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弁護士 久保利英明氏 第五回経済戦略構想セミナー全編書き起こしです。

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硬派経済ジャーナリスト磯山友幸さん主催の第五回経済戦略構想セミナーが開催されました。
今回の講師は弁護士の久保利英明氏。日本の政治機能不全、オリンパスや大王製紙問題、さらには東電問題。バラバラに見えるこれらの問題の根っこは同じでガバナンスの仕組みを理解していないことに根源的な問題があるそうです。 
講演動画全編は下記 http://www.tokyopressclub.com/2012/03/blog-post_07.html

日本崩壊の原因はガバナンスの崩壊


■ガバナンスがない日本国
今、この国と、この国民全体が、間違いと言いますか、大変な状況にあるのではないか、と思っています。そのすべての原点が、実は「ガバナンス」ということを考えていない、ということです。「ガバナンス」※というのは、他人がやってくれる話ではなくて、自分が「ガバナンスをやるぞ」という思いが必要なのです。
※「ガバナンス」一般的に組織や社会に関与するメンバーが主体的に関与を行なう、意思決定、合意形成のシステムのこと。

そういう意味で、企業においてはこれまで散々問われてきましたが、「国はどうなっている?」と考えると、実は「一人一票の格差がある」「一人一票等価値とは言えない」となっています。

これは企業よりももっとひどいガバナンスであり、例えば株主総会で、一株、一単元株持っている人が、一票持っていないということと同じことで、あり得ないことです。黄金株という特別なものはありますけれど、これは全部定款に書かなければなりません。ということは、国に置き換えるならば憲法に書かなければいけないことになります。

アメリカでは、上院議員の場合は「どんなに小さな州であっても二人選びますよ」ということが憲法に書いてありますから、各州で選ばれる議員数が人口比になっていなくてもいいわけです。

日本では、憲法でまさに「国民が選ぶ」ということになっているにもかかわらず、その国民には等価値の投票権は与えられていない状態であり、現状もまったく正されていないのです。

この「一票の格差」について争われた裁判において、最高裁判所の判断は「選挙は無効」とは言ってはいません。しかし、少数意見では一人だけ、宮川判事(2012年2月退官)が「『今度は無効にするぞ』ということまで書くべきだ」という反対意見を書きましたが、単独少数意見で終わってしまいました。その結果、次の選挙でも無効にはしないのだろう、という風潮になり、国会での論議も動きが悪い状態です。

私は、ちょうど二十年位前から企業のガバナンス、コーポレートガバナンスということを言ってきました。しかし、いくらコーポレートガバナンスがないと言っても、株主総会で一単元持っている株主に、一票をやらないという、そんな企業は滅多にありません。まず日本では、ほとんどない。そう考えると、国のほうがひどい、という気持ちになるわけです。

企業においては、本来「主権在株主」というものであったのが、実態は、株主総会が情報開示もなければ、一人ひとりの株主が本当に真面目に考えて役員選任をしないということから、「主権在社長」というような企業になっていきます。
国においては、「主権在官」ということになっていて、「主権在民」というのはどこかに行ってしまい、その意味で、日本及び日本人、日本国並びに日本企業、その全体が「ガバナンスがない」というのが、今の諸悪の原因なのではないだろうかと思っています。

■主体性のない日本人
企業法務をやってきた私が、たまたま「一人一票」、この重さの違いというものを突き詰めていくと、国家ガバナンスの問題というふうに考えました。そうすると、それはむしろ国家が、企業が、という問題より、日本人が悪いのではないかとところに行きつきます。
日本人の主体性のなさ、自分が中心になって何かをやっていくという動きがないこと、これが本当は原因ではないかと思うのです。

今の日本人には会社(国家)における主権者意識というものがまったくなく、そして選ばれた取締役(議員)たちも、内部者の慣れ合いであり、その慣れ合いにもたれ合っています。すなわち、自立した市民精神というものが、今の日本に欠けているのではないかと思うのです。

振り返ってみれば、明治時代、日本の人口はわずか三○○○万人でありました。その三○○○万人の中で、中村正直が訳した『西国立志編(セルフ・ヘルプ)』が一○○万部売れています。福沢諭吉の『学問のすゝめ』は三○○万部売れました。当時十人に一人が『学問のすゝめ』を読んでいたことになります。しかし、例えば磯山友幸さん(経済ジャーナリスト)が「現代ビジネス」というインターネット雑誌で書かれているコーナーの読書率が三○万人といいますが、一億二五○○万人もいて、たった三○万にしか読まれない。そういう国なのです。ということは、「この国の国民は劣化しているよね」という感じがしました。

■ガバナンスとマネジメントの役割分担
もう一つの原因は、ガバナンスの問題を考えていく上で、誰が監視・監督者であり、誰が業務執行を行う人か、この役割分担というものについて理解していないということもあると思います。
次のページをご覧ください。この図は大きく言えばガバナンスの図ですが、狭い意味で言いますと、上の赤い逆三角形、これがガバナンスです。コーポレートガバナンスで一番問題になるのは、この逆三角形の部分です。一方で下の青い三角形の部分がマネジメント、すなわち業務執行ということになります。
上に立っている赤い逆三角形の一番下の尖がった部分は、圧力がギリギリとかかってきます。そこにいるのが代表取締役社長であって、ガバナンスにおいては「一番苛められる係」になります。

どういうことかと言いますと、株主が一番上にいます。株主から取締役や監査役が選ばれて、その人たちが代表取締役に対して「こうするんだよ」と言い、まさにガバナンスを上からやっていくわけです。この人たちは所有者ですから上から目線でいいわけです。そうする権利がある。すると代表取締役社長は「分かりました。ではこのガバナンスの中でやっていきましょう」ということになり、下の青い三角形のほうで業務執行取締役に「こうやれ」、執行役員に「こうやれ」、部長に「やれ」、課長に「やれ」、社員に「やれ」……というように言っていくことになります。これはマネジメントの部分です。

この図の意味が日本人は分かっていないのではないかと思うのです。そして、これが国家だったらどうなるのでしょうか。国民が一番上にいて、国会議員を選び、国会議員が首相を選びます。首相はこの図で言うならば、代表取締役社長のところに位置することになり、これが内閣というものをつくって行政を行います。したがって、下の三角形は行政になるわけです。本来はそういうスキームであるはずなのですが、そうなっていない。

また、会社においてまったく取締役のガバナンスが効かない状態というのは、株主に選ばれた社内取締役や業務執行取締役が、同時に下の青い三角形の中では、社長の家来の業務執行取締役になっているからです。そうすると、マネジメント部分では代表取締役の家来である人が、ガバナンスでは突然偉そうに言えるでしょうか? 普通の人間はなかなかできません。しかし、日本のガバナンスシステムは、そうなっています。だから、「社外の人をたくさん入れましょう」ということになるわけです。

社外取締役は業務執行しませんから、これはマネジメントの取締役とは同一人物ではないわけです。社外取締役をたくさん入れて、兼務する人はできるだけ少なくしよう。それがアメリカ型であり、業務執行取締役の長である代表取締役社長というのはCEOとしてマネジメントに入っていきます。COOまで入る会社もありますが、大抵二人ぐらいです。
そういう中で同一人物が上にいってみたり、下にいってみたりという、ナンセンスなことは止めるというのが、ガバナンス改革であったはずなのですが、それがまったくできていません。この二つの三角形の組み合わせというのをしみじみと見ると、日本のガバナンスが効くわけがないのです。

日本の政治のガバナンスというのは、本来ならば、この株主というのを国民と置き換え、社外取締役などを国会議員と置き換えれば、絶対に効くはずなのですが、今それが効いていない。

その理由は、会社のガバナンスとは違う理由があるのではないかと思い、最近話題のいくつかの事件を見直してみたところ、おおよそ見えてきた実態があります。
東京電力の問題、オリンパスの問題、大王製紙の問題。これを取り上げ、最後に国のガバナンスに触れ、「主権在民」ではなく「主権在官」になってしまった理由は何なのかを紹介していきます。

ガバナンスがなかった東電・オリンパス・大王製紙


■日本人と日本
オリンパスの元CEOであるウッドフォード氏に会い、お話を聞いたことがあります。
彼は大変日本人が好きで、「自分は実は生粋のイギリス人ではなく、おじいさんは(お父さんもそうかもしれませんが)マレーシア人だ」と言いました。彼はマレーシアで生まれ育ち、その時にいつもお祖父さんから聞いていたのが、「日本の軍隊のトップの人たちは立派だ」ということだそうです。お祖父さんは、そのトップの人から貰った日本刀を持っていて、「日本人というのは、いざという時、これで腹を切るのだ。シンガポールで虐殺をしたとか言われたけれども、そんな人種ではないのだ」ということを一生懸命語ってくれたため、彼は日本人をすごく尊敬していたということでした。

だから彼がイギリスで勤めていた会社が、日本のオリンパスに買収されても辞めませんでした。「日本人が上司になってくれるのはむしろ良いことだ」と思い、日本企業のために粉骨砕身働いてきて、彼は二○一一年の四月に社長になります。ところが、十月一日にCEOになった時に、「思いきりドラスティックにやりたい」と考えていたところに、偶然あの情報が入ってきて、「これは何なんだ」と誰に聞いても、「お前は知らなくていいことだ、関係ない」と言われたそうです。いろんな人に聞いても、誰も教えてくれない。

企業として非常に重要なことなのに、誰も関わろうとしないことに業を煮やした彼は、「あなたは一体何のために働いているのだ」と聞きました。彼としては「オリンパスの会社のためだ」、「日本のためだ」、「オリンパスの株主のためだ」などの答えを期待していたところ、「菊川のために働いている」と言われてしまったそうです。
そのとき彼は、これまで抱いてきた日本人に対するイメージとは違う人種ということを理解すると同時に、もっと正々堂々として、いざという時に腹を切るという、それが日本人だと思い尊敬してやってきた結果、「そんなものなのか」と愕然としたそうです。
そして、彼はクビになってしまいます。しかし調査をさせたところ、その結果はやはりおかしいという結論が出てきてしまった。

「自分としては黙っているわけにはいかない。もしそこで、唯々諾々としていれば、それは彼らと同じになってしまう。菊川氏のために働く雇われの外国人に過ぎず、それでは自分の名誉というものはなくなってしまう。第一そんなことを続けていても長続きするはずがなく、必ず捕まるだろう」
ということを、彼は僕の眼をじっと見て言うわけです。「なんとかして、こいつを社長に戻らせてあげたいな」と思いました。
それから彼は一生懸命に日本の機関投資家たちのもとへ出向き、臨時総会に株主としての提案権を出したいので、その時に同意してくれるか、という話をして回ります。

私には、そういう状況になった時に、社外取締役としてオリンパスの社員になることを同意してくれるか、という質問がありました。私は、外国人株主だけの同意でやって、みすみす負けるというのなら、ちょっと考えさせてくれと言い、しかし日本の投資家も含めて、本当に株主の立場の人たちが、オリンパスの経営陣とは別に何かをしたい、こういう風にやりたい、というのなら喜んで名前を出すと申し上げました。

彼は随分努力をしたようですが、とても提案権を行使して勝てるような票数は集まりませんでした。基本的には外国人系の投資ファンドしか集まらなかったのです。最終的には、海外の投資家ができたことは、日本人二人を社外取締役として経営陣に入れることで、それ以上はできなかったというのが実態です。

そういうことを考えていくと、ウッドフォード氏が評価してくれた日本人の魂や大義、公器というものは何なのか? 会社は社会の公器なのだということ、まして国は公器そのものであり、それに対して日本人は、何をしてきたのか? 何をしようとしているのか? それがまったく見えず、これもすべてガバナンスの問題ではないのか、と思うように至りました。

まさに、ウッドフォード氏に「たった一人の反乱」をさせて、見殺しにしたという結果になってしまいました。日本人が問われて、日本人は甲斐がない存在だということをウッドフォード氏は感じて日本から去って行きました。このことは、当然多くの海外の投資家も感じることで、「日本という国はちゃんとしないな」ということになっていくのではないかと思います。

今、日本の証券市場についていろいろ言われていますが、果たして、証券マーケット、企業だけの問題なのでしょうか。もはやその段階ではなく、「日本をまともに相手にするには、いささか変な国すぎやしないか?」と世界から見放されるのではないかという危惧を抱いています。
私が思っているのは、東電の社長が無礼だったとか、そういう問題ではなく、この国はこのままだったら絶対に崩壊してしまうということです。しかも国民が一億二五○○万人いる国ですから、数十万人の国とは違い、鎖国をしても生きていけるということはあり得ないのです。ということは、もう一度変えなければならない。そのためにはガバナンスを本気で考え直して、それを国民一人一人が背負うような国にしていかなければ、とても持たないと思います。そう考え、東電、オリンパス、大王製紙のケースを見ると、やはり改善すべきガバナンスの問題が見えてくると思います。

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