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湯浅氏の内閣府参与辞任の挨拶文を読んで

湯浅氏の内閣府参与辞任の挨拶を読んでみて、色々と考えさせられてしまった。
長文だが、一読の価値はある。

文中、何度も何度も「日本型雇用、日本型福祉社会」という言葉が繰り返されるが、彼の問題意識は、以下の部分に集約されている。
すでに数多くの指摘がなされていますが、私も現在の状況を、大きくは、高度経済成長期以降の「日本型雇用、日本型福祉社会の崩壊過程」と捉えています。具体的には、現役世代は家族と企業で支え、引退世代は社会保障で支える、というモデルです。そこでは、国が企業に補助金を与えたり、企業の福利厚生を非課税扱いにするなどして企業活動を助け、企業が男性正社員に一家全員分の生活費を渡し、男性正社員が稼いだ生活給で妻子(場合によっては高齢者も)を養う(その代わり、子育て・教育・住宅にかかる費用は私費負担割合が高い)というのが、「ふつう」のあり方とされてきました。
だが、この「日本型雇用、日本型福祉社会の傘」の下に入れない人達がいる。
母子家庭や日雇い労働といった非正規雇用労働者、ホームレス達だ。
この人たちは、一言でいうと「日本型雇用、日本型福祉社会モデル」で対応されるはずと言われながら、現実には対応されていない人たちです。
上記モデルにとって「想定外」の人たちだと言ってもいい。
(もちろん、本当はとうの昔に想定されるべきだったのですが)
ここまでで異論のある人はいないだろう。
問題はこの先で、社民党や共産党といった既存左派や、連合、厚労省といった既得権サイドの意見だと、「だから日本型雇用を規制で強化せよ」となる。

でもそんなことは現実には不可能で、不可能なことを強制しようとした「派遣3年で直接雇用ルール」は、派遣切りを拡大させてしまった。
というわけで、逆に日本型雇用自体にメスを入れろというのが、筆者や大方の経済学者、経団連の主流的な意見だ。ちなみに、日本同様に解雇規制の強いイタリアは、財政危機のさなかにも関わらず労働市場改革を強行しようとしている。

【以下・ロイターより引用】
見直しの対象となっているのは、労働法の第18条。企業側からは、第18条が働きぶりの悪い従業員の解雇を事実上不可能にし、新規の採用を阻み、生産性に打撃を与えているとの不満が出ている。若年層の就職難の原因ともされている。
イタリアでは18─24歳の30%以上が就職できていない。
(中略)低生産性、雇用低迷の悪循環を脱するためには硬直的な雇用の見直しが必須とされている。
内閣府参与に就任する前に湯浅氏と対談した際、彼は製造業派遣の原則禁止を含む派遣法再改正が持論で、明らかに前者のスタンスだった。ところが、今はどちらとも明言はせず、官民連携型の支援体制の構築を進めるべきだとまとめているにすぎない。

彼の在任中に成立した派遣法改正案から「製造業、登録型派遣の禁止」が除外されたことからみても、彼は少なくとも日本型雇用原理主義とは決別したとみるべきではないか。
(でなければ辞任の弁としてその点への批判を入れるはずだ)

さらに注目すべきは、彼の財源論に対するスタンスだ。
まず彼は、従来の認識について率直に甘さを認めている。

端的に言って、私は税の問題をもっと簡単に考えていました。
「なんとかしようとすれば、なんとかなるはずの課題」と。参与としての2年間は、それが「なんともならない」ことを知った2年間でもありました。その点で「なんとかなる」
と言って政権を取り、そうはならなかった民主党と同じです。


歳出の半分を借金で賄うという異常事態の中、「日本型雇用、日本型福祉社会モデル」の傘以外の社会保障を作ろうと思えば、新たな財源を作るしかない。
そこで彼は増税を提案する。所得税の累進性強化や資産課税、相続税引き上げ等と同様に、消費税については最大の文字数を割いた上でしっかり言及している。

ただし、消費税を頭から否定する必要はない。日本で消費税に反対する人も消費税率の高いヨーロッパ諸国をモデル視するように、「徴収した税を何に使うか」が問題であり、税と財政をトータルで考え、それによって所得再分配機能が強化されるかどうかで判断すべき。高所得者から徴収しても、徴収分を高所得者に使うのなら所得再分配機能は強化されない。逆も同じ。


今、負担を先送りし続ける中で、何が起こっているのか。

今のままでは「政府はどうなってもかまわないから、税を支払いたくない」という声が強く、その力関係の変わる兆しがなく、結果として政策的経費縮小の打撃を傘の外の人たちがもっとも強く受け続ける状態が続いてしまうことを、私は懸念しています。


少なくとも僕自身は読んでいて、特に違和感を感じる部分は無かった。


ここからは僕個人の意見なので、湯浅氏のコメント以外に関心の無い人は読まなくてよい。
氏とは何の関連もないし、かなりきついことも書いてある。

日本で左翼と呼ばれる人達は、ほぼ例外なく「日本型雇用死守、消費税引き上げ反対」を旗印としている。だがそれは、終身雇用に入れない人を排除することであり、排除された人へのセーフティネットをも否定することだ。

その意味では彼ら既存左派は、ほぼ例外なく小さな政府主義者と言っていい。
(自称“保守”の中にも大きな政府論者が紛れこんでいるから、質の悪さはお互い様だが)

日本が年3万人を越える自殺大国である直接的な原因は、効率的な市場も無ければ、非効率な大きな政府論者すらいない結果だろう。

狂信的な左翼脳の人達の中には、氏の現実的対応を“裏切り”だと猛批判している連中もいるようだが「とにかく俺は一円も負担したくない」というのは左翼ではなく、ただの醜いエゴイストだ。そしてそんな連中に「内部留保は現金なんです」なんて陰謀論を売りつけるのは、社会科学でも何でもなくて、ただの三文タブロイド紙に過ぎない。

少なくとも従来の日本には、社会科学としての左翼など存在しなかったのだろう。
健全な左翼というものがこの国にありうるとすれば、湯浅氏はその一人ではないか。

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