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トランプ氏がシリア内戦を終わらせるか?―見捨てられたクルド人の決断

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・ シリアの反体制クルド人勢力は、隣国トルコによる攻撃を警戒し、これまで争ってきたシリア政府に支援を求めた。
・ もともとクルド人と争ってきたトルコ軍がシリアに侵攻した直接的なきっかけは、トランプ大統領がシリアから撤退すると宣言したことにある。
・ アメリカ軍の撤退宣言にともなうシリア政府とクルド人勢力の接近は、ロシア主導によるシリア内戦の終結が近づいたことを示す。

 トランプ大統領がシリアからの撤退を発表してわずか1週間で、事態は大きく動き始めた。クルド人勢力が、これまで対立してきたアサド政権と接近することは、「ロシア主導でのシリア内戦終結」の実現が近いことを象徴する。

「アメリカ軍の撤退」の余波

 12月28日、シリアの反体制クルド人勢力「人民防衛隊」(YPG)は、シリアを握るアサド政権に対して、「トルコ軍の脅威」からの防衛のために支援を要請。これを受けて、アサド政権はシリア北部のマンビジュに向けて部隊を派遣した。

 これはシリア内戦の構図が大きく動いたことを意味する。

 クルド人はシリアだけでなく、その周辺国でも居住しているが、「国をもたない世界最大の少数民族」でもある彼らは、どの国でも分離独立を求め、当局から弾圧されてきた。そのため、2011年に発生した内戦の混乱のなか、シリアのクルド人たちは武器をとり、ロシアやイランの支援を受けたシリア軍だけでなく、やはりシリア内戦のなかで台頭した「イスラーム国」(IS)などと戦闘を交えながら、実質的に「自分たちの土地」を手に入れていった。つまり、クルド人にとってアサド政権は、ISなどと同じく敵だったのである。

 そのYPGがアサド政権に支援を求めた転機は、トランプ大統領による「シリアからの撤退」の宣言だった。

 シリア内戦の発生を受け、アメリカはヨーロッパ諸国とともに、「アサド政権の退陣が内戦終結につながる」と主張した。強権的なアサド政権が反体制派の台頭を促した、という論理である。この背景のもと、アメリカはYPGなどクルド人勢力を支援し、さらにその訓練などのため、北部マンビジュに駐留してきた(もちろんシリア政府の同意を得ていない)。

 ところが、アメリカ軍の撤退は、クルド人勢力を見捨てることに等しい。そのため、クルド人たちにとってトランプ大統領の決定が、アサド政権やロシアに接近する大きな転機になったことは疑いない。

トルコからみた脅威

 とはいえ、これはかねてから予測されてきたことでもある。

 今年2月の段階ですでに、クルド人勢力がロシアやアサド政権に接近する予兆は確認されていた。YPGの広報担当によると、クルド人勢力との直接戦闘をほぼ一貫して避け続けていたロシアの仲介でYPGとアサド政権が接触をもつようになったという。

 アメリカから支援されるクルド人が、ロシアやアサド政権にも接近するというリスクヘッジを選択した背景には、大きく二つの理由があった。

・トルコの介入

・アメリカの曖昧さ

 このうち、トルコ政府はYPGと自国内のクルド労働者党(PKK)が結びついていると主張し、YPGと敵対するシリアの反体制派を支援してきた。トルコにとっては、勢力を衰退させたISよりむしろ、クルド人の方が脅威だったとさえいえる。

 そのため、アサド政権だけでなく、トルコとも戦わなければならなくなったYPGにとって、アメリカは頼みの綱だった。

 もともと、2016年大統領選挙の時点で、既にトランプ氏は「シリアからの撤退」を主張していた。「コストに合わない」という理由だった。しかし、トランプ氏は2018年1月、「現地勢力への支援の強化」を発表。シリアへの積極的な関与は、マティス国防長官ら軍出身者からの進言によるところが大きかった。

 とはいえ、NATO加盟国トルコへの配慮も手伝って、アメリカは1月18日に「YPG支援をやめる」と宣言し、多くの反体制派の連合体であるシリア民主軍(SDF)の支援に集中すると弁明した。SDFのほとんどを占めているのはYPGであるため、これは何も宣言していないに等しかったが、これがYPGにアメリカとの協力の持続性に疑念をもたせる要因となった。

カショギ事件の衝撃

 クルド人のリスクヘッジに拍車をかけたのが、10月に発覚したサウジアラビア人ジャマル・カショギ氏の殺害事件だった。この事件をきっかけに、トルコがアメリカにこれまでになく譲歩を求め始めたからである。

 事件の舞台となったトルコは、「サウジアラビア政府を実質的に握るムハンマド皇太子の関与」を示唆し、サウジへの疑惑と批判を先導してきた。トルコにとって、カショギ氏の殺害事件は、ライバルであるサウジアラビアを追い詰める手段になった。

 これに対して、サウジとの関係を重視するトランプ氏はムハンマド皇太子を擁護し続けた。

 トルコはNATO加盟国だが、国内の人権問題などをめぐりアメリカと長く対立してきた。とりわけ、2016年7月のクーデタの首謀者とトルコ政府がみなすフェトフッラー・ギュレン師がアメリカに亡命していることと、これに関連してアメリカ人牧師がトルコ当局に拘留されたことで、両国の関係は極度に悪化した。今年8月、トランプ政権がトルコ製鉄鋼・アルミ関税を引き上げたことは、「貿易戦争」だけが理由ではない。

 ところが、カショギ氏の殺害事件により、これに対する疑惑と批判を先導することで、トルコは「ムハンマド皇太子を擁護したい」トランプ大統領への武器を手に入れたことになる。

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