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追い詰められた中国を救うのは安倍首相? 2019年「米中新冷戦」のゆくえ トランプの目は国内を向いている - 前嶋 和弘

 昨年は米中間の緊張関係が「新冷戦」などと報じられました。トランプ政権になってから、米国はすでに対中輸入2500億ドルに追加関税を課しており、それに対して中国も報復関税を課しています。12月1日の米中首脳会談では、対中輸入2000億ドル分に対するこれ以上の関税の引き上げが、ひとまずは90日間延期されました。

「新冷戦」は関税戦争に限りません。中国の通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)の最高幹部がカナダで逮捕された件でも、ファーウェイのイランへの制裁違反容疑などを米国が2年以上前から捜査していたことがあきらかになりました。また、11月からは外国企業の対米投資規制が強化され、中国企業がアメリカ進出しにくくなりました。他にも、米中ともにスパイ容疑をかけては相手国の人を捕まえてみたり、米国ではハイテク関係を学ぶ中国人留学生のビザがなかなか下りなくなっていたり、まさに「冷たい戦争」が進行しています。

9日、米中首脳会談後の共同記者会見に出席したトランプ米大統領と習近平国家主席 ©Getty Images

「新冷戦」の兆しはいつから?

 表向きには、対中強硬の動きが本格的に前に出てきたのは昨年の6月頃からのように見えます。米朝首脳会談の直後の6月15日、自動車や情報技術製品など、中国からの輸入品計1102品目に対し、500億ドル規模の追加関税措置を行うと発表しました。ここからアメリカ側の「どんどん中国を締め上げていくぞ」という動きが始まったと解釈する人が多い。

 しかし、「新冷戦」の兆しはトランプ政権発足当初からありました。トランプ大統領は、「対中国の貿易赤字は是正せねばならない」などといった見解を当選前から示していたからです。ただし、貿易赤字がその国にとって有害であるという見方は、学術的にはほとんど支持されていないのですが。

政権内の2つの動き

 政権内では、対中強硬への本格的な動きが2017年の夏頃から2つありました。1つはピーター・ナヴァロという人物の台頭。ナヴァロ氏は、カリフォルニア大学アーバイン校の名誉教授で経済学者なのですが、トランプ同様に貿易赤字を問題視するなど、学術界では異端とされてきた人です。『チャイナ・ウォーズ』(イースト・プレス)や『米中もし戦わば』(文藝春秋)などの著書で繰り返し中国の脅威を主張しています。トランプ大統領の当選前からトランプ陣営に所属し、政権の保護主義的な貿易戦略のブレーンだとも言われてきました。政権発足当初は冷遇されていたのですが、政権幹部が次々と辞めるにつれ出世し、いまや大統領補佐官に。先日のG20にも出席しました。

 もう1つは、官僚や利益団体、シンクタンクの研究員など、政権周辺の安全保障に関心のあるグループが、トランプ大統領やナヴァロ氏の対中強硬姿勢に乗っかったこと。彼らは、中国の企業がテクノロジーなり技術なり、あるいは盗んだ情報なりを吸い上げて、国や軍に渡してしまう可能性があることを安全保障上の脅威として問題視してきました。

 このグループが問題視しているのが、中国による通信覇権です。近い将来普及する見込みの第5世代移動通信システム「5G」で中国企業に遅れを取ることを警戒しています。たとえばこの5Gのネットワークを使ってドローンを飛ばす。飛ばしたドローン同士が互いに通信して、協力して攻撃をしかけたりするのですが、そのときに使う5Gのネットワークが中国のものだったら、やはり安全保障上の脅威になるわけです。

 彼らはこうした懸念を10年以上も前から示していたのですが、近年ファーウェイなどの中国企業による製品が予想以上の速さで増え、レベルも高くなった。安全保障に関心のあるグループにとってみれば、トランプ大統領やナヴァロ氏の中国への反発心は、自身の懸念事項に対処するのに絶好の”乗り物”だったわけです。

安全保障にWTO改革……“本質”に近づくトランプ政権

 昨年の10月には、ペンス副大統領が演説で中国を「米国の民主主義に干渉しようとしている」などと厳しく批判しました。この演説でも、「米国は、中国に自国の市場へのオープンなアクセスを与え、世界貿易機関(WTO)に招いた。これまでの政権は中国があらゆる形の自由を尊重するようになると期待し、こうした選択をしたが(中略)その期待は裏切られた」など、対中貿易についての話が出てきます。

 ペンス副大統領の指摘はまっとうで、中国は自由貿易を掲げつつも、国家資本主義的な体制を維持することでWTO加入以来、莫大な利益をあげてきたわけです。米中の経済があまりに相互に依存しているので、これまでの米国の政権はなかなかそうした中国の矛盾をビシッと批判できませんでした。しかし、トランプ大統領は中国の国家資本主義を批判し、昨年の半ば頃にはWTO脱退をちらつかせさえしています。昨年の11月には、自国産業に巨額の補助金を与えている中国を念頭に、WTOへの通知なしに自国産業に優遇措置を施す加盟国に制裁を科すWTO改革案を日米欧が提出しました。

 まとめると、「貿易赤字を是正しろ」という、トランプ大統領らのちょっと首をかしげたくなる問題意識にさまざまな関係者が乗っかり、中国の安全保障に対する脅威や、国家資本主義の矛盾など、政権全体としてどんどん本質的な問題に切り込んでいっているのです。

トランプの目は常に国内を向いている

 今回の関税戦争で一つ留意しておきたいのは、トランプ大統領の目が常に国内を向いていることです。たとえば、昨年の7月、報復関税の一環として、中国が米国産大豆への関税を値上げしました。ところが、トランプ政権はこの報復関税が米国の大豆農家を直撃することを見越して、実は大豆農家に補助金をつけています。ですので、国内で関税に直撃された業界も、意外と政権に不満を持っていない。国内で不満が出ないよう、巧みに対策しているのです。

 昨年の3月頃から米国は中国の鉄鋼・アルミニウムに追加関税を課していますが、打撃を受けているはずの米国内のアルミニウム加工業者の人たちと話すと、「減税と規制緩和でなんとかなってる」と言うんです。「政権が中国に対してやってることは正しい。こっちも耐えられるところまで耐えるから、やっちまってくれ」という感じです。

貿易は譲っても、安全保障は譲らない

 ただし、関税の影響はしばらく経ってから出てくるものなので、2019年には米国国内で関税戦争の影響がより本格的に出てくるでしょう。すでに昨年末の株価の急落もあり、トランプ氏にとっても焦りもあります。トランプ大統領は2020年に大統領選挙も控えていますから、支持者への影響を考えながら、貿易の面では少しずつ取引や妥協をしていくはずです。

 ただ、安全保障についてはなかなか譲らず、強硬姿勢は崩れないと思います。12月の米中首脳会談でも、米国は「米国企業への技術移転の強要」「知的財産権の保護」「非関税障壁」「サイバー攻撃」「サービス・農業分野の市場解放」の5分野で協議することを条件に追加課税に90日間の猶予を設けましたが、「知的財産権の保護」などでは協議の余地があるにしても、「サイバー攻撃」などに関してはそもそも中国がやっていることを認めない。ですから、進展のしようがないですよね。

追い詰められる中国は「逃げ切りたい」

 ここまで、アメリカ側が考えていることを見てきましたが、中国側は何を考えているのでしょうか。中国の本心は「逃げ切りたい」、この一点につきるでしょう。国家資本主義的な体制で、自由貿易にのっかり大成長を遂げた国ですから、そこは譲りたくない。ですので、小手先で小さな譲歩はしていくでしょう。

 現時点で見られる中国側の譲歩として、ハイテク企業を育てていこうという産業振興策「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」の内容の微調整などがあります。「メイド・イン・チャイナ2025」をトランプ政権内の安全保障グループが「中国がハイテク技術や軍事の覇権を一気に握ろうとしている」として問題化、名前がキャッチーなこともあって、米国のメディアがこぞって報じた。これを知った中国は、いま「メイド・イン・チャイナ2025」の文言を後退させる可能性を示しています。具体的には、達成目標を10年延期し、「2025年」ではなく、「2035年」をめどとする妥協案が議論されているといいます。

 おもしろいことに、中国はこの頃、民主党関係者にも接触している。「あわよくばトランプ政権に終わって欲しい、民主党がんばってくれないかな」というところでしょう。ただ、民主党の支持基盤は労組。米国国内の労組も中国に対して良い感情をもっていないので、民主党が中国に乗っかるかというと、そんなことはない。中国を応援したいという人は米国にあまりいないんですよね。

 今後の米中関係の行方を知るには、まず2019年1月に行われる、トランプ大統領による一般教書演説に注目したいところです。演説の中で中国をいかに悪く言うか、あるいは言わないかで、今後2、3年の対中政策の方向性が見えてくるでしょう。次に、3月に中国の全国人民代表大会での政府活動報告にどんな文言が入ってくるかも要注意です。

日本に期待される意外な役割

 他にも、2019年は前出のWTO改革が動く年になるでしょう。G20が6月にありますが、ここでもWTO改革が議題に上るはずです。今年のG20は日本が議長国なので、安倍首相の腕の見せ所かもしれません。

 というのも、今の中国にとっては安倍首相はトランプ大統領と話をすることができる人、アメリカへの「パイプ役」に見えている。加えて、参加する予定の首脳のうち、もう辞めることが決まっているドイツのメルケル首相を除いて、なんと安倍首相が最ベテランなんです。

 日本が外交で一目置かれることってあまりないのですが、ここでうまく米中の架け橋になれれば、安倍首相の名前が後世に残るかもしれません。

(前嶋 和弘)

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