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「イスラム国」紛争被害者の実録が読むほどに重い『THE LAST GIRL』の衝撃

ご縁あって、ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドさんの自伝『THE LAST GIRL』の私の書評が東洋経済オンラインに掲載されました。


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 本件でむつかしいのは「イスラム国(ISIS)と言っても、その衝撃は伝えられても体感としてはなかなか日本人には伝わらない」ことであり、ナディアさんのような北イラクに住んでいたクルド人、それも、地場の少数宗教であるヤズィーディー教の苦難となるとまったく想像の果てにあるんじゃないか、という点です。

 イスラム国の勃興については衝撃的にとらえられ、池内恵さんの『イスラーム国の衝撃 (文春新書)』や黒井文太郎さんの『イスラム国の正体 (ベスト新書)』なども事情や概要を知るには素晴らしかったわけですが、この『The LAST GIRL』は実際にイスラム国に襲撃を受け、親族を目の前で殺され、性的虐待を受け、改宗を迫られて、薄い縁で命を繋いで逃げてきた被害者の側からの体験談として、重すぎる事実が淡々と語られるあたりに綺麗事では済まされない紛争地域の現実を思い知ることになるわけです。

 この書籍の受け止め方はさまざまでしょうが、おりしもシリアからの撤退を勝手に決めたトランプ大統領と、それに愛想をつかす形で辞任が発表されたマティス国防長官の報道を見る限りは、この中東の問題がもちろん現在進行形のものであり、また、大国の思惑によって翻弄される中東の人々の図式もまた鮮明に感じられるように思います。

マティス米国防長官が2月退任、シリアなど軍事戦略転換のさなか https://jp.wsj.com/articles/SB10956990367541264051804585011922622369404

 決して入門書ではなく、被害者の体験談から大きな物事、出来事を下から眺めるという形なので、読んでいて興味深くはあっても爽快感もなければ充足も覚えないリアルな紛争地域の被害者、それもとても運がよく生き延びて事実を語ることができた人の話であることは理解する必要があります。その背後には、平和な暮らしを奪われるどころか命すら失った多くの犠牲者がいることを忘れてはいけません。

 そして、突き付けられるものは「じゃあ日本人であるあなたはどう感じましたか」「何ができると思いますか」という陳腐な話だけではなく、私たちが望む平和、安心というのはそもそも何でしたっけという根源的な問いです。単に平和ボケだという話ですらないことは本書を読めば何となく体感できると思います。

 日本で生まれ、日本で暮らしている人にとって、私も含め100%ナディアさんの体験を理解し、すべてに共感することはなかなか困難です。ただし、起きた犯罪を正面から見つめ、その凄惨な体験から、平和を実現するための教訓を得ることはできるかもしれません。ライトノベルやファンタジーの異世界では到底起き得ない本当の紛争の現実がそこにあることに関心を持ちそれを知るだけでも、本書は充分に価値のある書籍です。

 ご関心のある方はぜひ。

THE LAST GIRLーイスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語―

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