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再生産される「わたしは、私」

新年早々、話題の「わたしは、私」。

https://www.sogo-seibu.jp/watashiwa-watashi/

 パイを投げつけられる暴力的画像や、「女だから、強要される」「女だから、無視される」「女だから、減点される」等、昨年問題となった強姦や、医学部差別入試等を意識したコピーが物議を醸し出している。

 既にSNS等では炎上しているが、西武・そごうの広報部は「なんで?」の思いかもしれない。「自分たちは顧客である女性たちに寄り添っているではないか」と。

 それがしらじらしいほど表層的であることに、制作過程で気がつくことがなかったとは、まさに女性をとりまく現状を端的に表すこととなった。

 ここで書かれる「私たち」は「日本に生きる女性たち」ではなくて、あくまで広告の作り手である「日本に生きる男性たちが想像する女性たち」である。

 広告が世に出るまでには女性も関わっているだろうが、「女性も入って作ったんだから、大丈夫」的な油断も感じる。男性社会の中で「適者生存」するために、立ち位置が男性側になった女性目線は、当然ながら男性目線だ。そうしたバイアスがかかった「女性の痛み」をいくら並べても、ただただ文言を並べただけ。パイ投げの画像も同様、単なる暴力を可視化しただけ。

 結果、共感を生み、企業のイメージアップに貢献、最終的には売り上げ向上につながるという目論みは見事に外れた。

 ま、本当に「女だから、減点される」他に異議があり、寄り添う姿勢があるのなら、もっと前に、もっと違う行動をしているだろう。企業だったとしても、だ。

 さて、今年は安藤サクラを起用した「わたしは、私」だが、西武・そごうがこのCMを出すのはこれが初めてではない。

 2017年は樹木希林バージョンだった。(2016年12月20日公開)https://www.youtube.com/watch?v=Ep95r6avrTI

 この二人はカンヌ映画祭パルムドール賞受賞で話題になった「万引き家族」の女優たちである。

 その連続性も含めて、話題になることを意図していたことは明らかであろう。

樹木希林バージョンへの書き込みをみると、絶賛が続く。

 何かに縛られている女性たちが自らその鎧を脱ぎ、限界線を消し、生きる。

実生活でもそれを実践してきた樹木希林だからこそ、説得力があったのだろう。

 ただ、樹木は離婚無効の裁判や、民法上存在しなくなった「婿養子」の概念を家族構成の軸とした「ロックンロールでない」部分もあったが、時代を一周して、むしろそれを「ロックンロール」と感じさせてしまう力技を持っていたともいえるだろう。 樹木希林については別途述べたいが、樹木希林が主張するのは変わる主体はあくまで「わたし」であって、社会ではない。

 社会が示す基準や価値観はあとから変わるかもしれないから、それに縛られて生きて行くのはもったいない。主張されるのは社会と私は別。社会を構成するのは「わたし」でもあるということは意識されていない。

 「わたし」から「私」になるという表記の変化についても、単に感覚的なもので、そこに社会的意味づけや、言及はない。

 ここに、不平等や理不尽に対しての怒りはない。あるのはあきらめと、社会との距離感である。

 そのたった2年後、2019年、「パイ投げ」さげる女性たちは、樹木の娘たち、孫たち世代である。「わたしは、私」と言わねばならない社会は、さらなる暴力性を増しながら、再生産されているということだろうか。

 近々、「消費される女性たち」について書いた記事が公開される予定だが、男性に比して女性の場合、年齢とともにキャリアを重ねても評価されず、「若くて未経験」が評価される傾向がいまだに当たり前のようにあることに驚愕する。

 このCMで、私が最も注目したのは「女の時代」だ。

 なぜ、2019年の正月に「女の時代」?

 「女の時代」と言われたのは 男女雇用機会均等法からバブルに向かう1980年代なのに?

 80年代の「女の時代」は、当然70年代の「ウーマン・リブ」の流れを受けている。この時期は日本社会においても男女をめぐるさまざまな意識が変化していく転換期だった。

 このコピーを作ったチームは、こうした歴史的、社会的背景を全く無視して「女の時代」を前面に出す。

 そこには過去、闘ってきた女性たちへのリスペクトは全くない。

 無邪気な無知がどれほど人を傷つけるかへの畏れもない。

 パイ投げされてもビクともしない安藤サクラは、無自覚に日常化した暴力や不平等、理不尽をほぼ等身大で可視化しているのである。

 2019年に闘わなければならないものがどこにあるかも含めて、だ。

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