記事

金融マンは市場というゲームを支配する小悪魔な美女に魅了されている

世の中のほとんどの人は貨幣と情報のグローバルなネットワーク(市場とインターネット)の下で生活している。ぼくたちは学校を卒業すると労働市場に出向いて、「労働」というサービスを企業に売り込み、もし運よくその企業に就職することが出来れば、時間を拘束される見返りに、賃金という形の報酬を受け取ることができる。そうして受け取ったお金を、食べ物や家賃といったあらゆるサービスと交換したり、あまった分を貯金したりしている。

人は好むと好まざるとに関わらず、マネーゲームや権力ゲームといった様々なゲームに参加している。マネーゲームには株式市場や債券市場といった様々な空間が用意されていて、命のつぎに大切なお金をチップとして楽しむものだ。そこには世界共通のルールがあって、それをむやみやたらと都合のいいように変えることは出来ないし、もしもルールを破れば罰則が与えられ、場合によっては塀の中に落とされてしまうことだってある。

一方、権力ゲームはある集団の一番になることが勝者の条件で、頭を使ったり、お金を使ったりとその方法は千差万別だ。そしてこのゲームの大きな特徴として、勝利者が好き勝手にルールを決めたり、変更したりすることができる。

お金はいつだってぼくたちの生活に深く関わってくるから、時々人を翻弄して、プライスレスとかいわれている愛や友情、はたまた命さえも奪っていく。でもそうした感情に支配されるのはいつも人間の方で、お金からすればいいい迷惑だ。例えば、あなたが彼女の誕生日に20万円の高級バックをプレゼントして、翌日彼女がバックを質屋に持っていき、15万円の現金と交換をしたとしても、そこにはお金の価値が高級バック(20万円)から15万円(現金)に減少したという事実があるだけで、何の感情もないし、ものすごくシンプルだ。だけどあなたが彼女を問い詰めて、彼女と別れるようなことがあったら、愛は消滅し、もっと言えば憎しみさえ生じることになるかもしれない。

べつに世界で一番のお金持ちになれなくても、そこそこ裕福な生活はしたいとみんなが思っている。だから残業時間を増やしてせっせと小銭を稼いだり、地を這うような低金利にも関わらず銀行に大事なお金を預けたりするのだ。まあ安全面を考えて預けている人が多いとは思うけれど。

人は人間の欲望を利用してビジネスを行なうことに長けているから、世の中にはそうした人間の欲望をかなえてくれるような市場が無数に存在する。もしあなたが金銭欲に支配されているなら、金融機関に足を運べばFPとかファンドマネージャーとかいうお金を増やしてくれる専門家がいて、「大丈夫!高配当をお約束しますよ!」と自信たっぷりに言ってくれるだろう。

世界的な金融危機、東日本大震災、欧州債務問題とここ数年の間に、天文学的な確率で立て続けに災難が起こったから、大企業でさえもバタバタと潰れて、金融資本主義の終わりなんてことまで言われている。大学生の内定率は史上最低の水準で推移しているし、頼みの綱の年金制度でさえも破綻の危機に陥っている。「いい大学をでて、いい会社に入って、上司に頭を叩かれても笑顔で馬車馬のように働いて、退職したら多額の退職金を貰い、年金で悠々自適な老後生活を送る」なんていう日本人のほとんどが夢見ていたユートピアのような人生設計は完全に過去のものになってしまった。

こうした市場の急激な変化を理由にして、企業はいつのまにか確定拠出年金制度に移行したり、残業廃止なんてことを言い出して、ぼくたちをマネーゲームの世界に誘おうとする。マネーゲームは決められたルールの中でいかに自分のお金を増やすかということを目的にしている。このゲームに勝つのは大変で、いくらファイナンシャル・リテラシーを積み上げても、そしてどれだけ経験を積んでも、絶対に儲かる必勝法なんてものを編み出すのは不可能で、仮に「絶対儲かる裏技テクニックがあるからそれを証明します」なんて高らかに宣言する人がいたら、それは詐欺師かちょっとアブナイ人だ。

市場にはわがままで、気まぐれな小悪魔美女が潜んでいる。素人の頬をやさしくなでて、一夜のうちに億万長者にしたり、投資のプロに耳元で息を吹きかけながら何事かを囁き、損切りを遅らせて破滅に追い込んだりする。

マネーゲームにもプログラムのバグや裏技がたまに存在する。「サブプライム・ローン」はその典型だ。そもそも住宅ローンとは住宅を担保に入れて金融機関からお金を借りることで、契約が成立すれば、ある人と金融機関との間には債権者と債務者という関係がなりたつ。金融機関は債権者として毎月の元本返済と利息というキャッシュフローを手にすることができる。住宅ローンの証券化とは住宅を抵当にしたローン債権(キャッシュフロー)を基にして証券を発行するということで、言い換えれば、住宅ローンの元利の支払いの流れを証券保有者に配分するのと交換に、その証券を購入してもらうという仕組みである。もちろんここにはルールがあって、裏技もこのルールの中に存在した。

そのルールとは住宅ローン返済者からの元利の支払いを当てにしてその証券を購入する投資家が、証券の「安全性」をきちんと評価することができなければならないというものだ。当初、こうした住宅ローンの証券化はプライムの住宅ローンについて開発されたものだったわけだけど、人間の欲望は留まることを知らないから、政治的空気にも押されて低所得者層向けの住宅、つまりはサブプライム・ローンの証券化という手法が誕生した。

問題だったのは安全性の評価という面で、プライムに比べて、サブプライムの歴史が浅かったことだ。一般的にRMBSとか呼ばれるような住宅ローン債権の安全性を判定するには、過去のデータを参考にして債務不履行率の推定値を計算する。サブプライムのデータを入手できるのが90年代半ば以降という短い期間しかなかった上に、この期間中アメリカの住宅価格が上昇傾向にあったから、ローンのデフォルトは減少傾向にあって、サブプライムの安全性は過大評価されたのだ。

さらにそれぞれのローンはデフォルトする可能性があっても、ローン同士の相関が低いから、プライムもサブプライムも何でもござれで、ひっちゃかめっちゃかに組み合わされた住宅ローン債権のプール全体のリスクは分散するという理論に基づいて、ムーディーズやS&Pなどの主要格付け機関はサブプラムを組み込んだRMBSにトリプルAという信用を付与した。

でもこうした一見華麗に着飾った金融商品のバクをいち早く見抜いて、裏技を発見した人たちは、究極の必殺技である「空売り」をしかけて、巨万の富を得ることに成功したのだ。ルールの中で、理論的に価格の歪を見つけ出して勝つか、ルールの歪を利用して勝つかがマネーゲームの醍醐味と言えるかもしれない。

権力ゲームはある集団の中で頂点に立つことや異なる集団の中で自分の属する集団を頂点にすることが勝者の条件だ。その中では駆け引きがあったり、敵を背中から刺すような策略も存在する。この権力ゲームは頂点の立ったものに対し巨大な権力を付与したり、流動性の激しい組織で戦いが激しくなる傾向がある。当然このゲームは投資銀行というフィールドでも常に行なわれている。

投資銀行では商品やら業務体系に基づいて多数の集団に分散されていて、集団ごとにボスが存在する。ボスには勝者の報酬として役が付与されるから、VPだのEDだのMDだのといったタイトルホルダーが幅をきかせている。でもMD以外のタイトルなんてあってないようなもので、そんなことは学生だって知っている。なんでこんなタイトルが存在するかといえば、顧客をいい気持ちにさせてあげるために過ぎない。顧客が「今日、例の投資銀行のVPに会ってきて、土下座させてきたぜ!」とか吹聴させたり、社長という肩書きを持った顧客に無礼のないようにするためだ。

マキャベリは「君主論」で権力ゲームで起こる権謀術数を体系化し、卑劣な手段を使ってでも、勝ち残ることが正義だとして「愛されるより恐れられるほうがはるかに安全である」と述べている。なぜなら人間は利己的で偽善的なものであり、従順であっても利益がなくなれば反逆するけど、ボスを恐れている人はそのようなことはしないからなんだそうだ。

ひとたび権力ゲームが決着すると、勝者を頂点とするヒエラルキーができあがる。でも一番難しいのはヒエラルキーを維持しつづけることだ。そのためには常に斬新なアイデアを創造したり、数字という目に見える形で結果を残したり、または確固たるルールを自分で作り上げたりするしかない。徳川幕府が権力ゲームに勝って260年間も権力を持続できた理由は、人々を恐れさせ、自分が絶対に勝てるようなルールを作り上げたからに他ならない。

でも投資銀行に代表されるように金融・投資企業ほど変化の激しい業界はない。ある時期に莫大な利益をもたらしていた商品があっという間に儲からなくなることは当たり前のように起こるし、それにともなう組織編制も日常茶飯事だ。

金融は言うなれば、マネーゲームと権力ゲームという2つのゲームに強制参加させられるわけだから、マネーゲームの中にあるクールでフラットな一面と、権力ゲームで繰り広げられる実に人間的な側面を併せもった組織だといえる。市場には、何かあるとすぐにヘソを曲げる小悪魔な美女がいるから、顔色を伺いながらマネーゲームでせっせとチップを稼ぎ、権力ゲームではルールを変革できるほどの力を奪取すべく頂点を目指して奔走しなければならない。

でもこれは何も人間だけの特権的なゲームではなくて、チンバンジー社会でも見ることができる。チンパンジー・ポリティクスでも仲間を騙したり、ボスの機嫌を損ねないようにプレゼントをしたり、反逆をすべく仲間に働きかけて集団でボスを襲ったりと権謀術数を繰り広げている。

結局金融マンはよほどのゲーム好きか、進化の根源であるサルに似ていて、そうだからこそ女性を深く愛し、性に対してストレートで、無邪気で純粋な人が多いのかもしれない。でもこの知的好奇心をかき立て、アドレナリンが噴出してくるほどの魅惑的な動物園を見学したければ、職業で選択するというリスクを取って、あなたも金融業界に飛び込んでみるしかないわけだけど。

参考文献

マネーの進化史

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす

政治をするサル―チンパンジーの権力と性

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。