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「21世紀に絶対王政のようなやり方は許せない」ゴーン氏を再逮捕した日本の司法制度にフランス市民から“拍手” ルノー社員からは不安の声もー 西川彩奈

21日、ルノー本社前=パリ(西川彩奈撮影)

日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン容疑者(64)の一連の逮捕劇は、フランスでも波紋を広げている。今月21日の特別背任容疑による同氏の再逮捕を、仏メディアも一斉に報じた。

「カルロス・ゴーン、クリスマスを刑務所で過ごすことに」

週刊誌ル・ポワンは、「カルロス・ゴーン、クリスマスを刑務所で過ごすことに」と見出しを打ち、フランス人弁護士リオネル・バンサン氏のコメントを掲載。

「日本の刑事司法制度は、ビジネスによくない」
「外国人経営者たちは工程の残忍さに驚き、分からない規則を犯してしまうことを恐れている」

一方、経済紙レゼコーは「ゴーン氏釈放の希望、再び冷水を浴びた」と報じ、リベラシオンは日本の東京地検特捜部に関する疑問を日本人専門家への取材をするかたちで取り上げた。

夕刊紙ル・モンドは、「ゴーン事件劇、主役は誰だ?」と見出しを打ち、11月19日から今までのゴーン事件を総括し、王位争奪のための裏切りゲームが繰り広げられる「並々ならぬメロドラマ」と表現。日産の西川社長を「イエスマン」から「ブルータス」へと転身を遂げた、日産に忠実な人物と伝えた。

 

ルノーでは意見が二分化、仏市民は日本でのゴーン氏の「裁き」を望む声も

ゴーン氏の一連の逮捕報道や、長期間にわたる勾留をフランス市民はどう捉えているのか。ゴーン氏再逮捕が報じられた21日と翌日22日、筆者はパリとベルサイユでフランスの様々な市民の声を取材した。

21日の現地時間午後16時頃、まずパリにあるルノー本社に向かった。クリスマス休暇前のためか本社前には人影が少なく、質問をしてもほとんどの社員が足早に通り過ぎていった。

ゴーン氏が再逮捕された21日のルノー本社の様子(西川彩奈撮影)

ようやく口を開いたのは、エンジニアとして働くセバスチャン(34)だ。

「ゴーン会長は『雲の上の人』。僕たち社員の日常業務に今のところ影響はないし、社内で会長の話が話題に上がることも少ない」「一方で、社内での意見は二分している。自らの雇用を心配して、日産との提携維持を理由にゴーン会長の再逮捕を懸念する同僚もいれば、一連の容疑に憤りを示す社員もいる」

次に、ゴーン氏が“王のような”結婚披露パーティーを挙げたベルサイユの大トリアノン宮殿近くのカフェで声を聴いた。ウエイターのジュリアン(45)は、こうまくしたてた。

「21世紀に、『絶対王政』のようなやり方は許せない。私の兄は、工場で深夜勤務の仕事をして月末ギリギリの生活を送っている。一方で、ゴーン氏のようなエリートが宮殿で贅沢三昧をする“格差”を目の当たりにしている。もしゴーン氏の疑惑が本当なら、このまま日本できっちりと裁きを受けてほしい」

最後に、ゴーン事件が起きた同時期にフランス国内を騒然とさせ、富裕層への怒りがあらわになった「黄色ベスト運動」の参加者は、この事件をどう受けているのだろうか。そんな疑問をもとに、22日にパリで行われた黄色ベスト運動のデモ隊のクレア(40)に話を聞いた。

「ゴーン氏の逮捕に関しては、SNSで『喜びの声』が上がっている。ゴーン氏は窓のない数平方メートルの部屋にいると新聞で見た。階級に関係なく、すべての人を平等に裁く日本の司法制度に拍手を送りたい」

専門家「ゴーン氏は“そう簡単に降伏する男”ではない」

仏専門家はゴーンショックをどう分析するのだろうか。企業の戦略やコーポレート・ガバナンス(企業統治)に詳しく、EMLYON経営大学院(フランス)で教鞭を執るピエール・イヴ・ゴメズ教授が取材に応じてくれた。

EMLYON経営大学院で教授を務める傍ら、夕刊紙ル・モンドなどに寄稿をするピエール・イヴ・ゴメズ教授(©Pierre-Yves Gomez)

――日産とルノーのガバナンスの違いは何か

ゴーン氏はカリスマ経営者として、日産、ルノー、3社連合(ルノー・日産・三菱)の統括会社「ルノー日産BV」などのガバナンスを主導してきた。

まず、日産とルノーの提携関係を考察してみる。

ルノーにおいては、仏政府と日産がほぼ同じ15%の株式を持っている。一方、ルノーは日産の43.7%の株を保有している。 また、この2社は取締役会の構成においても異なるため、考え方に相違が生じている。現在のルノーの取締役会はゴーン氏を含む、19人で構成されている。

そのうち10人は外部から、4人は社員から選ばれた人たち、2人は仏政府から、あとの2人は日産からだ。一方、日産の取締役会は、3分の2がルノーもしくは日産からの人物で構成されている。

ルノーは幅広い立場の人物が含まれているのに比べ、日産の取締役会は内部からの人物で大半を占めている。

――今後、3社連合内でのガバナンスはどうなるか

今回の逮捕騒動の裏には、明らかに3社連合の司令塔であるゴーン氏の「後継ぎ」問題がある。ゴーン氏は64歳、西川社長(65)とほぼ同じ年齢だが、ルノーCEO代理のティエリー・ボロレ氏(55)は10歳若い。ゴーン氏を追いやることで、後継の話し合いが進むとされる。

また、ゴーン氏が不在の今、良くも悪くも3社連合はガバナンスの再考を迫られている。現在、ルノーと日産の間では、日産にもっと権限を与えて、アライアンス内のバランス調整をするための話し合いが行われている。そのためには、日本人が3社連合のトップに就くか、日本人の取締役員を追加するかだ。

だが、これらの動きに日産の43.7%の株を保有するルノーは難色を示すだろう。

――ルノーで次期会長の後継はどうなるのか

今回の一連の事件や東京地検特捜部による起訴はゴーン氏の立場を弱め、ルノーにおいても以前のような権力を取り戻すことは難しくなる。そのため、フランスでも後任人事の検討はすでに進んでいる。

フランスで尊敬されている経営者、タイヤ大手ミシュランの最高経営責任者(CEO)ジャンドミニク・セナール氏が有力候補だが、まだ交渉中のようだ。

次期会長に就く人物は、3社連合の新しいガバナンスのもとで、日産と慎重でスマートな交渉ができる人物であることが望ましい。そのため、現在のルノーの幹部に関与しすぎていない人物であるべきだ。しかし、かじ取り役だったゴーン氏が不在のため、話し合いはしばらく続くだろう。

――日産の次期会長後継の行方をどう見るか

現在進行中のルノーと日産の会議の進行状況による。ただ、日産の西川社長を次期会長にすることを、フランス側は認めないだろう。

予想外のシナリオが起きる可能性だってある。ゴーン氏は“そう簡単に降伏する男”ではないからだ。

「日産が陰謀を仕掛けたことは明らか」

一方、パリ政治学院国際研究センター研究所長で、日本政治社会学者のジャン=マリ・ブイスー教授は以下のように語る。

――今回の事件をどう見るか

今日、日本では経済改革において「外国人専門家」に頼る必要はないという風潮がある。明治時代に日本が充分近代化に成功したと判断された時も、当時の外国人専門家は日本を出た。

また、日産が陰謀を仕掛けたことは明らかだと思う。日産はルノーよりも売上高も利益も大きかったに関わらず、3社連合ではルノーが日産より優位な立場だった。また、日産・ルノー経営統合への危機感もあった。

最後に、ゴーン氏自身の性格が、側近の幹部たちの敵意を刺激したのも明らかだ。カルロス・ゴーン氏の自我の強さ、無情で権威主義といった性格は、人間関係において日本の社会に不適合だったのだろう。

――日産社長、西川廣人氏についてどう見るか

西川氏はゴーン氏の提案で社長になったとも言われ、最もゴーン氏から恩恵を受けた。ゴーン氏の失墜を誰よりも恐れていた人物かもしれない。一方、3社連合の不均等さとゴーン氏の振る舞いにより今回の失墜が防げないと気付いた瞬間、自らを守る方法はゴーン氏を倒す側になることだと思ったのではないのだろうか。

西川彩奈(にしかわ・あやな)
1988年、大阪生まれ。2014年よりパリを拠点に、欧州社会やインタビュー記事の執筆活動に携わる。ドバイ、ローマに在住したことがあり、中東、欧州の各都市を旅して現地社会への知見を深めている。現在は、パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、欧州の難民問題に関する取材プロジェクトも行っている。

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