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社会にあふれる「小さなノーサンキュー」とどう付き合うか 御田寺圭×赤木智弘『矛盾社会序説』対談

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与えられた「自由」こそが社会を縛っているのか——

社会の矛盾を鋭く突いたデビュー作『矛盾社会序説 その「自由」が世界を縛る 』(イースト・プレス)が好評の御田寺圭氏を迎え、BLOGOS執筆陣であり、ロスジェネの貧困問題に詳しいライターの赤木智弘氏の特別対談をおこなった。

対談のテーマは、ネットで話題になった「かわいそうランキング」から、ロスジェネ世代が抱える問題、ベーシックインカムまで多岐にわたった。年の瀬、貧困問題に注目が集まるなか、長きにわたり社会の矛盾を見続けてきた二人の対談を、たっぷりとお届けする。

弱者支援を歪ませる「かわいそうランキング」

赤木智弘(以下、赤木):今日はまず、「かわいそうランキング」から話を始めたいと思っています。

貧困について報じられるとき、必ずといっていいほど生活保護を受けている家庭を取材しますよね。その際「この人はこんなにかわいそうなので生活保護が必要だ」という話をするわけです。その時、かならず人や生活を映したがゆえのマイナスの面が生まれる。

「白い卵より10円くらい高い、赤い卵を食べてるぞ」とか。そんなどうでもいいことで、「本当はこいつはかわいそうじゃない!」とバッシングされたりと、かわいそうかそうでないかということが、さも格差問題の本質であるかのように論じられてしまう。これって本当にバカげてますよね。

そうやって、「かわいそうか否か」という感情によって生まれる序列を御田寺さんは「かわいそうランキング」という言葉で、うまく説明してくれた。

BLOGOS編集部

御田寺圭(以下、御田寺):人間がかわいそうだな、情けをかけてあげたいなと、感情に基づいて選択しようすればするほど、結果的に救われない人が出てきます。たとえば生活困窮者が公的支援の窓口に行くと、いわゆる「水際作戦」みたいな感じで「まだ働けるから」「若いから」とあれこれ理由をつけて追い返されたりするんですけど、そういうことはやめて、この人はどういった社会的ディスアドバンテージを持っているかをポイント制にしていけばよいと考えています。

仕事がないから5点、なにか病気があるから5点、合計何十点だから支給額は○○円ですと、情を介さず機械的に決まっていくようシステムの方が、人情で救済が決められるシステムよりマシだろうなと。

赤木:僕も『「丸山眞男」をひっぱたきたい—31歳、フリーター。希望は、戦争。』を書いたあとに色々取材されましたが、やはり貧困代表として見られるわけですよ。僕個人の考えを聞いたり、生活を聞いたりと。でも、当時から「俺なんか映さないでくれ」と思っていました。

個人を映すのではなくて、格差が生まれてしまう社会のシステム自体を問題にしなくてはいけないのに、貧しい人がいるということを中心に問題を考えてしまう。このことによって、いかにそうした人たちがかわいそうで悲惨な生活を送っているかという観点からしか貧困問題を見られない人がたくさん生まれた。それがシステムや制度にも影響してしまっていると。そういうのはずっと不満に思っているところです。

だからなるべく、そうした個人的な部分はどんどん排除してシステマティックに支援をするというのが本来の弱者保護の有り様じゃないかというのはずっと思っていたんですね。

「小さなノーサンキュー」が積もり積もって巨大な闇に

御田寺:貧困の問題をマクロでとらえるのではなく、ミクロで考えようとして、個人の暮らしを映したりすると「でも、この人って自業自得じゃないの?」という空気も出てしまいますよね。それこそが人間の情なわけですが。でもそれをベースにしてしまうと、子供だったらより将来性があるとか、苦学生とかだったら今後伸びしろがあるとか、そういうところが価値の重点になってしまう。要は生産性ですよね。

それって「無価値な人間はいる必要はない」という考え方と同じ延長線上にあると思いませんか。あの相模原障害者殺人事件を起こした植松聖がこの延長線のずっと向こうにいるとしたら、「かわいそうじゃなくね」とか「自業自得じゃね」って気持ちは同じ道の手前側にあるのではないかなというのは思ってしまいます。

僕らは付き合う人も自由に選んで、仕事も住む場所も自由に選ぶ。自由になにかを選ぶことは、同時になにかを選ばないことと同時発生的です。選ばなかった機会、選ばなかった人、選ばなかったものごとも当然ある。みんなの悪気ない「小さなノーサンキュー」が積もり積もって巨大な闇みたいになっていく。

赤木:ロスジェネもそうですよね。単に企業が当たり前の権限として、たまたまロスジェネ世代が社会に出たときにに、景気が悪かったから雇わなかったというだけの話なんです。それをたくさんの企業がやって、しかもちょうど団塊ジュニア世代という人口ボリュームの大きい世代だったということで被害が拡大したわけですよね。別に誰も悪いことをしたわけではない。ごく自然な選択の結果、社会が断絶してしまったわけで。

結局、誰かが他者を選ぶ以上はどうしてもそうなることがあり得るというのを大前提として考えなきゃいけないんです。必ず努力すれば選ばれるとか、選ばれなかった人は自己責任とか、そういうことでは全くないんだと。各自が最良と考えて個別に選択した結果、全体として失敗することが山ほどあるんだということを前提として考えないと、貧困問題の最初の部分にたどり着けない。

さっき、うどん屋で食事してたら粗暴なおっちゃんがいて、何か知らないけど怒鳴っているわけですよ。このおっちゃんが仮に生活保護を受けていたとしたら、僕だったらすごいイヤなんですよ。でも、そういうイヤなおっちゃんでも制度としては支援がいくよということにしないといけないわけですよね。それがやっぱり社会保障の基本だと思う。

御田寺:みんなが爪弾きにするようなタイプの人であろうが受けられるものにしないといけないし、マクロではみんな「そういうのは大事だね」と言うんです。でも、いざミクロに転換して自分の身近なところにそういうタイプの人がいらっしゃったら「あなたにはもっとふさわしい場所があるよ」みたいなことを言ってしまう。本でも挙げた、川崎の精神障害者のグループホーム建設に反対するケースもそうですよね。

結局……そばに来られるとイヤなんですよ。いま、外国人の待遇を改善しないといけないって話をしていますけど、いざ外国人がわーっと自分の街に来て騒ぎ出したら「こんなやつら来なきゃいいのに」って言うかもしれないし。でもそれが人間の素直な情だとも思います。

ロスジェネ世代は移民と競争することになる?

赤木:少し前に移民の問題で、移民の受け入れに比較的寛容なのは、今の若い人と年を取った人というデータが出ていました。一方、30代〜40代は批判的であると。でもそれは寛容な世代が多様性を認めているという話ではなく、労働者として外国人が入ってきた時に、競争になる人達とならない人達の違いだと思うんですよね。30代、40代ってその移民と労働賃金において戦わされる可能性が高いわけですよ。

御田寺:それはロスジェネ世代がってことですか?

赤木:そうですね。逆に言えば売り手市場で大学を卒業して正社員になることができた20代と、当たり前のように正社員である50代以上の人というのは移民が入ってきたら確実に上に立って、移民を使う側の立場なんですよね。使う側だから安心して彼らを受け入れられると。いざとなったら切っちゃえばいいってだけの話ですから。でも実際30代、40代だとそういうわけにもいかないと。間違いなく建築の現場とかに入ってくるでしょうから。そこで仕事の奪い合いになってしまう。

御田寺:もちろん排外主義的な考えはよしとされないじゃないですか。でも赤木さんがおっしゃるような背景で30~40代の人が反対的な立場をとっているのだとしたら、それはかつて彼らは若い頃に自分たちに向けられた視線を再現しているのにすぎないのかなとも思うんですね。

赤木:実際は、排外主義VS多様性じゃないんですよね。多様性は認めているけども、その中で区別をしている。

御田寺:僕自身もいわゆるリーマン・ショックの就職氷河期世代なので「歓迎されない人間」が社会でどのようなまなざしを向けられ、どのように扱われるかはわかっているつもりです。そういう経験をしたからか、かりに「みんなで仲良く社会をつくっていこう」みたいな話に協力したくない人が同世代に多かったとしても、全然不思議じゃないなとは思います。というのも「あのとき、みんなは自分のことを仲間だと思ってくれていた?」って考えてしまうんですよ。「みんな仲良くしようぜ」って言われても、「一番キツかった時期、俺はなにもしてもらえなかったし……」みたいな。

赤木:助け合いとか言われても、こっちばっかり助けてるじゃねえかみたいなのはすごくありますよね。必ずこっちが後回しじゃないかって。

BLOGOS編集部

我々が結局、かわいそうランキングにおいて何と戦っているかというと、外国の飢えてる子供とか、イルカとか犬とか猫とかと戦っているわけですね。お金を持っている人たちに対して、かわいそうと思ってもらえるようなアピール合戦をしている。

そのバカバカしさからどうして脱却できないのかというのは常に思っているんですよね。それは結局、「善意に基づく行為」が一番の悪疫であるという話にもつながるんですが。

御田寺:本でも書いたとおり、僕は人間の「情」とか「善意」というものに問題意識をもっています。たとえば支援者側に立ってみたら、檻で鳴いている犬を助けてあげたら「徳を積んだポイント」みたいなものがグッと上がる感じがするじゃないですか。貧しい国の子どもたちにワクチンや食事を配るのでも同じです。でも、ホームレスのおっちゃんに牛丼を配っても「よいことしたね」って思ってくれる人はそんなにいない。それどころか、自分自身でも前者になにか与えることより充実感を得られないかもしれない。

赤木:ホームレスに施しをするなという人も出てくるでしょうね。

御田寺:そういう誰しもが持っている「人を慈しむ心」が、意図せず人を遠ざけたり排除したり、寒空の下で放置したりすることにつながっている部分があるのではと思っています。それが行き着くところまで行ってしまえば、生産性という言葉で人を測ったりしてしまうのかなと思うと――ああもう、いっそ隕石でも落ちないかなという気分になってきちゃうんですよね。

善意による偏りは、東日本大震災時にも起きていた

赤木:問題は善意による偏りなんですよね。東日本大震災が起きた後に、いわゆる貧困系のNGOとかやっている人はすごく困ったんです。寄附が全部震災の方にいっちゃって、こっちの寄附が減っちゃったと。あの時はみんな困ってましたね。

単純な善意なら、どこで使われているかは知らないけれど、誰かの役に立てばいいから1万円寄付しますというのが1番いい。でも、あそこの地震に対して1万円を寄附しますという行為を選んでしまう。寄附は本来は必要なところに必要なだけ送られるべきなのに、寄付する側の心象としては自分が善意を示したいということのためにおこなうので、そこでズレが生じるわけですよね。そして人気のある寄附先と人気のない寄付先が生まれる。寄付が必要なのはどちらも変わらないのに。

だから僕は再分配ということであれば、やはり税金が1番いいと思います。意図せずとも取られて、意図せずとも配られるというのが最大の理想なんですね。

御田寺:税金でいうと、僕はポリシーとしてふるさと納税を利用しないことにしているんです。その理由はうまくいえないのですが、どこに・何に使われてほしいか自分で決める税金って、すこし怖いなと。それって言い方を変えると、あるセクションには自分の税金を「使わないで欲しい」という現れでもあるので。

赤木:例えば、渋谷区とかは区のレベルで同性婚を認めているじゃないですか。そうした政策を支持するために、ふるさと納税で支援しようとする人がいるかも知れない。

しかしそれは、ある自治体が「うちは市町村のレベルで同性婚は認めないよ。むしろ同性愛者はうちから出ていけ」という政策をやった時、そういう政策を支持する人からふるさと納税という形でお金が集まる可能性でもあるんですよね。

今のところ、大半は商品券目当てとかでやっているイメージではあるんだけれども、そこから金銭目的の部分が外れて、本当にその自治体を支援する気持ちが純粋に出てくると、嫌だなと思いますね。

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