内容に戻ると、虚血性心疾患になってしまった心臓に対して、詰まった冠動脈の代わりに別の血管でバイパスを作るのが冠動脈バイパス手術です。また、心臓の傷んだ弁に対して、弁そのものを修理するのが弁形成術、人工弁に取り替えるのが弁置換術となります。

心臓そのものは元気なのに、弁に不具合が出てきた患者さんが増えてきたので、高齢化が進んでいる近年は、弁形成術や弁置換術の手術が急激に増えています。

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