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トランプの支持率が下がらない理由 2019年トランプ政権の行方 - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

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(olya_steckel/Gettyimages) WEDGE Infinity

今回のテーマは「2019年トランプ政権の行方」です。ドナルド・トランプ米大統領は、就任から3年目を迎えます。この2年間で、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」及び環太平洋経済連携協定(TPP)離脱、イスラエルの首都エルサレム移転など、次々と選挙公約を果たしてきました。その一方で、やり残している課題もあります。

就任当初から続いているロシア疑惑は、ロバート・モラー特別検察官の捜査範囲が拡大し、トランプ大統領の過去のビジネス取引にすでにメスが入っているとみられています。

今年は、大統領候補指名争いを戦う野党・民主党候補の「顔」が出揃います。さらに、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)問題と、90日の猶予期間が3月1日で切れる米中貿易交渉にも目が離せません。そこで本稿では、19年トランプ政権の行方について述べます。

公約の中の公約

1月3日から開催される第116議会において、共和・民主両党は米連邦政府機関の一部閉鎖の原因となったメキシコとの国境の壁建設予算を巡って、再び激しい攻防を繰り広げることが予想されます。

再選を目指すトランプ大統領にとって、壁建設は「公約の中の公約」です。昨年の中間選挙で西部モンタナ州及びアリゾナ州で開催されたトランプ集会に参加しましたが、壁建設は支持基盤からかなりの支持を得ています。

トランプ大統領は18年12月25日、「2020年の米大統領選挙までに古い壁を修復するか、新たな建設によって、国境の壁を完成する」と、大統領執務室で記者団に語りました。加えて、自身のツイッターに「国境管理が2020年の争点になる」と投稿し、次の大統領選挙において、民主党とこの問題で対決する姿勢をみせました。

是が非でも壁建設実現を1期目の成果として誇示したいトランプ大統領は翌26日、イラクに駐留する米軍部隊を電撃訪問した際、「皆さんは他国の国境を守るために戦っている。民主党は自国の国境を守ろうとさえしない」と主張しました。

これには驚きです。戦闘地域の米軍部隊に向かって、大統領が党派色を丸出しにして支持を訴えたのです。裏返せば、そこまでしても国境の壁建設で成果を上げたいわけです。

トランプ大統領の壁建設実現の強い思いはツイッターにも現れています。言葉の使い方に長けた同大統領は、国境の壁建設に猛反対する民主党の行動を「OBSTRUCTION(妨害)」と大文字で自身のツイッターに投稿しました。

実はこれには少なくとも二重の意味が含まれています。民主党を壁建設の妨害者とレッテル貼りをすることです。それと同時に、ジェームズ・コミー元米連邦捜査局(FBI)長官の解任を巡り、ロシア疑惑捜査に対する司法妨害と疑われているトランプ大統領は、有権者の目をそらすために意図的に「妨害」という言葉を民主党に向けて発信したのです。

壁の攻防

ではトランプ大統領は今年、この壁建設の問題を解決できるのでしょうか。それはかなり困難でしょう。

というのは、壁建設は民主党にとって「争点の中の争点」だからです。民主党は壁建設を阻止できれば、20年米大統領選挙において優位な立場に立てると読んでいます。

仮に壁建設が実現しなかった場合、民主党にとって来年の大統領候補テレビ討論会で公約違反だと徹底的に追及できる大きなメリットが生まれます。そこまで計算に入れて、民主党は今年、壁建設阻止にエネルギーを注ぐでしょう。

ロイター通信とグローバル世論調査会社イプソスが行った共同世論調査(18年12月21-25日実施)によれば、米連邦政府機関の一部閉鎖に関して、47%がトランプ大統領、33%が議会民主党の責任であると、回答しました。国境の壁建設費に端を発した一部閉鎖において、民主党は有利にゲームを進めており、トランプ大統領は苦戦を強いられています。

結局、新議会で下院多数派となる民主党が壁建設費の予算をつけない限り、壁の完成はあり得ません。となると、トランプ大統領の最終目的は、支持基盤に民主党と戦っている姿を演出し、票を固めることになります。

一方、来年の大統領選挙で政権奪還を狙う民主党は、「壁」を人質にとり、たとえトランプ大統領が何らかのディールを持ちかけてきても、安易には乗らないでしょう。

モラー最終報告書

モラー特別検察官は昨年、ロシア疑惑に関する最終報告書を出しませんでした。仮に今年、報告書を提出しなければ、来年は大統領選挙の年ですから、捜査結果が政治的影響を及ぼす可能性が高まります。そこで何らかの報告書を、今年出すはずです。

前述した通り、モラー特別検察官はロシア疑惑の捜査範囲をトランプ大統領の過去のビジネス取引まで広げているといわれています。それに激怒したトランプ大統領は、モラー検察官の捜査は、「大統領に対するハラスメントだ」と強く抗議しています。

世論調査で定評があるクイニピアック大学(東部コネチカット州)の調査(18年12月12-17日実施)によれば、モラー特別検察官の仕事に対して、66%の共和党支持者が「支持しない」と回答しました。さらに、同党支持者の63%が、モラー検察官の捜査に関して「公平に行われていない」と答えました。

同調査ではトランプ大統領によるモラー検察官解任を阻止する法案についても、55%の共和党支持者が「反対」と回答しています。つまり、同党支持者の間では、トランプ大統領がモラー検察官よりも支持を得ているということになります。

加えて、米司法省の規定では現職大統領は起訴されません。これはトランプ大統領にとって朗報です。

しかも、新議会では上院民主党の議席数は無所属を含めると47議席で、弾劾に必要な67票には到底達しません。トランプ大統領にとって、弾劾を免れる環境が整っています。

しかし、トランプ大統領にとってまったく予断を許さない状況です。同調査で全体の約7割、共和党支持者の約5割が、「現職大統領でも起訴されるべきだ」と回答しているからです。モラー特別検察官が確固たる犯罪の証拠をつかみ、最終報告書の中で「黒」と結論を出したとき、それがトランプ政権を揺るがす最大要因になることは間違いありません。

民主党下院の動き

モラー特別検察官による捜査と並行して、下院では民主党から選出された各委員会の委員長が、独自捜査を実施します。今年、特に注目する新委員長は、司法委員会のジェロルド・ナドラー議員(ニューヨーク州第10選挙区選出)と情報特別委員会のアダム・シフ議員(カリフォルニア州第28選挙区選出)の2人です。

ナドラー議員は、トランプ大統領の元顧問弁護士マイケル・コーエン被告が同大統領の不倫相手とみられる2人の女性に支払った「口止め料は弾劾できる罪だ」と主張しています。

一方、シフ議員は口止め料について、「明らかになっていれば、(16年米大統領)選挙の結果が違っていたかもしれない」と、米メディアのインタビューに答えました。そのうえで、「彼(トランプ大統領)は陰謀を指示した受益者である。(コーエン被告は実刑判決を言い渡されたのに)彼が服役しないのは、とんでもない二重基準だ」とトランプ批判を展開しました。

シフ議員によれば、選挙期間中の16年6月9日、長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏はロシア人女性弁護士とニューヨークのトランプ・タワーで面会する直前に、ロシアと通話を2回しています。そこで、同議員は通信会社を議会に召喚し、通話記録を提出させると意気込みを語っています。

シフ議員はロシアがトランプ一族が経営するトランプ・オーガニゼーションのためにマネーロンダリング(資金洗浄)をしたという仮説も立てており、その点も徹底的に調査する構えをみせています。

これだけみても今年は、民主党下院がトランプ大統領の疑惑に対してかなり厳しい追及を行うことが分かります。

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