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ハンセン病国立療養所菊池恵楓園

原稿は菊池恵楓園機関誌「菊池野」に2月に掲載されたものです。

菊池恵楓園は、明治42年4月に九州7県連立「九州癩療養所」として開設され、昭和16年に国立療養所「菊池恵楓園」となった。

現在359名(平均年齢80.6歳)の方が生活されている。

熊本には加藤清正を祀ってある本妙寺があり、かつて、この参道には物乞いする多くのハンセン病患者がいたといわれている。この光景に心を痛めたイギリス聖公会のハンナ・リデル女史は、救済のために回春病院を開設した。

ハンナ・リデルは日本のハンセン病の歴史に大きな影響を与えた。回春病院は現在、彼女の資料の展示場になっている。ご興味の方は、英国大使であったアラン・ボイドの夫人、ジュリア・ボイド夫人が書かれた「ハンナ・リデル」(熊本文化出版会館 2005年発行)をお勧めしたい。

同じ頃、カトリックのコール神父が待労院を開設した。ここには今でも数人の回復者が余生を送られている。

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中央アフリカ共和国でのハンセン病制圧活動


WHOハンセン病制圧特別大使
笹川陽平


2011年7月17日から21日にかけて、アフリカ中部の中央アフリカを訪問しました。これまでアフリカ諸国には頻繁に足を運んでいますが、同国の地を踏むのは今回が初めてです。

中央アフリカはチャド、スーダン、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、カメルーンと5カ国に国境を接する内陸国で国土面積は62万平方キロメートル(日本の約1.7倍)、人口約430万人の国です。緯度は赤道に近く、南部には熱帯雨林が広がり緑豊かです。1960年にフランスより独立しましたが、度重なるクーデターや内戦で政情が不安定な状態にありました。最近になってようやく政権が安定し、落ち着きを取り戻してきたようです。国民が信仰する宗教は、カトリック、プロテスタント、イスラム教、伝統宗教がそれぞれ4分の1ほどです。農業など第一次産業が主要産業で、資源はダイヤモンド、金、ウランなどを産出していますが、政情不安などの影響で、経済的には厳しい状態が続いています。

2005年に公衆衛生上の問題としてのハンセン病の制圧(有病率が人口1万人あたり1人未満)を全国レベルでは達成していますが、州レベルでは16州のうち4つの州で制圧をまだ達成できていません。年間の新規患者数は2010年で235人、人口1万人あたりの有病率は0.52という状況です。政情不安の影響や保健行政上のプライオリティの低下から、患者数がやや増加傾向にあるという報告が届いていたので、中央アフリカ政府のハンセン病対策に対するコミットメントを強化する必要があると判断し、今回の訪問となりました。

7月17日の午後、首都バンギの空港に降り立ちました。飛行機を降りると、強い日差しと強烈な暑さが襲い、アフリカの中心地に来たことを実感させられました。空港では、マンダバ保健大臣と2人の女性閣僚であるゼゼ社会問題大臣とナン教育大臣、それにWHO(世界保健機関)代表のマイガ博士ら大勢の方が出迎えてくださり、地元の人々による歓迎のダンスもありました。驚いたのは、ハンセン病の患者、回復者の方々まで空港で待ってくれていたことです。私も長い間各国を訪問していますが、そういったことは初めてのことです。空港では早速メディアのインタビューがあり、中央アフリカでハンセン病は公衆衛生上の制圧は達成したものの、病気の根絶と差別の撤廃に向けて取り組みをさらに強化する必要があるので、そのために今回訪問したと説明しました。また、国民に対して、ハンセン病は治る病気で、薬は無料であること、差別は間違いであることなど、ハンセン病について正しく理解してほしいと訴えました。

その日の夕方、WHOのオフィスを訪問し、マイガ代表や担当官からハンセン病の状況に関するブリーフィングを受けました。中央アフリカではILEP(世界救らい団体連合)のメンバーでスイスに本部があるFAIRMED(前ALES)の協力を受けて、ハンセン病対策を行っています。現在は、首都バンギに近い南西部オンベラ・ムポコ州とロバイェ州、それに北東部のバカガ州とオート・コット州の4州が、人口1万人あたりの患者数が1人以上と制圧が達成されていない地域で、この4州をターゲットにし制圧活動を進めていきたいとの報告がありました。私からは、この国でハンセン病の患者数をゼロにしていく環境は整ってきているので、保健省と仕事がやりやすくなるように私の訪問を活用していただきたいとお話しました。

翌18日、保健省を訪問し、マンダバ保健大臣と会談しました。私からは、HIV/エイズやマラリア、結核など数多くの病気があるなか、患者数が少ないハンセン病対策に尽力していただいていることに感謝の意を述べ、今後もWHOと保健省で協力しさらなる患者数の減少に向け取り組んでいただきたいと要請しました。保健大臣からも、WHOと一緒になって未制圧の4州でハンセン病を制圧し、根絶に向けて取り組んでいきたいと積極的は発言をいただきました。保健大臣は41歳と若く、まじめでしっかりと仕事をしてくださる印象を受けました。

保健大臣との面談後、車で2時間かけて西に移動し、ロバイェ州の森林奥地にあるカカ村を訪問しました。ロバイェ州は人口28万人中登録患者数が52人で、1万人当たりの患者数が1.84と未制圧州の一つです。その地域周辺にはピグミーと呼ばれる、体が小さく森を移動して生活している人々も住んでおり、ハンセン病の罹患率も高いそうです。村に着くと、お年寄りの方から小さな子どもまでが一緒になって賑やかなダンスと歌で歓迎してくれました。ハンセン病の患者・回復者は50人ほどいらっしゃり、一人ひとりと握手し挨拶を交わしましたが、多くの人に障害があり、患部のケアもあまりされていない様子でした。見た目からも苦しい生活が容易に想像され、胸が痛くなりました。



この村ではベルギーから来たシスターが1年前から診療活動を行ってくれています。1985年から中央アフリカで医療活動を行っていましたが、この村に初めて来たとき、その現実を見て非常に大きな衝撃を受け、村での活動を始めたそうです。患者さんの代表からもお話があり、ハンセン病にかかったと知ったときの悲しみや、指、足と症状が進んでいくにつれ深まる苦しみを吐露されました。また靴を支援してほしいとの訴えがありました。この地域では多くの方が患部をむき出しにしたまま裸足で生活しているのです。一緒に来てくださった保健大臣からも話があり、私がハンセン病患者たちと触れ合う姿をみて、自分たちも自国でハンセン病に苦しむ人々のために何かをしなければならないと思ったと語られました。私からは、ハンセン病は神様からの罰でもないし、伝染性の強い病気でもない、薬は無料なので、早い段階で薬を飲むことが障害を残さないために大切だとお話しました。最後には、村人たちのダンスの輪の中に、私だけでなく、地元の市長や保健大臣までが入り、一緒になって踊りました。健康な人も病気の人もみな兄弟姉妹であり、分け隔てなく共に生きていくべきだというメッセージが少しでも伝わったのではないかと思います。

翌19日は、政府要人との面談が多い1日となりました。まず朝一番にトアデラ首相を表敬訪問しました。ハンセン病患者を減らすためのプログラムの推進と、国民へのハンセン病に関する正しい知識の普及をお願いし、首相からとても前向きな発言をいただきました。考えられているハンセン病強化プログラムの中には障害のある回復者の住環境の整備や、子供たちの就学支援など、生活環境の改善についても考慮すると述べて下さいました。また、日本財団がアフリカの農業に携わっていることにも触れられ、中央アフリカ国民の80%が農業に従事しており、貧困脱却のためには大規模な農業開発プログラムが必要という話をされました。私も首相の考えと全く同じであり、これまで25年間実施してきた「笹川グローバル2000」という食糧増産プロジェクトの経験を踏まえた国際会議を11月にマリで開催することを紹介し、担当者の派遣を提案しました。

その後、ガオンバレ国会議長、そして、到着日に空港に来てくださったゼゼ社会問題大臣とも会談しました。議長からはハンセン病の患者・回復者を差別しないようにする法律を議会で通すことや、ハンセン病関連の予算引き上げも検討できるというお話をいただきました。障害者や高齢者、差別の問題などを横断的に幅広く扱われている社会問題省のゼゼ大臣は、国民がハンセン病に関する正しい知識を持って差別を行わないよう、情報提供活動を実施していくと述べられました。

翌20日はまず教育省を訪問し、高等教育・研究担当のサコ国務大臣、サール職業・技術教育大臣、ナン初等・中等教育大臣の3名の大臣とお会いしました。初等・中等教育大臣からは、ハンセン病に関する正しい知識をエイズやマラリアなど他の公衆衛生の問題も含めて子供たちに教えていくという話がありました。職業・技術教育大臣は、技術教育高等学校が国に1つしかないことや、特に女子への技術教育の不足を心配されていました。国務大臣からは、国内唯一の総合大学の入学者数が、30年前の設立当初は700人だったのが、来学期には約2万人になるという報告を受けました。また、農業大学で農業技術を教えており、国の発展に貢献していると語られました。大臣たちのお話を伺い、予算が足りないなかでの国づくりの苦悩をひしひしと感じました。私からは、教育全般のあり方について必ずしも外国を参考にせず、自身の考えを進めていくとよいということ、そして、「1年穀物を植える、10年木を植える、100年人を育てる」というように、人材育成は20年、30年のスパンで計画を立て、毎年着実に進めていかなければならないと述べました。特に、首相との会談でもあったように、食料増産による農民の貧困解決と農業教育の重要性についてお話しました。

また、国連代表部も訪問し、人権問題を専門とされるヴォグト代表とも意見交換を行いました。数年来ジュネーブの国連人権理事会に働きかけた結果、昨年、人権理事会および国連総会でハンセン病患者、回復者および家族に対する差別撤廃の決議が192カ国全会一致で採択されたことを報告しました。もちろん、決議が得られたからこの問題が解決するわけではなく、私自身が決議を活用して各国の国家指導者やメディアに訴えかけ、法律や人々の慣習を変えていかなければなりません。ヴォグト代表は、中央アフリカにおける魔術の考えと人権問題について触れ、ハンセン病患者や障害者、病気の女性などが魔術にかけられたと思われ、人々から非難され、殺されてしまうと嘆かれ、そういった問題をなくしていかなければならないと話されました。また、私が実際に患者と触れ合っている姿がメディアで報道されることが、差別をなくしていくうえで大きな効果があると述べて下さいました。

この日は、首都バンギから24キロ離れたダマラという地区にあるデレバマ保健所も訪問しました。中央アフリカ国内に5ヶ所あったハンセン病療養所のうちの1つで、2000年に一般診療と統合されました。現在8人のハンセン病患者が自宅から通っているそうです。しかし、実際に中の様子を見てみると、MDTが1つもなくは、カルテの記録も途中で途切れている状態でした。MDTは注文中で、スタッフは最近あった内戦で逃げてしまったという報告も受けましたが、それにしても、私が各国の保健所を訪問した中でMDTがなかったことは初めてのことです。この国でいかにハンセン病対策が滞っているかを垣間見た気がします。

その日の午後には4日間の中央アフリカ滞在を総括する記者会見が行われました。その間、空港到着から要人訪問、そして地方視察にいたるまで多くのメディアが同行し、熱心に取材をしてくれました。私は常々、ハンセン病の問題を解決するにはメディアの協力なくしてあり得ないと考えています。それは、患者が病気を恥ずかしいと思い隠してしまうので早期発見が難しいこと、また、病気が治っても社会からの差別が消えないため社会復帰が難しいことが、医療、社会の両側面における課題であり、そういった人々の意識を変えるにはメディアの力が大きいからです。記者会見の質疑応答でもそのことを述べ、改めてメディアの協力を訴えました。

中央アフリカでの最後の夜は、大統領府で政府主催の晩餐会が行われ招待を受けました。大統領はご欠席でしたが、トアデラ首相はじめほぼ全ての閣僚と国際機関代表らが出席されました。そして、中央アフリカ政府から私に、ハンセン病への取り組みを評価する勲章を授与していただきました。首相からメダルをかけていただき、ハンセン病との闘いを情熱と忍耐をもって継続していかなければならないという気持ちを改めて強くしました。この勲章は、闘いを共にしてきたWHOや保健省、NGOの皆さん、そして何よりもハンセン病回復者の皆さんの努力によるものであり、全ての関係者の方々に贈られたものであると思っています。



今回の中央アフリカ訪問では、病気と貧困に苦しむ患者の姿や、保健所にMDTがなかったことに象徴されるように、必要な医療サービスが必要なところまで行き届いていない現状を痛感しました。一方で、多くの国家指導者とお会いし、ハンセン病対策の強化について積極的な発言をいただきました。私の訪問がきっかけとなり、WHOと保健省がしっかりと協力し合い、患者数の多い4州での制圧と、さらには患者数ゼロに向けた取り組みが力強く推進されること、そしてハンセン病患者、回復者の方々への差別がなくなることを強く願います。そして、私自身もそのための闘いを生涯かけて継続していく決意を新たにしました。

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