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米のオピオイド危機は対岸の火事なのか

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 アメリカでは近年希に見る重大な危機が現在進行中だ。オピオイド危機と呼ばれる麻薬問題だ。

 今日、アメリカではオピオイド中毒で毎日115人、年間では5万人もの人々が亡くなっている。死者の数は過去20年で700万人にも及ぶ。最近で言えば、ミュージシャンのプリンスやトム・ペティもオピオイドの過剰摂取が原因で死亡している。3年前にトヨタ自動車の役員を務めるアメリカ人女性が麻薬取締法違反で逮捕されるという事件があったが、彼女が個人輸入しようとしたのもオピオイドだった。

 上記の死者に加え、既に依存症に罹っている患者が少なくとも200万人を越えると見られている。依存性が強いこの薬から独力で抜け出すことはほぼ不可能なことから、オピオイド危機のピークはまだまだまだこれからだとする見方が有力だ。

 今回のオピオイド危機はさまざまな理由から、特にアメリカの白人男性の間で広く蔓延しているという特徴がある。その結果、薬物中毒死は今や自殺や交通事故を抜いて、アメリカ人白人男性の死因のトップに躍り出ている。そのせいもあって、世界中の先進国の平均寿命が軒並み右肩上がりの伸びを見せる中、アメリカの白人男性の平均寿命だけが唯一低落傾向にあるほどだ。

 危機の発端は1996年にパデュー・ファーマという名のコネチカット州の製薬会社が認可を受け販売を開始したオキシコンチンという名の鎮痛薬だった。この薬はモルヒネやヘロインと同様に、人体のオピオイド受容体と結合して体内に取り込まれ、鎮痛作用を発揮する「オピオイド」の一種だが、モルヒネなど既存の鎮痛薬よりも強い効果がある上、その効果が長時間持続するという特徴を持っていた。オキシコンチンは、がんをはじめ様々な痛みを抱える患者が、夜中に傷みで目を覚ますことなく朝までぐっすり眠れるという触れ込みで大々的に売り出され、瞬く間に最も多く処方される鎮痛薬として、全米に広がっていった。

 ところが、オキシコンチンは錠剤表面の特殊なコーティングによって、持続的に有効成分が放出される「徐放性」に特徴があるが、効果が長時間持続するということは、それだけ多くの鎮痛成分、つまり「オピオイド」が含まれていることを意味する。結果的に、医師から処方された容量以上に服用したり、ひいては錠剤を砕いて取り出した麻薬部分を粉末状にして鼻から吸ってみたり、水に溶かして静脈に注射したりすることで、強力な陶酔感を得られることが知られるようになり、麻薬として愛用されるようになっていった。

 アメリカでは過去に何度か麻薬が社会的な問題になったことがある。南北戦争の後、当時何の規制もなかったモルヒネが一般社会に蔓延し、多くの中毒患者を出したことがあった。また、60年~70年代にはベトナム帰還兵を中心に、再びモルヒネ中毒が急増し、ニクソン大統領が「麻薬との戦争」宣言をしたこともあった。また、80年代~90年代にも、クラックと呼ばれるコカインの結晶の蔓延が、大きな社会問題になった。

 しかし、過去にどんなにひどい麻薬問題が起きても、麻薬に起因する年間の死者数が5,000人を超えることはなかった。それが今回は既に5万人を越える死者が出ているというのだ。これを危機と呼ばずに何と呼ぼう。

 トランプ政権は2017年11月26日、オピオイド危機に対する「非常事態宣言」を発し、処方箋を乱発した医師や、違法な取引に関わったディーラーに対する処罰を厳しくするなど、いろいろな手を尽くしてはきている。しかし、必ずしも効果はあがっていないし、死者の増加ペースも一向に衰えを見せないばかりか、むしろ加速している。

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