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中国人に乗っ取られた極北のレストラン 大氷河・美食・氷山・白夜観察のグリーンランド旅行記 - 立花 聡 (エリス・コンサルティング代表・法学博士)

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空のバンコク経由便でまずコペンハーゲンに立ち寄り、そこからはアイスランド航空に乗り換え、アイスランドの首都レイキャヴィークに入る。前々から北欧の高い労働生産性に興味があって、視察と研究に取り組んできた。ノルウェーとフィンランドに続き、今回は8日間の短い日程でデンマークとアイスランドの2カ国を回った。

アイスランドから、その先は北極圏のグリーンランドを目指す。早朝6時40分。レイキャヴィーク発のグリーンランド航空GL717便で、イルリサットへ向かう。使用機材は、デ・ハビランド・カナダDHC-8の双発ターボプロップ旅客機。30席強の小型機だが、搭乗客の半分以上は中国人観光客。

現地時間6時30分頃、グリーンランドの東海岸線にさしかかると、いきなり3000メートル級の山々が視界に入る。8時、定刻よりやや遅れて、機体がグリーンランドのイルリサット空港に着陸。空港というよりも、小さすぎてバス停のような施設である。

イルリサット空港に到着(写真:筆者提供)

北極圏、グリーンランドの大氷河。世界遺産イルリサット・アイスフィヨルド(Ilulissat Icefjord)の外観を全貌的に見るには、ヘリコプターかトレッキングしかない。楽なのは、ヘリコプターだが、ただあのエンジン音で氷河の静寂が抹殺されてしまうので、まずは選択肢から外された。

トレッキングだ。私の一番不得意な山歩きしかない。イルリサットの街から少々外れた郊外に、赤と黄色と青の3つのトレッキング・コース(地図上の表示)がある。歩く距離にしては、赤が短、黄が中、青が長になっている。赤コースは短すぎて物足りなさが残りそうだ。青コースは一部ウッドデッキが敷かれており歩きやすいが、後半は単調な景色になってしまい、また所要時間が長すぎるのもネックだった。そこで消去法的に残された選択肢は黄色コース。

「絶景」という言葉をいままで如何に無節操に濫用してきたか、イルリサット・アイスフィヨルドを眼前にして痛いほど思い知らされる。地球の最北に、大自然が見せつけてくれるその偉大さ。言葉も出ない。

イルリサット・アイスフィヨルド(写真:筆者提供)

風の流れる音が一瞬止むと、地球という星に存在する本来の静寂が空間のすべてを占領し、「無」を意識させる。人工的な要素がすべて排除されたとき、人間の心は原初的な状態に戻る。その瞬間に生まれる思考停止は、あらゆる感情や本能や観念を奪い去る。この瞬間を体験するために、最北の地にやってきたのだ。人間と自然の対話など到底あり得ないことを思い知らされる瞬間でもあった。畏怖の念しか持ち得ない。

トレッキング中には時々、このような放心状態の時間を楽しみながら、先へ進んでいく。黄色コースは所々難所があってきつい。道らしい道がなく、足元は常に岩場。アップダウンの激しい岩山を2つほど越えると、かなり体力を消耗していた。外気温度は摂氏10度程度だが、シャツ姿でちょうど心地よい。

2時間半ほどかけてコースを踏破。途中で出会うのは少数の白人以外にすべて中国人ツアー客。この時代はイルリサットまで中国人が浸透しているのである。

イルリサット・アイスフィヨルドはどのような世界遺産なのか、まずは世界遺産登録基準を引用すると分かりやすい――。

“(7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。(8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる”

グリーンランドの約80%以上が北極圏の氷床と万年雪に覆われている氷の世界であり、まさにアイスランドよりも、本物の「アイスランド」である。「イルリサット」という街の名前も、グリーンランド語では「氷塊」を意味する。北半球で最も多くの氷山が生まれるフィヨルドとして知られている。

“イルリサットの氷河は1日あたり20~35mも流動し、年間200億トンの氷の流量がある。氷河より海に流出した氷塊は、砕けて様々な大きさの氷山となるが、氷山のサイズによっては浅海底に接触しその場に留まるものもある。外海に流出した氷山は、海流により一時北方向に運ばれた後に南へ方向を転じ、大西洋へ流出する”(ウィキペディアより引用)

さらにいうと、あのタイタニック号と衝突し、豪華客船を沈没させた氷山も、ここから大西洋へ流出したものだったと言われている。

北極圏に住む日本人と鯨料理

北極圏のグリーンランドには、たった3人の日本人が住んでいる。私は偶然の機会で、そのうちの1人に出会った。

イルリサットの街で昼食を取ろうと入ったレストラン「イヌイット・カフェ(Inuit Cafe)」。笑顔で迎えてくれたのはなんと日本人だった。まったく予想もしなかった出来事、思わず記念写真の撮影を求めた。

グリーンランドに住む日本人ヨウコさんと筆者(写真:筆者提供)

ヨウコさんはデンマーク本土住まいだったが、数年前からグリーンランドに移住し、いまはイルリサットの街で働き、暮らしている。それにしてもグリーンランドにやってくる日本人旅行者、特に私のような個人旅行者もまた珍しいと、ヨウコさんも驚いた。

日本人客とわかると、すぐに鯨料理を薦められた。鯨ステーキにご飯を添えてくれるのがあり難い。もうパン食の連続で、ご飯への恋しさが募るところだった。鯨肉の味もまた素晴らしく、ソースをご飯にかけて頬張った。

鯨料理(写真:筆者提供)

北極圏のグリーンランドでの捕鯨は、「原住民生存捕鯨」として一定の捕鯨が国際捕鯨委員会(IWC)に認められているようだ。後日談になるが、ちょうど数日前、日本政府が商業捕鯨を再開するためIWCを脱退する方針を固めたと報じられた。この辺は文化や価値観の相違で世界で論戦を繰り広げても収束ができないだろう。私はグローバリゼーションは一種の理想あるいは幻想だと思っている。過剰なルールの一元化を求めることが、かえって色々な紛争を生み出す原因の1つにもなっている。

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