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「出産から子育てまで女性が担うべき」という古い価値観の根強さが少子化対策を遅らせた最大の原因 - 「賢人論。」第78回三浦瑠麗氏(中編)

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三浦瑠麗さんはその著書『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)で、発足から9年と長期にわたる第二期安倍政権をさまざまな角度から採点。国際的な日本の存在感を高め、長期安定政権を築いた老練さを評価しつつ、経済的な構造改革のほとんどが先送りにされ、おざなりになっていると指摘している。中長期的には最大の課題であるにもかかわらず、成果があがっていない「少子高齢化」問題には改善策があるのだろうか。

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

出生率を改善するためには「良妻賢母」の価値観を捨てなければならない

みんなの介護 三浦さんは「日本の最大の成長戦略は女性の労働力活用と少子化対策」だと主張されていますが、めぼしい成果があがっていないのが現状です。なぜだと思いますか?

三浦 国が行っている少子化対策について言えば、この問題の政治的な優先度が低かったことが挙げられます。少子化対策の担当大臣のポストは2007年に創設されましたが、以降の11年間で20人の大臣がころころと入れ替わってきました。

その結果、「弱い立場」にいるとされている女性を保護する政策と、女性の社会進出をうながす政策とがバラバラに行われ、総合的な効果を生み出さなかったことが大きいですね。

何よりも本質的な問題は、「女性は家庭に入って出産と子育てを一手に担うべき」という価値観が根強く残っていることだと思います。

みんなの介護 「専業主婦」と「働く女性」との間での勝ち組・負け組論争があったりして、女性の間でも意見がまとまっていない印象があります。

三浦 文明史的な視点で考えてみれば、「働く女性」は決して特殊な存在ではありません。伝統的な農村共同体において、子育ては地域全体が取り組むものであり、女性は重要な労働力でした。子どもは、社会が育てることが当たり前だったのです。

その後、高度経済成長期に「サラリーマン」が一気に増大し、国は人口増による労働力の向上を目指して「専業主婦」を奨励、優遇する政策を実施してきました。

みんなの介護 つまり高度経済成長期に現れた「専業主婦」がむしろ、特殊な存在というわけですね?

三浦 ええ、そうです。これからの人口減社会の成長戦略を描くにあたって、その特殊な時代の制度を維持するのは無理があると言わざるを得ませんよね。

出生率の低下は、世界の先進国に共通して見られる現象です。そのなかで、出生率を2.0前後で維持している北欧諸国やフランスなどの国に対して、危機的な状況にあるのが日本と韓国、そしてドイツやイタリアなどの国です。

この2つの国家群は、国が保育や幼児教育にかかるコストを「国家化」して、女性の社会進出をうながす取り組みがあるかないかで分かれます。良妻賢母の価値観を捨てきれず、その流れに乗り遅れた国が出生率の低下に苦しみ、国力を減退させているのです。

国の補助で運営される保育園は質があがらない。欧米流ナニーなどの参入で競争させるべき

みんなの介護 三浦さんは2010年に発表した『長期的視野に立った成長戦略―ワーキングマザー倍増計画』という論文で、第26回高橋亀吉記念賞の佳作を受賞しました。ここには、日本が少子化問題を解決するいくつかの施策が書かれていますが、具体的にどんなことを提言したのでしょう?

三浦 簡単に言うと、子どもの子育てや教育にかかる費用を国が保証して、ワーキングマザーが子どもを産み育てやすくする環境を整備することです。

当時の政権与党は、民主党の菅直人首相による第一次改造内閣の時代で、その少子化対策の柱は「子ども手当(0歳から15歳までの子どもを持つ親に月額1万3,000円を支給する手当)」でしたが、そのほとんどが貯金か、生活費や赤字補てんにまわされている状況でした。

そこで、子ども手当を、現金ではなくてバウチャー(引換券)として配布し、親が保育や教育サービスを自由に選べるようにすることを提案しました。

国の補助金によって運営されている認可の保育園は、公定価格でサービスを提供していますので、競争にもさらされず、高コスト体質でサービスの質もあがりません。ですから、保育ママや欧米流のナニー(乳母)など、あらゆる形態の自由参入を認めて適切な競争を生むことが大前提です。

みんなの介護 ナニーというのは、まだ日本で耳馴染みの薄い言葉ですね。説明していただけますか?

三浦 日本で有名なのは、ディズニー映画にもなった『メアリー・ポピンズ』ですね。

子どもを預かって身のまわりの世話をする保育ママやベビーシッターと違って、ナニーはしつけや勉強、情操教育など乳幼児教育の専門家としてケアをする子育てのプロ。メアリー・ポピンズのように住み込みで働く人もいますが、ナニーの派遣会社が利用者の都合に合わせ、時間を区切ってナニーを派遣してくれる形態が一般的です。

私は何でも政府にまかせれば良いという考えには疑問を持っていて、こうした民間の事業者が参入することによって市場原理を働かせることも重要だと思っています。一方で既得権益を守るための参入規制は必要です。

みんなの介護 なるほど。ところで現在、第二期安倍政権は「すべての女性が輝く社会」や「一億総活躍社会」というスローガンを掲げて女性の社会進出をうながしています。三浦さんは、どう評価していますか?

三浦 実は管政権の時代から、私はこの問題を「女性の問題」としてとらえるのではなく、「経済の問題」としてとらえるべきだと主張してきました。

正攻法では「またフェミニストが不満を訴えている」と解釈されて、この問題が真面目に取りあげられないからです。

安倍首相に関しては、女性の育児休暇を長期化した際、「3年間抱っこし放題です」と発言したときは絶望的な気持ちになりましたが、今回はまさに女性の社会進出を「経済の問題」、あるいは「国家の問題」として取り組んでいることを評価できる。

保守政権にとって、生産年齢人口を補うために女性の労働力が必要であるというロジックが受け入れやすいものだったことと、生産年齢人口の縮小に歯止めがかからない状況が後押ししたのだと思います。

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