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「あなた」に向けてしゃべっています−小島慶子インタビュー

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ラジオを一休みする理由

−アクセスをやられて、評価もよく(ギャラクシー賞受賞など)、キラ☆キラに移られても人気で、今回一区切りつけようと思われたのはなぜですか?

小島:1月26日の放送の中でお話したことですけど、2011年が大きかったです。3月11日に生放送中に揺れて・・・私は地震が大嫌いなので、今このビル(インタビューの現場がビルの24F)にいるのもすごく怖いんですけど(笑)

とても怖かったんだけど、今、私はある程度近代的なビルの中にいて、スタッフが周りで全部私を守ってくれていて、このビルには自家発電も備蓄もあるのも知っていてそれで喋っててこれだけ怖いんだから、家で1人で聴いている人はどれだけ怖いんだろうと思ったんです。一緒に助かりたかった。知らない人だけど。「あなたと一緒に助かりたい」って思って、喋ってたんだって言うことが、本当に、本当にそれが強烈な印象として残ったんですね。

あの時私は誰に向かって喋ってたのか。保育園や学校にいる息子は私のラジオを聴いていない、職場にいる夫は私のラジオを聴いていない。でも、私のラジオを聴いてる人は今私と一緒にいる。一緒にいる人に死んで欲しくない。だからそこにいるあなたと一緒に助かりたいということで私は喋った。でも決してそのときに、私の放送を聴いている何十万人のあなたたちに、みなさま一緒に助かりましょうと呼びかける意識ではなかった。誰か知らないけど、とにかくあなた、ラジオの前で「怖いよお!って」同じようにブルブル震えているあなたと一緒に助かりたいと言うことだったんですよね。

で、その経験があった後、私に何が喋れるかなあ、何の専門家でもないし、ジャーナリストでもないしって思って、震災後しばらく何を喋ろうか考えた。TBSという放送局が出す情報は、きちんと伝えることが大事ですけど、同時に、世の中にはいろんな情報があふれていて、いまどれが信じるべき情報かみんなわからなくなっているのも現状。だけどね、私の場合は、この情報を選んだよ、なんでこの情報を選んだかというと、こういう動機があるからだよ、私にとっては、生活の最優先事項はこれだからだよっていう、「私の場合どうだったか」っていうことをずっと話しました。

何でかって言うと、それしか私に責任の取れる言葉がなかったから。東京の水に1歳未満の子供が飲めない放射性物質が含まれているのがわかったとき、息子たちは5歳と8歳でした。もちろん親としてはできれば飲ませたくなくて、でもミネラルウォーター買い占めちゃうと近所の赤ちゃんが飲むものなくなっちゃうし、どうすればいいんだろう。逃げていく田舎も無い。疎開できない。で、私は考えました、何より、子供にはご飯を食べさせなきゃいけない。食べさせなないと死ぬから。水を飲ませなきゃいけない、飲ませないと脱水症状で死ぬから。一番大事なのは子供が死なないこと。子供が今、死なないようにすること。だから私は、その水を長期間飲み続けなければ健康被害は少ないだろう、という情報を選択しました。

そして、ダシをとりながら、放射性物質も一緒に入っているんだなと思いながらお味噌汁を作り、そして子供たちと一緒に食べましたと、何とも言えない気持ちでした。でもいまこの場所で子供と一緒に明日を生き延びることが最優先事項だから、その情報を選択し、行動したんです、それはあなたの選択とは違うかもしれないし、あなたの最優先事項とは違うかもしれない、もし私に生まれたての赤ちゃんがいたら、仕事を休んでホテルを取ってでも疎開したかもしれない。そんな人がいたとしても何も不思議に思わない。たまたまその人と私は状況が違ったということです。そんな、何を選択し、どう行動するかは、自分にしか決められないんだと実感した、という話をしてました。ずーーっと。

だから、この学者を出演させるなんて、この番組は「御用学者」の肩を持つのかとか、あんなやつを出すなんて「デマ野郎」の肩を持つのかなんていろんな意見があったけれども、それはスタッフが考えた末に判断したことだし、まず、いろんな立場の人の話を聞くと言うことを大事にしました。私がいくつかの情報に触れた時に、信用できるかどうかを判断する基準は、その発信者が身元を明らかにしており、自分のキャリアに基づいて、一貫して「人の命を助けよう」という善意に基づいて、しかも批判を受けるリスクを犯しつつ、誠実に情報を出し続けている人かどうかということです。そういう人は何人かいました。何人かいますけど、その何人かの意見が違うこともありました。その結果私は、じゃあ、自分の生活の優先順位に照らして、そのどれを取るかって事を、私が決めるしかないなって思いました。

で、後々、そのデータって正確じゃなかったなとか、後になってみたら違う結果が明らかになってきたというリスクは引き受けるしかないと思いましたね。

でもその経験がとても印象深くて。私が喋れることって私が実際に感じたり、体験したりした事でしかない。ということは、私の話を聞く人も、実際にその人が経験したり、感じたりしたことに照らして、私の話を聞く、そういう環境であろうと。

もちろん、私はその人たちが何を経験したのか、何を感じているかはわからない。たとえその人が20歳の学生さんとか、70歳の引退したおじいさんということがわかったとしても、だからってその人が何を経験して何を感じているかはわからないじゃない?

永遠にこれは分からないものなんだ、だったら私は1サンプルとして、自分の体験を「あなた」に向かって、その「あなた」はもしかしたらいないかもしれなくても、話すしかないんだなと思ったんです。誰も聞いていない日もあるかもしれないから、「あなた」は0人かもしれないし、50万人聞いていても、私が「あなた」って言って、「うん、私ね」って言ってくれるひとは3人もいないかもしれない、だけどどっかに「あなた」って人はいるはずで、たまたまお互いに知らないはずの体験や、あるいは感情というものを共有できたねとか、ああ、同じだねとか、ああ、面白いねとかって、思い合える人がいるのではないかって事にのみ私は、メディアの希望というものを持っているのだなって。3月11日を境に、ずっと喋り続けながら、それがとても強い思いになって行ったんですね。そういう一年でした。

その1年に沢山の人が私のところにインタビューに来て下さって、有難かった。まずは災害のときにラジオがいかに情報源として役に立ったかということへの注目。もう一つはラジオというものがいかに人が不安になっているときに、その人に寄り添うものであるか、その距離感、ラジオならではの距離感についてのインタビュー。

そしてもう一つは、やはりこうやってさかんに「絆」とか「つながり」とか言われているけれども、元々地震よりも前から言われていた人間関係の希薄さだとか、共同体の解体と再構築とか、そういうテーマについて、「人が繋がるってどういうことだと思いますか?その答えがラジオの中にある気がするんです」って沢山の沢山の真剣なインタビュアーが私のところにいらしてくださったんですね。

彼らの熱意あるインタビューに何度も答えながら、私なりに達した結論と言うのは、それはまぼろしかもしれないってこと。共同体も、友情も、親子の愛も全てまぼろしかもしれない。マスメディアにいると、いつもこれはまぼろしかもというのは感じることですけど、生身の人間関係だってそれはまぼろしかもしれない。しかし、そのまぼろしの中に、やっぱり人間って信じあえるものなんじゃないかとか、やっぱり世の中ってあたたかいものなんじゃないか、と一瞬でも確かに感じることがあるのも事実で。

そう感じたなら、それはやっぱり他人に証明できなくてもそれは自分にとって本当のことだと思う。万人に証明もできないし、感動的な商品にもならないような「ほんとうのこと」がないと人は生きていけないって事が、私が2011年を通じて、様々な人とお話をしながら、たどり着いた答えだったんですね。

そんな2011年、番組側の方と事あるごとにお話をするたびに、今ラジオに注目があつまっているから、欲しいターゲットに向けてぜひ注目を集める喋りをしてくれっていうお話があって。去年じゃなければ、ああ、まあそういうこともあるかもしれないから、喋り方を変えることはできないけれど、広告の打ち方を工夫して、テーマの設定の仕方も工夫してくださいねってみたいな話し合いで、なんとかお茶を濁して、まあ、自分は好きなように喋ればいいやとかって思えたのかもしれないんですけど。

この年に、かつて無いほどの誠実な視線がラジオに向けられているときに、そこで出した答えが、商売のチャンスだから今聞いてない人を取り込むしゃべりをしてくれ、っていう事だったんだ・・・っていうのは、埋めがたい溝だったんですよ、私にとっては。

でもそれは放送局にとっては常識だと思う。だから放送局の人が間違っているとは言わない。それが放送局のビジネスだと思います。だけど、たまたまその年のタイミングで私の出した答えと、放送局の出した答えが、言ってしまえば正反対だった。ベクトルも価値の見出し方も、手法も、正反対だったことが、やっぱりショックでした。

別に彼らは、今聞いているリスナーを捨てろとはもちろん言ってないんですよ。だけど、今聞いているリスナーのほかに、まだ番組を聴いてない人、ラジオを聴いてない人が注目するような喋りをしてくださいと。でもちょっとまって、ラジオの前にいるのは、今聞いている人よって。目の前の人に向かって、そこにいない人の受けを狙うことを考えて喋るってことは、話しかけている人の肩越しに自分の目当ての人を探すようなもの・・・放送でも言いましたけど、私はそんなパーティでのあざとい会話みたいなことは放送という場を使ってしたくない。

だって私がラジオを聴いていた時には、私に話しかけてくれてると思って聴いてたもん。それで毎晩、どんなに学校や家がつまらなくても、三宅さん(三宅裕司のヤングパラダイス)は私を笑わせてくれるんだなって思ってて、三宅さんに会った時にそれを話したら、三宅さんが「あ、そう、今までよく頑張ったね」って言って下さって。そのとき思わず泣いちゃいましたからね。だから、私がどんなつもりで喋ろうが、そういうつもりで聴いている人は必ずいるはずで、それがいるかいないかわからないけど、きっといるんじゃないかって私が信じている「あなた」なんですよ。だから私はその「あなた」と話をしたい。「あなた」も私も不安な2011年だからこそ、そう思いました。その2011年に、今がチャンスだから、まだ聴いていない誰かに気に入ってもらえるような、正確に言うと放送局がデータとして欲しい層にウケる「喋り方」をしてくださいと言われても、どうしても受け入れ難かった。

放送局の「ほしい層」が食いつかないような生真面目な話題を喋らないでくださいとか、『つなみ』という文集のこどもの作文の朗読では「ほしい層」は退屈でダイヤルを合わせません、と番組側から言われたときに、ああ、これはもう無理だ、と思いました。

そうかもしれないね、ふとラジオをつけた時に、爆笑トークや、自分好みの話題が聴けなければ、ラジオになじみが薄い人はチャンネルを変えるかもしれない。でも、その時聴いている人の中で、何人かは、今日この本紹介してもらえてよかったって思ってくれるかもしれない。実際にそういう反応をたくさん頂くんです。ああ、マイクを通さない実人生で、いったい死ぬまでの間に何人の人が、「あなたの話きいてよかったわ」って言ってくれるだろうか?何人もいないですよ。

だったら今日の放送の中で、1人でも2人でもその話をしてくれてありがとうって言ってくれる人がいるんだったら、それは私にとって、値段がつけられないし、数値化できないし、価値って言うものはそういうものなんです。私にとって。無二のものと、数値化できるものと、2011年、あの局面でどちらをとるか。そこで決定的に番組側と価値観が違ってしまった。どっちが悪いとかではなく「違ってしまった」んです。

だから私は「そうであれば、私ではない喋り手さんを呼んでくるべきだと思う。そのターゲットの認知度が高くて、人気のある人をつれてくるべきだと思う」という話をしました。番組側は、いえ、小島さんにそういう喋り方をしてもらいたいんだと言う。余計な話はしないで、テンポよくやってくれればそれでいいですと、オープニングトークの時間を削られたり。やだ、って戻したんですけど。それが繰り返された1年でした。これだけ繰り返してもやっぱり埋まらないものだったら、TBSさんの持ち物である「キラ☆キラ」という番組において、私が喋り手としてできることは終わったんだと判断して降板を決めたんです。

でも別にラジオそのものに絶望したわけでもないし、ラジオだけが真実を伝えるわけでもないし、番組っていつもいろんな理由で終わるものですから、まあ、いろんなことをおっしゃる方もいらっしゃいますけど、私が責任もって説明できることは、私はそう考えたってことだけです。きっと放送局には放送局の言い分があると思いますから。



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