- 2018年12月28日 09:34
大手メディアの著名ジャーナリストの「嘘ニュース」がドイツで発覚 世界各地で発生する「フェイク・ニュース」に対して私たちができること
1/2「フェイク・ニュース(偽ニュース)」という言葉がすっかり日常語として定着したこの頃だが、広く使われるようになったのは、2016年の米大統領選挙がきっかけだ。
「フェイク・ニュース」の定義は複数あるが、例えば「コリンズ英語辞典」の定義を訳してみると、「しばしば扇情的な、偽の情報で、ニュース報道であるかのようにして拡散されるもの」とある。
今年は世界でどのようなフェイク・ニュースがあったのかを振り返ってみたい。
独大手メディアの「優秀な」ジャーナリストがついた嘘

信頼に足ると思われたメディアで働く、「優秀な」ジャーナリストが自分の報道に嘘があったことを認めた例が、今月、ドイツのニュース週刊誌「シュピーゲル」で発生した。
同誌が19日、オンラインで発表したところによると、クラース・リロティウス記者(現在は辞任)が2011年以降に書いた署名記事約60本の中で14本にねつ造した可能性がある箇所が含まれていたという。
例えば、アメリカンフットボールのコリン・キャパニック選手の両親への電話インタビュー、米・メキシコの国境付近に拠点を追く、右翼の武装組織のメンバーへのインタビューは実際には行われていない、全くのフィクションだった。
また、リロティウス記者は米国内の死刑執行に立ち会うために全米を行脚する「ゲイル・グラディス」という女性を追った長文の記事を書いていたが、この女性は架空の人物だった。
リロティウス記者とともに米・メキシコの国境付近のルポ取材を行っていた、シュピーゲルの同僚の記者が、リロティウス氏が取材したという人物に実際には会っていなかったことに気づいたことがきっかけとなって、真実が明るみに出た。
シュピーゲルはその調査報道の深さや原稿の事実確認の詳細で知られている媒体だ。その「事実チェックチーム」には約70人が所属し、欧州内のメディアではこれほどの規模の専属検証チームを抱えるのは他にないといってよいだろう。
筆者は昨年、ハンブルクにあるシュピーゲルの本社を訪ね、事実チェックチームの作業について、話を聞いた。チェック用の原稿には赤や黄色の線が引かれ、厳しい確認の手が入っていた。

著名メディアの掲載記事に嘘があったことで、さっそく、「メディアこそがフェイク・ニュースだ」と攻撃を開始したのが、米政権だ。
駐独米大使リチャード・グレンネル氏はシュピーゲルの編集長にあてた書簡の中で、リロティウス氏記者のジャーナリズムは「主要メディアに見られる、反米の兆し」を反映している、と書いた。同氏はシュピーゲルの「反米報道」に驚いていた、という。
ドイツ国内では、これを機会に極右の政治勢力が「それ見たことか」と主張しだし、人々のメディアへの信頼を減じるのではないかという懸念が出ている。
元新聞社に所属していた身として、あえて弁明すれば、確かにリロティウス氏の言動は許されるものではないが、これをもって、主要メディア=フェイク・ニュースと呼ぶのはいかがかと思う。
しかし、同氏の事件がメディアに対する不信感を強めるだろうことは、確実だ。
信頼できるメディアの情報を見るだけでは不十分
フェイク・ニュースの危険性は、年を追うごとに強まっているように見える。その防御策として、「騙されないようにするには、信頼できるメディアが発信する情報を見ればいい」だけでは十分ではないと筆者は思っている。
(1)権力者が、自分が気に入らない情報を「フェイク・ニュース」として退ける例が出てきたため。
トランプ米大統領がアメリカの老舗メディア(ニューヨーク・タイムズやCNNなど)を「フェイク・ニュース」と呼んでいるのがその例だ。
フィリピンのドゥテルテ大統領やトルコのエルドアン大統領など、選挙は行われるものの実際には独裁政権ともいわれるような国のトップがトランプ大統領にならって、自分を批判するメディアを「フェイク・ニュース」と呼ぶようになった。「フェイク・ニュース」という言葉を、「敵」を叩きのめす武器として使っている。
強権を持つ政治家がメディアを「フェイク・ニュース」と呼んで、「だから、価値がないのだ」と否定すれば、メディアに対する不信感が高まるし、その政治家に対する批判が封じ込められてしまう。
つまるところ、「言論封鎖」になってしまう。
さらに、政治家たちは一歩踏み込む。彼らは、(2)真実を隠すために、あるいは誰かを攻撃するために故意に偽情報・虚報・デマ(ディスインフォメーション)を広めるようになった。
例えばジャーナリストについての根も葉もない噂を広めて、攻撃する。今年5月、エジプトの女性ジャーナリスト、アマル・ファシー氏は政府当局が十分なセクハラ対策を行っていないと批判したために、「フェイク・ニュースを拡散している」とされて、投獄された。
事態はさらに深刻化している。
(3)ソーシャルメディアの拡散力が急速に増し、偽情報を元にして暴動・殺人など現実生活に大きな被害をもたらす事件が珍しくなくなった。今年秋、英BBCがアフリカ、インド、世界の各国のフェイク・ニュース拡散の状況を調査した。その一部を見てみよう。