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ゴーン氏の拘留延長を続ける特捜部の意地

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■日産にスワップ取引の損失をかぶせた疑い

特捜が期待に応えてくれた。日本一の捜査機関として讃えられてきたその実力は、まだ廃れてはいない。事件は単純な虚偽記載事件から本筋の私的流用事件に大きく発展した。

今回の「ゴーン逮捕」を知った瞬間に感じたことである。

12月21日、東京地検特捜部が日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の3回目の逮捕に踏み切った。容疑は会社法違反の特別背任(特背)。日産に損害を与えた疑いがあるという実質犯である。

2018年12月20日、報道陣に囲まれて東京拘置所を出る日産自動車前会長カルロス・ゴーン容疑者の弁護人の大鶴基成弁護士(中央)(写真=時事通信フォト)

ここで今回の逮捕容疑の中身を説明しておこう。

特捜部の発表などによると、ゴーン氏は自身の資産管理会社と銀行との間でスワップ取引を契約して資産を運用していた。ちなみに外国為替取引で直物為替による売買と同時に反対の先物為替を同じ価格で売買するのがこのスワップ取引だ。デリバティブ(金融派生商品)取引のひとつである。

スワップ取引でゴーン氏に18億5000万円の評価損が発生した。2008年のリーマン・ショックの影響だった。この損失を穴埋めしようと、契約の権利そのものを資産管理会社から日産に移して損失を付け替え、日産に評価損を負担する義務を押させた疑いがある。まずこれが特捜部の指摘する特背容疑のひとつだ。

■「日産に損害は生じていない」と逮捕容疑を否認

この損失の付け替えを巡り、証券取引等監視委員会に違法性を指摘され、ゴーン氏は問題の契約権利を資産管理会社に戻した。この際、尽力してくれたサウジアラビアの知人の口座に、日産の連結子会社から計16億3000万円を入金させた。これが日産に損害を与えた特別背任容疑のもうひとつだと特捜部はみている。

泥棒が盗んだものを返したからといって窃盗の罪は消えない。これと同じように契約権利をもとに戻したからといって特背容疑はなくならない。

一連の報道によると、拘留が続くゴーン氏は損失の付け替え行為は認めながらも、「日産に損害は生じていない」と逮捕容疑を否認している。

知人への16億円についても「彼とは業務委託費契約を結んでいる。16億円はその業務委託費で、日産のために支払った」と供述している。

■特別背任は「形式犯」ではなく「実質犯」そのものだ

沙鴎一歩はこの連載でこれまで計3本、ゴーン氏に関する記事を書いた。そこで繰り返し主張したのは、「特捜なら実質犯での立件を目指せ」だった。

有価証券報告書に自らの役員報酬(8年で計90億円)を記載していなかったという金融商品取引法違反(虚偽記載)容疑は、日産に実質的な損害を直接与えるものではない。記載したか否かのいわゆる形式犯にすぎない。

その点、今回の特別背任容疑は日産に多額の損害を与えた可能性の高い実質犯である。

3本のうち、最新の12月17日付の記事では、同じ虚偽記載容疑での2回目の逮捕(12月10日)を受けて次のように書いた。

「もはや特捜部は衰退してしまったのか――。これが『ゴーン再逮捕』後の率直な感想である」

「再逮捕の容疑は最初の逮捕と同じ。しかも容疑事実の期間を単に延ばしただけだ。これでは国内外のメディアから批判を受けるのも当然だろう」

「『カルロス・ゴーン』という世界的なカリスマ経営者を刑事立件しようとする意気込みは認める。だが、いくら刑罰が倍に引き上げられたからと言って、再逮捕でまたもや報酬が記載されていないというだけの『形式犯』では実に情けない。追起訴で済むはずだ」

このときの記事のタイトルは「安倍首相のように批判を無視する特捜検察」だった。

■「海外メディアの批判にひるむな」と産経

ここでいつものように新聞各紙の社説を覗いてみると、逮捕翌日の産経新聞の社説(主張)=12月22日付=が気になった。

「東京地検特捜部が勝負に打って出たということだろう。法律違反の疑いがあれば、捜査に全力を尽くすのは当然である。海外メディアの批判などにひるむ必要はない」と書き出す。

まるで検察の応援団長のような書きぶりである。見出しも「ゴーン被告再逮捕」「批判恐れず全容の解明を」と特捜部を励ます。「偏った海外の声などには耳を貸す必要などない」と露骨に訴えているようにも受け取れる。

沙鴎一歩の目から見ると、その訴えに余裕や幅、寛容さというものが感じられない。そこが産経社説の大きな落とし穴なのだ。愛読者として実に悲しい。

■木で鼻をくくる記者会見はやめるべきだ

産経社説はその後半で「特捜部には今後も、法と証拠に基づく適正な捜査で全容の解明に努めてほしい。それは、海外メディアの批判にも耐えうるものである必要がある」と主張する。

これは正論である。

検察の記者会見にしても欧米の海外メディアの記者たちに対し、木で鼻をくくるように「適正な司法審査を経ている」(久木元伸・東京地検次席検事)と繰り返すのではなく、捜査や今後の公判に支障が生じない範囲できちんと説明すべきである。記者の背後には多くの読者や視聴者、私たち国民がいることを忘れないでほしい。

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