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「変わるアジアのパワーバランス」 Japan In-depth創刊5周年シンポ その1

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古森義久氏(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)は「米中関係は今」というテーマで話した。

▲写真 ©Japan In-depth編集部

「私は国際報道を長くやってきた。ワシントンが一番長く、ベトナム・中国に2年、ヨーロッパも見てきた。我々が一番関心があることは、日本の平和をどうやって守っていけばよいのか、ということ。これまでの日本の中での議論、特にマスコミの傾向は国の外を見ないものであった。平和というのは日本の国内の治安が良いということではなく、周りの国との関係において、戦争がない、安定している状況を指す。平和を考えるとき、これを崩そうとする国家群あるいはテロ組織を見ることが一番重要なことだ。

だが、日本ではマスコミも国会も、日本の平和を乱すどのような脅威があり、どんな能力があるのかということを正面から論じることが少ない傾向にある。どこかの国の軍備が異常に強力になっていて、日本を射程に入れる中距離ミサイルが無数にあるという状況になっても、その国がどこの国で、どういう能力を持っているのかということをなるべく具体的には言わない方が良いと考える傾向がある。それを言うとかえって相手を刺激してよりまずい状況を招くという感覚がある。しかし、やはりあるものはあるんだということを認めていくことが安全保障、平和を考えるときの一番最初の作業なのではないか。それが非常に欠落している状況が戦後続いてきた。

そのような背景を踏まえ、アジアのパワーバランスを改めて考えるというのは日本の国のより良いあり方を考える時、非常に良いアプローチだ。まず、米中関係の大枠について3つのポイントを話す。2001年から2018年の間の米中関係の変化はものすごく大きい。

2018年の11月現在の米中関係、1つ目のポイントは米中の対立の規模の巨大さだ。国際情勢を根底から揺るがす規模の大きさだ。世界経済面で第1のGDP、第2のGDP。軍事力でも第1、第2の大国だ。米中の対立、駆け引きによって日本と朝鮮半島の安全や安全保障が根底から揺さぶられてしまう。今の国際関係激動の最大要因はやはり米中関係だ。その米中関係が今極めて険しい厳しい状況になってきている。

2つ目は米中関係の厳しさ、険しさには長い歴史、深い根があるということ。アメリカと中国が国交樹立したのはほぼ40年前の1979年。それ以前の第二次世界大戦時は中国とアメリカは手を取り合って日本と戦った。しかし、その後すぐに1950年に朝鮮戦争が起き、今度はアメリカと中国が朝鮮半島で血みどろの激戦を展開したという歴史がある。それを乗り越えて79年にやっと国交を結んだ。それ以来のアメリカの中国政策というのは簡単に言うと関与政策、すなわちエンゲージメント政策。これは、私たちの元へいらっしゃい、仲良くしましょう、中国はまだ弱く貧しいけれど強く豊かにするために我々は援助しますよというもの。そうすれば中国はアメリカや日本など民主主義陣営に近い形になり、我々の側、すなわちアメリカが中心となって築いてきた戦後の自由民主主義の国際秩序に中国が普通の一員として入ってくれるだろうと期待していた。これが関与政策だった。

ごく最近になってこの政策が失敗だったとの認識が広がり、中国はアメリカの期待していた方向に全く動いていないという認識になってきている。今トランプ政権の周辺では「今までの対中政策がエンゲージメントであったとすれば、今からやる事はディスエンゲージメントである。今まであった絆を外していく、遠ざけてゆく」と言われている。カップリングは人と人を結びつけるときに使う言葉だが、今アメリカが中国にやろうとしているのはディカップリングだと。米中の絆というのは、いろいろな面で対立しながらも協調することが多かったが、これをやはり減らしていってしまうということ。

何故かというのは後ほど説明するが、こういう状態になったその根底には、自由民主主義のアメリカと一党独裁体制の中国という全く違う政治体制がある。今まで仲良くやってきたことが不思議なわけで、今それが変わってきた原因は本来の基本的な政治の価値観や体制の違いによるものだ。そういうことはあまり言わずに仲良くしようとやってきたが、それがあまりうまくいかなかった。

3番目のポイントは、簡単に終わらないということ。これは1と2をつなぎ合わせれば当然出てくる結論だ。簡単に手を結んで手打ちになるということはない。長く険しい米中のせめぎ合いがこれから続いていくだろうということ。米中の関税問題もなんとなくどちらかが勝ってどちらかが傷ついて負ければ終わり、お互いがこれ以上戦うのをやめようということになれば手打ちになるので、関税戦争もやがて終わるだろうと思われる。しかし、決して現在の米中の対立は関税、貿易面だけではない。政治、安全保障、社会、そして貿易の背後にある経済体制、経済を運営していく仕組み。世界貿易機関(WTO)の国際基準に反していても「まぁいいじゃないか」と。中国が変わってこちらと同じようになるプロセスなのだから大目に見ようということで今まできたのが、それはそうはいかなくなったというわけだ。

貿易・関税の問題が解決してもまだまだ軍事的な対立や政治的な対立、台湾の問題をどうするのか、チベットの問題はどうするのか、あるいは日本に対してアメリカと中国がそれぞれどんな対応を取るのか、いろいろなところにギャップがあってそう簡単には片付かない。そのことが日本に今後どのような影響があるかを我々はは考えざるを得ない局面にいる」と話した。

その2に続く。全5回)

【訂正】2018年12月31日

本記事(初掲載日2018年12月30日)の本文中、「寛容政策」とあったのは「関与政策」の間違いでした。お詫びして訂正いたします。本文では既に訂正してあります。

誤:それ以来のアメリカの中国政策というのは簡単に言うと寛容政策、すなわちエンゲージメント政策。これは、私たちの元へいらっしゃい、仲良くしましょう、中国はまだ弱く貧しいけれど強く豊かにするために我々は援助しますよというもの。そうすれば中国はアメリカや日本など民主主義陣営に近い形になり、我々の側、すなわちアメリカが中心となって築いてきた戦後の自由民主主義の国際秩序に中国が普通の一員として入ってくれるだろうと期待していた。これが寛容政策だった。

正:それ以来のアメリカの中国政策というのは簡単に言うと関与政策、すなわちエンゲージメント政策。これは、私たちの元へいらっしゃい、仲良くしましょう、中国はまだ弱く貧しいけれど強く豊かにするために我々は援助しますよというもの。そうすれば中国はアメリカや日本など民主主義陣営に近い形になり、我々の側、すなわちアメリカが中心となって築いてきた戦後の自由民主主義の国際秩序に中国が普通の一員として入ってくれるだろうと期待していた。これが関与政策だった。

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